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アリストリアの報告
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アリストリアは宰相と騎士団長、騎馬隊長に穴の開いた軍服を見せながら説明をしていく。
バーン織が決して軍服には向かないことを。
一通りの説明が済むと皆難しい顔ををして黙りこくってしまった。
「これでは接近戦には向きませんね。」
口火を切ったのは騎士団長だ。
「騎馬隊にとっては難しい選択になります。騎馬隊は火矢で攻められる事が多い、火に強くても弓で仕掛けられると弱いのであれば…。」
「しばらく国外には出せない情報です。採用してもしなくても対策を立てなくては。」
「これに国を掛ける価値はあるだろうか?」
「それは無いと思いますね。失うモノが大き過ぎる。」
一旦口を開けば、その驚きを飲み込んだのか、3人はどんどんと話を進めていく。
「問題は陛下を説得できるのか、でしょうか。」
「ええ、そうですね。陛下は色々と盲目的だ。エリールへの執着も強過ぎる。」
「兄はどうするだろう?」
一瞬の沈黙。
兄はバーン織についてどうするかではない、その先へと込められている意味を3人は敏感に感じ取ってくれた。
「王太子殿下は覚悟を決められたようです。すでに隊の派遣を済ませられています。」
「そうか、いよいよか。」
「エリールを大切にするように先代王は強く言い含めておられたのに。」
宰相が全く困ったお人だと苦笑する。
「叔母上…か。」
「それだけとは言えません。ですが恐らくは。小細工などせずに伯爵をただ信じれば良かったものを。
私が伯爵ならとっくに離縁していますよ。
あの兄妹は本当に大切にしなければならないものがわからない愚かな人だ。」
「宰相様、それは言い過ぎでは?」
騎士団長が咎める。
「ああ、すまない。殿下の前で口が滑った。最近はどうも口が過ぎるのが止められない。
しかしエリールへの態度は度を超えています。失うものを思えば自由貿易くらいさせてやれば良かったものを。」
「自由貿易?」
「ああ、殿下はご存知ではなかったか。
漆黒の絹を始め、エリールの新製品は必ず自由貿易を求めて申請されてきましたが、ひとつとして叶ったものはありません。
特に伯爵はバーン織を自由貿易品にし、ウッドバーンの警ら隊や火消し隊の装束にしたがっていました。
申請の時に添えられた装束を見た陛下がその性能に惚れ込んで軍服に採用して国外への輸出を禁じてしまわれた訳ですが。
確かに警ら隊や火消し隊には最適の装束になりますね。
伯爵はこういう駆け引きは本当に下手過ぎる。他人事ながら全く口惜しい。」
「他に規制されている物は何がある?」
「エリールなのでほとんどは繊維品ですが…。
羊毛、絹がメインで、一部染料も対象になっていますね。
ニルスの貿易を潤わせているのはほぼまるっとエリールの繊維ですから。エリールの製品は一旦国営商会に納めてから国外へ輸出しています。利鞘はほぼニルスの国庫へ入っています。他領のものは原則少しの関税を支払えば自由貿易が認められていますから、エリールが怒るのも無理はないのです。」
「エリールが離反したらどうなる?」
「おそらくニルスの財政は逼迫します。
繊維関連の物は一切手に入らなくなるか、高額での買取になるか。伯爵次第ってところですね。
最悪バーン織どころか毛布1枚買えなくなるかもしれません。
サトラリアへの輸出を陛下が規制をかけているので、サトラリア側はかなりイラついています。サトラリアの動向次第ではエリールの独立も可能かもしれません。
殿下、それを防ぐために我々は集まったようなものです。
唯一の明るい材料は殿下とアイリーン様の事ですね。なんとか上手く繋がると良いのですが。
悔しいが陛下の言う通り、伯爵はアイリーン様をとても大切に思われている。アイリーン様が望めばニルスに無碍なことはしないでしょう。
しかし時間が足りないでしょうね。」
「…ああ。わかっている。」
「初めは陛下のしでかした事に頭を抱えましたよ。
まるで怒ってくださいと言わんばかりにレインの地雷を易々と踏んでいきましたから。
それでもアリストリア殿下は丁寧にアイリーン嬢の心を溶かしてくださった。
アイリーン嬢ならレイン様どころかモーリウス様も止めてくださるでしょう。」
「あともう少しなのに、なんとかならないのでしょうか。」
めずらしくアレンが口を挟んだ。
アレンは近くで俺とリーンのやりとりを見ている。どうやら随分と気持ちが入ってしまったようだ。
「しかしアレン。またアイリーン様に何かあれば取り返しのつかない事になります。
殿下には悪いが、今は情に流されてはならないのでは?」
宰相はアイリーンが襲われたことよりも、その先のカレンの捜索が一切進まなかった事に危機感を感じている。
唯一アイリーンの味方だと思っていた王妃宮の手の者の離反とそれを匿う者の存在がどうしても掴めない。
次が無いとは言い切れない状況に、誰よりもヤキモキしているのが宰相だ。
「王太子殿下は決断しました。あとは殿下の御心次第です。」
宰相が静かにしかしきっぱりと言葉を発した。
「俺の心は決まっている。」
同じくキッパリと俺は皆に言い切る。
兄や俺が迷えば、この者たちは迷う。
迷わずに切るべき時には切らなくてはならないのだ。
部屋に戻り、先に寝てしまったリーンの寝顔を見ながら横になる。
束の間なのはわかってはいるが、少しでも先に先に伸ばしたい。
リーン、君はそれは願ってくれていると思っても良いのだろうか?
