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迎え
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私はザイモックの港町で船の到着を待っている。
「ニルスから大切な荷が着くから取りに行って来て。」
朝1番にナラにそう言われたから。
ザイモックに来てずいぶん経つ、季節は既に冬になって吐く息は白い。朝の冷たい空気が頬を刺している。
おそらくエリールは一面真っ白な雪に覆われて、みんな暖炉の側で手仕事に励んでいるだろうな、と未だに考えてしまう。
「もう、ナラが行けば良いのに。」
という抗議は聞き入れられてもらえなかった。
「うーん、俺忙しいし。リーンが行ってくれないと困るんだよね。」
とあっさり断られてしまう。
…ナラの嘘つき。
漆黒の絹糸を染め上げてしまった今、染色職人のナラにはほとんど仕事がないはずなのに。
やらなくちゃいけない仕事なんてせいぜいバーンの世話くらいだ。それだって別に私がやったって良いのに!
あの後ニルスから返してもらったバーン織の見本を見て、頑なにバーンの家畜化を嫌がっていたザイモックの人々の意識が少し変わってくれた。
毛皮を取るためにバーンを殺さないで済むからと、神獣を保護する目的を兼ねてバーンを冬の間だけ飼い慣らすことをなんとかザイモックの人達が認めてくれたばかり。
頭数制限はありつつも、今100頭ほどのバーンを飼い始めたところだ。
春になったらバーンの毛を刈って、一度野に放す。上手くいけば子供だって産まれるかもしれない。
餌付けだけは続け、野を住処とするかどうかはバーンが決める。
それでも計算では20~30着のバーン織の装束が仕立てられる。
ザイモックの火消し隊1小隊分。これが口火になるといいな、と思っている。
「大切な荷ってなんなのかしら?」
と、朝からずっと考えているけれど、全く思い浮かばない。
織り機はとっくに届いていて、何人かの職人家族がエリールから移住してくれた。
期待の星はリリルナさん家族で、リリルナさん夫婦は、ご主人が牧羊の経験を生かしてバーンを育て、リリルナさんがバーン織の制作を始める予定が立っている。
リリルナさんは
「やっと夫と独立できるんです。夫と一緒に頑張れるのなら別にどこでだって生きていきますよ。」
と大変な事を笑顔で請け負ってくれた。
「船が着くぞ!」
水先案内人を乗せたボートが岸から離れて、大きな船に向かって進んで行った。
「あれ?あの旗印…。」
大きな船の先頭に見えたのはニルス王家の紋章の旗だった。
そして船首に1人立つ男の人影。
もしかしてもしかする?
いや、あの人影を見間違うはずはない。
ぶあっーと涙が溢れて来た。
うそ、うそだ。
アイリーン・エリール・コンランとアリストリア殿下の婚約は成立していない。
レイン様がサインをなされていないからだ。
そして今の私はアイリーン・ザイモック・コンラン…。ニルスを捨てた亡命者で…。
こんな私を殿下が迎えに来てくれるなんて有り得ない。とっくに諦めたと思っていたのに、まだどこか期待しちゃっていた自分がいたことに気付いちゃった。
涙を拭って再び見上げた時、人影は消えていた。…やっぱりね。
…嫌だわ、幻を見るなんて。
自分の諦めの悪さに自嘲しちゃう。
「リーン!」
…嫌ね、幻聴まで聞こえるなんて。
船が岸壁に付けられたとき、ヒラリと手すりを超えて岸に飛び降りた人を涙を拭くのに気を取られてどうやら私は見逃してしまったようで…。
「リーン!」
駆け寄って強く抱き抱えられてやっと幻ではなかったことに気付いた。
この腕の強さと温もりを私は覚えている。
「…殿下?」
見上げた私の目に映ったのは、物凄く輝かしい笑顔で私を見つめているアリストリア殿下、その人だった。
「殿下じゃない、アリだよ。」
「…アリ?」
「やっと呼んでくれたね。リーン。」
ギュッと抱きしめられる。
「リーン、また泣いてる。それは嬉しい涙だよね。遅くなってすまない、迎えに来たよ。兄から恩赦が出た。レインの亡命の咎は消え去った。」
「…消えた?」
「そう、帰れる。エリールに帰れるよ。すまない待たせたね、こんなに時間が掛かるなんて思ってなかった。」
侵攻されたからといってエリールの利権を大して抵抗もせずに手放してしまうことをなかなか臣下達は認めてくれなかった。しかも国王の退位というおまけまでついていては説得には骨が折れた。
兄と宰相がそれはそれは丁寧に丁寧に、経緯を説明し数字を上げて説得して。その間に少しでもニルスの損失を減らそうと、俺はサトラリアと会談を重ねた。
何度も何度もリーンのことを思い出して、ペンダントを握りしめていたよ。
殿下の声は甘く甘く耳に囁き続けるけれど、ほとんど頭に残らない。
ただひとつ
「迎えに来たよ。」
だけが繰り返し繰り返し頭の中で響いている。
ああ、やっと帰れる、私はエリールに帰れる。
…大好きな殿下と一緒に。
「ニルスから大切な荷が着くから取りに行って来て。」
朝1番にナラにそう言われたから。
ザイモックに来てずいぶん経つ、季節は既に冬になって吐く息は白い。朝の冷たい空気が頬を刺している。
おそらくエリールは一面真っ白な雪に覆われて、みんな暖炉の側で手仕事に励んでいるだろうな、と未だに考えてしまう。
「もう、ナラが行けば良いのに。」
という抗議は聞き入れられてもらえなかった。
「うーん、俺忙しいし。リーンが行ってくれないと困るんだよね。」
とあっさり断られてしまう。
…ナラの嘘つき。
漆黒の絹糸を染め上げてしまった今、染色職人のナラにはほとんど仕事がないはずなのに。
やらなくちゃいけない仕事なんてせいぜいバーンの世話くらいだ。それだって別に私がやったって良いのに!
