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王妃の嘆き
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ウォルソン公国の第三王女だった私は16歳になってすぐにここニルス王太子ランスの元に嫁いだ。
小国ウォルソンは、大国のニルスのエリール領の真横にある。
大国サトラリアから見れば、エリールを飲み込んだら次はウォルソンを飲み込める。
エリールの存在は間接的にウォルソンを大国から守っている。
長姉はサトラリアに嫁ぎ、次姉は国内の貴族に下賜され、私はニルスに。
3カ国間で政略結婚を重ね、ウォルソンは一時的に安寧の地となっている。
けっして賢王とは言えないランスだったが、身内には真摯で誠実だった。
私にも義妹フランにも。
2人の王子にも恵まれてそれなりに幸せだった。
状況が少し変わったのが、15年前に義妹フランが出戻って来た時で、更に大きく変わったのが、可愛い甥サトラリア王太子の結婚式だった。
サトラリアという国はとにかく「黒」を神聖視していて、祝い事には欠かさず黒衣を纏う。黒衣は濃ければ濃いほどに、艶やかであればあるほどに、その色を纏う者の格を上げる。
姉であるサトラリア王妃はそれこそ世界中から黒衣を集め、より王太子夫妻の婚姻に見合う黒布を探した。
そしてそのお眼鏡にかなったのが、ニルス産の「エリール漆黒の絹布」だった。
ニルス国内の法に従い、一旦エリール商会からニルス商会に納められた漆黒の絹布は、ランクを3つに分けてサトラリアへと送られた。
不覚にも我は知らなかったのだ。
納められた漆黒の絹布にランクが4つあった事を。
最上位ランクをあえて手元に残してサトラリアに贈った事を。
屈辱の結婚式だった。
本来なら最上位の黒衣を纏うのは主役である王太子夫妻でなくてはならない。
初め私に与えられた黒衣のドレスを見た時に、その素晴らしさに目を見張り、更に美しい黒衣を纏う甥の凛々しい姿を想像して、その胸を躍らせた私はただの道化だった。
気付いた時には遅かった。
主役よりも遥かに上質な黒衣を纏うニルス国王夫妻を、サトラリア王室はもちろんのこと列席の賓客でさえ寒々しい視線でもって蔑んだ。
恥ずかしくて怖くてまともに顔を上げられなかった。
そこにはきっと我が息子の晴れの日に泥を塗った事を怒りの形相で見下ろす姉がいただろう。
してやったりと満面の笑みを浮かべる愚かな夫がいただろう。
何より可愛い甥に申し訳が立たない。
愚策は続いた。
後日サトラリアからの猛抗議に、ランスは取引停止という愚で応えた。
レインからもエリール商会からも猛抗議を受けた。
それはそうだろう。エリール商会は国際的に信用を失墜させられたのだから。
しかしランスは鼻も引っ掛けなかった。
私がムキになればなるほどに、セオドアスが必死になればなるほどに、ランスの心は頑なに閉じていく始末。
とうとう決して手を出してはならなかったフランとレインとの確執の種、アイリーンにまで魔の手を伸ばした。
一体夫はどうしてしまったのだろうか。
何がそこまで夫を追い詰めてしまったのだろうか。
私達はどこで間違ってしまったのだろうか。
エリール憎し、レイン憎し、だったランスを宥めすかしてここまでやってきたが、もう無理だ。
せめてアイリーンを無事にレインの元へと返してやりたかった。
そうすれば僅かではあるが希望の種が手元に残ったのに。
争い事を好まないレインだからこそ残された小さな芽だったのに。
おそらくサトラリアにはもうニルスなぞ要らない。エリールがあれば良いのだ。
エリールだって同じだ。
自尊心を考えれば、エリールの利を考えれば、ニルスに留まる必要などもうどこにもない。
エリールとサトラリアが組めば、その地の利を活かして、ウォルソンを簡単に飲み込める。
サトラリアは漆黒の絹布もバーン織りもエリール織もウッドバーンの資源だってエリールから手に入れられる。
ニルスの縛りから逃れたらエリールは更に発展していけるだろう。
ウォルソンの安寧は脆くも崩れ去る。
私がここに嫁いだ意味はもうないに等しい。
「切らねばならぬ時には迷わずに切れ!」
皮肉にも義父が私に与えてくれた言葉だ。
私がニルスに嫁いだ理由も、エリールの価値も、きちんと理解していた義父の今際の際の言葉。
何を切るかは言われなくてもわかる。
嫁に息子を切り捨てよと言わねばならなかった義父の無念さを思うと申し訳が立たない。