バーン織が決して軍服には向かないことを。
一通りの説明が済むと皆難しい顔ををして黙りこくってしまった。
「これでは接近戦には向きませんね。」
口火を切ったのは騎士団長だ。
「騎馬隊にとっては難しい選択になります。騎馬隊は火矢で攻められる事が多い、火に強くても弓で仕掛けられると弱いのであれば…。」
「しばらく国外には出せない情報です。採用してもしなくても対策を立てなくては。」
「これに国を掛ける価値はあるだろうか?」
「それは無いと思いますね。失うモノが大き過ぎる。」
一旦口を開けば、その驚きを飲み込んだのか、3人はどんどんと話を進めていく。
「問題は陛下を説得できるのか、でしょうか。」
「ええ、そうですね。陛下は色々と盲目的だ。エリールへの執着も強過ぎる。」
「兄はどうするだろう?」
一瞬の沈黙。
兄はバーン織についてどうするかではない、その先へと込められている意味を3人は敏感に感じ取ってくれた。
「王太子殿下は覚悟を決められたようです。すでに隊の派遣を済ませられています。」
「そうか、いよいよか。」
「エリールを大切にするように先代王は強く言い含めておられたのに。」
宰相が全く困ったお人だと苦笑する。
「叔母上…か。」
「それだけとは言えません。ですが恐らくは。小細工などせずに伯爵をただ信じれば良かったものを。
私が伯爵ならとっくに離縁していますよ。
あの兄妹は本当に大切にしなければならないものがわからない愚かな人だ。」
「宰相様、それは言い過ぎでは?」
騎士団長が咎める。
「ああ、すまない。殿下の前で口が滑った。最近はどうも口が過ぎるのが止められない。
しかしエリールへの態度は度を超えています。失うものを思えば自由貿易くらいさせてやれば良かったものを。」
「自由貿易?」
「ああ、殿下はご存知ではなかったか。
漆黒の絹を始め、エリールの新製品は必ず自由貿易を求めて申請されてきましたが、ひとつとして叶ったものはありません。
特に伯爵はバーン織を自由貿易品にし、ウッドバーンの警ら隊や火消し隊の装束にしたがっていました。
申請の時に添えられた装束を見た陛下がその性能に惚れ込んで軍服に採用して国外への輸出を禁じてしまわれた訳ですが。
確かに警ら隊や火消し隊には最適の装束になりますね。
伯爵はこういう駆け引きは本当に下手過ぎる。他人事ながら全く口惜しい。」
「他に規制されている物は何がある?」
「エリールなのでほとんどは繊維品ですが…。
羊毛、絹がメインで、一部染料も対象になっていますね。
ニルスの貿易を潤わせているのはほぼまるっとエリールの繊維ですから。エリールの製品は一旦国営商会に納めてから国外へ輸出しています。利鞘はほぼニルスの国庫へ入っています。他領のものは原則少しの関税を支払えば自由貿易が認められていますから、エリールが怒るのも無理はないのです。」
「エリールが離反したらどうなる?」
「おそらくニルスの財政は逼迫します。
繊維関連の物は一切手に入らなくなるか、高額での買取になるか。伯爵次第ってところですね。
最悪バーン織どころか毛布1枚買えなくなるかもしれません。
サトラリアへの輸出を陛下が規制をかけているので、サトラリア側はかなりイラついています。サトラリアの動向次第ではエリールの独立も可能かもしれません。
殿下、それを防ぐために我々は集まったようなものです。
唯一の明るい材料は殿下とアイリーン様の事ですね。なんとか上手く繋がると良いのですが。
悔しいが陛下の言う通り、伯爵はアイリーン様をとても大切に思われている。アイリーン様が望めばニルスに無碍なことはしないでしょう。
しかし時間が足りないでしょうね。」
「…ああ。わかっている。」
「初めは陛下のしでかした事に頭を抱えましたよ。
まるで怒ってくださいと言わんばかりにレインの地雷を易々と踏んでいきましたから。
それでもアリストリア殿下は丁寧にアイリーン嬢の心を溶かしてくださった。
アイリーン嬢ならレイン様どころかモーリウス様も止めてくださるでしょう。」
「あともう少しなのに、なんとかならないのでしょうか。」
めずらしくアレンが口を挟んだ。
アレンは近くで俺とリーンのやりとりを見ている。どうやら随分と気持ちが入ってしまったようだ。
「しかしアレン。またアイリーン様に何かあれば取り返しのつかない事になります。
殿下には悪いが、今は情に流されてはならないのでは?」
宰相はアイリーンが襲われたことよりも、その先のカレンの捜索が一切進まなかった事に危機感を感じている。
唯一アイリーンの味方だと思っていた王妃宮の手の者の離反とそれを匿う者の存在がどうしても掴めない。
次が無いとは言い切れない状況に、誰よりもヤキモキしているのが宰相だ。
「王太子殿下は決断しました。あとは殿下の御心次第です。」
宰相が静かにしかしきっぱりと言葉を発した。
「俺の心は決まっている。」
同じくキッパリと俺は皆に言い切る。
兄や俺が迷えば、この者たちは迷う。
迷わずに切るべき時には切らなくてはならないのだ。
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