あの後ニルスから返してもらったバーン織の見本を見て、頑なにバーンの家畜化を嫌がっていたザイモックの人々の意識が少し変わってくれた。
毛皮を取るためにバーンを殺さないで済むからと、神獣を保護する目的を兼ねてバーンを冬の間だけ飼い慣らすことをなんとかザイモックの人達が認めてくれたばかり。
頭数制限はありつつも、今100頭ほどのバーンを飼い始めたところだ。
春になったらバーンの毛を刈って、一度野に放す。上手くいけば子供だって産まれるかもしれない。
餌付けだけは続け、野を住処とするかどうかはバーンが決める。
それでも計算では20~30着のバーン織の装束が仕立てられる。
ザイモックの火消し隊1小隊分。これが口火になるといいな、と思っている。
「大切な荷ってなんなのかしら?」
と、朝からずっと考えているけれど、全く思い浮かばない。
織り機はとっくに届いていて、何人かの職人家族がエリールから移住してくれた。
期待の星はリリルナさん家族で、リリルナさん夫婦は、ご主人が牧羊の経験を生かしてバーンを育て、リリルナさんがバーン織の制作を始める予定が立っている。
リリルナさんは
「やっと夫と独立できるんです。夫と一緒に頑張れるのなら別にどこでだって生きていきますよ。」
と大変な事を笑顔で請け負ってくれた。
「船が着くぞ!」
水先案内人を乗せたボートが岸から離れて、大きな船に向かって進んで行った。
「あれ?あの旗印…。」
大きな船の先頭に見えたのはニルス王家の紋章の旗だった。
そして船首に1人立つ男の人影。
もしかしてもしかする?
いや、あの人影を見間違うはずはない。
ぶあっーと涙が溢れて来た。
うそ、うそだ。
アイリーン・エリール・コンランとアリストリア殿下の婚約は成立していない。
レイン様がサインをなされていないからだ。
そして今の私はアイリーン・ザイモック・コンラン…。ニルスを捨てた亡命者で…。
こんな私を殿下が迎えに来てくれるなんて有り得ない。とっくに諦めたと思っていたのに、まだどこか期待しちゃっていた自分がいたことに気付いちゃった。
涙を拭って再び見上げた時、人影は消えていた。…やっぱりね。
…嫌だわ、幻を見るなんて。
自分の諦めの悪さに自嘲しちゃう。
「リーン!」
…嫌ね、幻聴まで聞こえるなんて。
船が岸壁に付けられたとき、ヒラリと手すりを超えて岸に飛び降りた人を涙を拭くのに気を取られてどうやら私は見逃してしまったようで…。
「リーン!」
駆け寄って強く抱き抱えられてやっと幻ではなかったことに気付いた。
この腕の強さと温もりを私は覚えている。
「…殿下?」
見上げた私の目に映ったのは、物凄く輝かしい笑顔で私を見つめているアリストリア殿下、その人だった。
「殿下じゃない、アリだよ。」
「…アリ?」
「やっと呼んでくれたね。リーン。」
ギュッと抱きしめられる。
「リーン、また泣いてる。それは嬉しい涙だよね。遅くなってすまない、迎えに来たよ。兄から恩赦が出た。レインの亡命の咎は消え去った。」
「…消えた?」
「そう、帰れる。エリールに帰れるよ。すまない待たせたね、こんなに時間が掛かるなんて思ってなかった。」
侵攻されたからといってエリールの利権を大して抵抗もせずに手放してしまうことをなかなか臣下達は認めてくれなかった。しかも国王の退位というおまけまでついていては説得には骨が折れた。
兄と宰相がそれはそれは丁寧に丁寧に、経緯を説明し数字を上げて説得して。その間に少しでもニルスの損失を減らそうと、俺はサトラリアと会談を重ねた。
何度も何度もリーンのことを思い出して、ペンダントを握りしめていたよ。
殿下の声は甘く甘く耳に囁き続けるけれど、ほとんど頭に残らない。
ただひとつ
「迎えに来たよ。」
だけが繰り返し繰り返し頭の中で響いている。
ああ、やっと帰れる、私はエリールに帰れる。
…大好きな殿下と一緒に。
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