政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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近づく距離

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その日の夜はアリ殿下から離れる事が怖くてできなかった。
私が元々いた襲われたベッドに入る事は躊躇われ、殿下の大きなベッドを借りた。
殿下は私が眠りに付くまで、ずっと私の側を離れずにいてくれた。
殿下の腕の中にいると与えられる温もりに思考が溶けてユラユラ揺られて、そのままスッと眠りに落ちていけた。
目が覚めたとき、私は殿下の腕の中で胸に頬を擦り寄せていた。

なにこれ、恥ずかし過ぎる。
だけど動いたら殿下を起こしてしまう?
昨夜起きた怖い経験より、殿下の腕の中で一晩過ごした恥ずかしさの方が強烈に私の中でぐるぐるしている。
どうしよう。どうしたらいい?
ワタワタしていると、耳元で
「リーン、起きる?」
と殿下の声が甘く響いた。

ビクッと体が固くなる。顔が熱くなるのがわかる。きっと耳まで真っ赤になっているはず。
「おはよう。ちゃんと眠れた?」
羞恥で声を出せる気がしなかったので、頷くつもりで首を振った。
ああ、忘れていた!私は殿下の胸に頬を乗せていたので、より深く擦り付ける事になってしまった。

あっ!と思って離れようとすると、殿下の大きな手が頭に添えられて離れられなくなってしまった。
えっ!という間もなくつむじに何かが触れ、チュッとリップ音がした。唇?
後頭部にあった手が滑るように動いて、頬へ添えられる。
軽く持ち上げられると、アリ殿下の瞳が真っ直ぐにわたしを見つめていた。
「おはよう。」
甘く囁くように言われても、身体は殿下の腕の中で、頬は殿下の手に包まれて、殿下の瞳の輝きに吸い込まれて、私は動く事が出来ない。まるで魔法を掛けられているかのように。
そのまま殿下の顔がどんどん近づいてきても、逃げられない。

殿下の唇が私の唇に一瞬触れてすぐに離れた。
それでも私は殿下の瞳に縫い留められて動けない。
「嫌なら、逃げて。」囁くように言われてもやっぱり動けなかった。
もう一度殿下の唇が私の唇に触れた。
次は長く長く離れることはなかった。



そして元の私の部屋は完全に閉じられた。殿下の部屋で日中を過ごし、夜は同じベッドで眠る。

それから侍女さんが入れ替わった。
リンダさんは王妃様に呼び戻され、カレンさんの行方は未だに不明。
保留となっていたエリール側からの侍女さんが2人、王太子様から許可が出されて王子宮へ入って来た。

「ローラ様!」
領主様の遠縁に当たるお方で、エリールの領主代行の男爵夫人。母の友達でもあり、小さい頃から良くして頂いている。
とてもとても侍女なんてなされる御身分のお方ではない。

「リーン様、其方は私の主です。どうかローラと呼んでください。」
「えっ、無理です。ローラ様はローラ様です。」
「リーン、聞き分けない事言わないの!」
「あら、お母様だって。」
隣にいた若い女の子が嗜めた。
「あら、私としたことが。」
ローラ様がふふふ、と笑った。

「ローラの娘のクリスティーヌです。クリスとお呼び下さい。」
丁寧に挨拶をする可愛らしい女の子には見覚えがあるようで、ない!

ローラ様にはクリストファー様、皆にクリス様と呼ばれる「息子」がいる。
「クリス…様?」
「はい、お久しぶりです。」
イタズラが見つかった子のようにはにかんで微笑んでいるのはどう見ても女の子にしか見えない。
「すごい…。可愛い。」
「ありがとう、リーン様。」

「こう見えてクリスは結構頼りになりますよ。」
ローラ様もご機嫌だ。
そうでしょうとも。エリールの騎馬団の中では若手なのにズバ抜けて剣の腕が立つ。もちろん馬の扱いにも慣れている。
だけど…「息子」だよ?めっちゃ可愛いけれど。
(着替えなどには入れませんのでご安心を。)
ローラ様がそっと耳打ちしてくれた。
どうやら全て顔に出ていたようだ。

私は考える。
ローラ様とクリス様が付くということは、そういう事なのか?
きっとそうね。
おそらく、この2人は「迎え」だ。

やっぱり殿下は好きになってはいけない人だった。
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