しかし義父はニルスのためにならないものは迷わずに切れ!と仰ったのだ。
私のプライドに凝り固まった愚王と愚妹を切り捨てねば、未来は残らない。
小国ウォルソンは、大国のニルスのエリール領の真横にある。
大国サトラリアから見れば、エリールを飲み込んだら次はウォルソンを飲み込める。
エリールの存在は間接的にウォルソンを大国から守っている。
長姉はサトラリアに嫁ぎ、次姉は国内の貴族に下賜され、私はニルスに。
3カ国間で政略結婚を重ね、ウォルソンは一時的に安寧の地となっている。
けっして賢王とは言えないランスだったが、身内には真摯で誠実だった。
私にも義妹フランにも。
2人の王子にも恵まれてそれなりに幸せだった。
状況が少し変わったのが、15年前に義妹フランが出戻って来た時で、更に大きく変わったのが、可愛い甥サトラリア王太子の結婚式だった。
サトラリアという国はとにかく「黒」を神聖視していて、祝い事には欠かさず黒衣を纏う。黒衣は濃ければ濃いほどに、艶やかであればあるほどに、その色を纏う者の格を上げる。
姉であるサトラリア王妃はそれこそ世界中から黒衣を集め、より王太子夫妻の婚姻に見合う黒布を探した。
そしてそのお眼鏡にかなったのが、ニルス産の「エリール漆黒の絹布」だった。
ニルス国内の法に従い、一旦エリール商会からニルス商会に納められた漆黒の絹布は、ランクを3つに分けてサトラリアへと送られた。
不覚にも我は知らなかったのだ。
納められた漆黒の絹布にランクが4つあった事を。
最上位ランクをあえて手元に残してサトラリアに贈った事を。
屈辱の結婚式だった。
本来なら最上位の黒衣を纏うのは主役である王太子夫妻でなくてはならない。
初め私に与えられた黒衣のドレスを見た時に、その素晴らしさに目を見張り、更に美しい黒衣を纏う甥の凛々しい姿を想像して、その胸を躍らせた私はただの道化だった。
気付いた時には遅かった。
主役よりも遥かに上質な黒衣を纏うニルス国王夫妻を、サトラリア王室はもちろんのこと列席の賓客でさえ寒々しい視線でもって蔑んだ。
恥ずかしくて怖くてまともに顔を上げられなかった。
そこにはきっと我が息子の晴れの日に泥を塗った事を怒りの形相で見下ろす姉がいただろう。
してやったりと満面の笑みを浮かべる愚かな夫がいただろう。
何より可愛い甥に申し訳が立たない。
愚策は続いた。
後日サトラリアからの猛抗議に、ランスは取引停止という愚で応えた。
レインからもエリール商会からも猛抗議を受けた。
それはそうだろう。エリール商会は国際的に信用を失墜させられたのだから。
しかしランスは鼻も引っ掛けなかった。
私がムキになればなるほどに、セオドアスが必死になればなるほどに、ランスの心は頑なに閉じていく始末。
とうとう決して手を出してはならなかったフランとレインとの確執の種、アイリーンにまで魔の手を伸ばした。
一体夫はどうしてしまったのだろうか。
何がそこまで夫を追い詰めてしまったのだろうか。
私達はどこで間違ってしまったのだろうか。
エリール憎し、レイン憎し、だったランスを宥めすかしてここまでやってきたが、もう無理だ。
せめてアイリーンを無事にレインの元へと返してやりたかった。
そうすれば僅かではあるが希望の種が手元に残ったのに。
争い事を好まないレインだからこそ残された小さな芽だったのに。
おそらくサトラリアにはもうニルスなぞ要らない。エリールがあれば良いのだ。
エリールだって同じだ。
自尊心を考えれば、エリールの利を考えれば、ニルスに留まる必要などもうどこにもない。
エリールとサトラリアが組めば、その地の利を活かして、ウォルソンを簡単に飲み込める。
サトラリアは漆黒の絹布もバーン織りもエリール織もウッドバーンの資源だってエリールから手に入れられる。
ニルスの縛りから逃れたらエリールは更に発展していけるだろう。
ウォルソンの安寧は脆くも崩れ去る。
私がここに嫁いだ意味はもうないに等しい。
「切らねばならぬ時には迷わずに切れ!」
皮肉にも義父が私に与えてくれた言葉だ。
私がニルスに嫁いだ理由も、エリールの価値も、きちんと理解していた義父の今際の際の言葉。
何を切るかは言われなくてもわかる。
嫁に息子を切り捨てよと言わねばならなかった義父の無念さを思うと申し訳が立たない。
しかし義父はニルスのためにならないものは迷わずに切れ!と仰ったのだ。
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