政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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フラン様の過去

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フラン様一行から離れるとアリ殿下は私の腰を支えていた腕から少し力を抜いて、
「すまない、怖がらせたか?」と囁いた。

私はあまりの怖さにアリ殿下の胸元に顔を埋めて服をガッチリと掴んでいたようだ。体が震えている。

「なぜあのようなことを?」
咎める事は出来ないけれど、要らないケンカをふっかけたのは殿下の方だ。
「不仲とは聞いていたが、これほどとは思わなかった。」
フラン様は私のことには一切触れなかった。つまり無視したのだ。
私はエリールの民で、今は形式的にとはいえ親子なのに。
一方で私は恐怖で震えてしまっている。
驚くのも無理はないかも。

「リーンの養母として来るのならばこんなことはしなかったものを。」
忌々しさを隠そうともせずに殿下は言葉を吐きだす。

こんな殿下は初めて見る。

ひとつ大きく息を吐き出した。息をするのも忘れてしまいそうだった。
「すみません。」
と謝った。
「なぜリーンが謝る?」
「フラン様の気持ちがわからないでもありません。」
「何故?」

無視ならまだマシだ。
侮蔑の言葉を嵐のように注がれたことも、頬を叩かれたことも一度や二度ではない。
産まれる前には母と共に殺されかけた事もあったと聞く。
アイリスとリーンのいる場に伯爵夫人を来させてはならない、伯爵夫人のいる場にアイリとリーンを出してはならない、というのはエリールでの常識だった。
幸いフラン様は王宮に滞在し、あまり領地には来なかった。

コンラン家には2つの顔がある。
ひとつはニルス国エリール領の領主。
もうひとつはウッドバーン諸島国、ザイモック首長。持ち回りでウッドバーン総首長になる事もある。

フラン様はある国の首長に嫁いだともみれるが、夫が大半を過ごすニルスでは伯爵家にしか過ぎない格差婚でもある。フラン様もまたコンラン家をニルスに留めおく為に政略結婚を強いられたのだ。

元々エリール領地の民はニルス国や王族に対してあまり良い感情は持っていない。
その上伯爵夫人はほとんどを王都やお城で暮らし、王妹殿下として振る舞われることも多くて、領地では人気がない。
そういったことが更に拍車を掛けてフラン様をエリールから遠ざけている。
兄様でさえ母親を疎んじている。

「夫人の耳に入れるまでもないこと」は実は沢山ある。否、あえて夫人には伝えないのだ。
領民は未だにフラン様をニルスの手先としてみなし、エリール領主夫人として認めていない。

子供の頃から、私や母に冷たく当たるフラン様が只々怖く、苦手だった。
しかし年を重ねるに連れて、私にも色々な事情が見えてくる。するとレイン様もフラン様も苦しんでいる、そう思えるようになった。

望まれない政略結婚は王妹殿下の心に棘を、レイン様と母との事が鬼を住まわせたのだと。

せめてもの寵愛をー。そう望んでいたとしても、レイン様は母が懐妊した時、お腹の子は自身の子だと訴え出た。
それはつまりそういうことがあったということだ。
元の婚約者と結婚後も逢瀬を楽しんだ夫を、その相手を、不実の結果の子を憎む気持ちは当然あるに違いない。

私の父は誰か?問題は未だ結論は出ていない。訴え出た議会は王族の意向を恐れて留保という名の放置状態だったから。
しかし私が成人したらレイン様の訴えを斥ける事ができる。そうなれば何もかも終わるはずだったのに、あと少しで成人という頃合いで私は国王陛下の勅命で伯爵令嬢と認定された。
不義の子が我が子同然となるなんて、悪夢としか言えないだろう。無視したくなる気持ちも分かるというもの。
夫にも兄にも裏切られたと思っていてもおかしくはない。

でももう一生ついて回る。決して逃れられない。それは夫人だけではなく、母も私も、だけれど。

そんなことをつらつらと話して
「心が通わない政略結婚は不幸になる人がいるものです。」と結んだ。
黙って話を聞いていたアリ殿下はそっと私の肩を撫でて、
「リーンが産まれる前の話だ。やはりリーンが謝ることでは無いな。しかし俺たちはそうならないようにありたいと思っているよ。」としれっと囁いた。

「そうですか?」とだけ返しながらそれは無理…。心の中だけで思う。
この婚約の果ては不幸しか無い、きっと誰も幸せになれない。
成就しても破局しても、不幸しか残らない。
私はそっと目を伏せた。

「ホント険しい道だな。」
アリ殿下が呟いたのはやはり聞こえない振りをしてやり過ごした。
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