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ダ・カーポ
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新国王陛下の即位式にあたり、ナラと私が滞在を許されたのは王城の中の東離宮だった。
私はともかく、ナラがここに通される事はきっと価値のある意味がある。
その東離宮で私達を出迎えてくれたのは、エリールから一足先にやってきた父と母と兄様だった。
「リーン!」
「お父さん!お母さん!」
ニルス国の最北の地からこの冬の最中に王都まで来るのは大変に骨が折れたはずで。
父はともかく母はエリールから離れた事すらない。
それでも長く離れ離れになっていた私のためにここまで来てくれたのだ。
堪らなくなって抱きついて、溢れ出た喜びに顔を涙で歪める。
元気だったか、仕事はどうか、溜まりに溜まりすぎてしまった話がたくさんあって会話は尽きない。
「サトラリアの新年の祝いの黒衣は僕らのに決まったよ。濡羽黒…だっけ?あれ良いね。なに入れたの?」
こっそりと父が聞いてくるから、
「うーん、秘密!」
と口の前に人差し指を立てた。
「あはは、何かの炭か泥じゃないかと思ってるんだが…。」
と言われてギクッとする。
「…そんなに的外れじゃないんだな、リーン、顔に出てる。」
と笑われる。
父と母はサトラリアとの停戦とその後の関係の修復に新たな黒布が多大な貢献をした功績を讃えて、即位式に参列し褒賞が贈られることになったそうだ。
「…嫌な予感がするんだけど。」
全ての始まりが国王陛下からのご褒美に釣られてノコノコとお城へやって来てしまったからだし。
つい渋い顔になってしまう私を見て母は
「大丈夫よ。」
と笑い飛ばす。
「わっかんないわよ、あの新国王陛下は。」
「今回は大丈夫。」
と父まで請け負う。
「兄様!」
駆け寄ってギュッと抱きついて、ギューっと抱きしめてもらう。
「元気だった?」
「うん。」
「これで良かった?」
「うん。
…ありがとう、兄様。」
もう良いだろうと、アリに引き剥がされて、今度はスッポリとアリに抱き込まれた。
「近づきすぎだろ!」
「…兄妹なんだけどな。」
「違う、お前達はもう他人だ。」
私の出生証明書には父親の欄にホセと名が入った。
母と宰相様とは相談の上、ザイモック・コンランの名を捨てていた。
私は正真正銘、アイリーン・ボガードになった。
「男の嫉妬は見苦しいな。」
兄様が苦笑いでアリを揶揄う。
「…うるさい、黙れ。」
「ハイハイ、仰せのままに、殿下。」
やれやれと呆れた様子の兄様に、アリを振り切ってもう一度抱きついた。
「ありがとう、兄様。」
きっとこれで兄様はわかってくれる。
「幸せになって。」
ギュッと抱きしめてくれる兄様からの言葉にうんと頷いた。
日が改まり、新国王陛下との謁見が始まった。
私と父と母は膝をついて国王陛下の登場を待つ。
「セオドアス陛下の御成ー!」
憎っくき宰相殿下のあの声が響いた。
ツカツカとヒールの足音がして、父の前でピタリと止まる。
「ボガード工房のホセ・ボガードであるか。」
「御意。」
「この度のボガード工房から献上された黒布により、長らく懸案であったサトラリア公国との和睦が成った。敗戦国であるニルスにとって勝戦国サトラリアとの和睦の持つ意義は大きい。
其方達の功績に見合う褒賞を下賜することと致す。
ひとつ、漆黒の絹の製造特許及び販売特許権、これを認める。
ひとつ、製造技術者のアイリーン・ボガード嬢には我が弟アリストリア王子との婚約の栄誉を授ける。
以上だ。
これからも更なる忠誠を尽くしてくれることを願う。」
ぼっかーん、空いた口が塞がらない。
言いたい事だけ言って、さっさと新国王陛下は引っ込んでしまわれて、なす術もなく私と父母だけが謁見室に残された。
待て!少し頭を整理しよう。
これが褒美?これって褒美になる…よね?
ビックリして父母を見やると、父と母はニヤニヤと悪戯が成功したと笑っている。
「私どうなる…の?」
「好きにしなさい。」
と母が言う。
そんな無責任な!
「そうだ!嫌なら嫌だと言って良いんだぞ!
今の俺ならアイリーンもアイリスもどんな事をしてでも守ってやるんだから!」
と父が嬉しそうに言って来る。
そこにつつつーとやってきてのはルカリオ宰相閣下。
切れ物宰相閣下は、きっとこの筋書きの全てを取り仕切ったに違いない。
「さあ、アイリーン様行きますよ。」
薄笑いを浮かべながらニコニコと私の腕を取る。
「えっ!待って!行くってどこに?」
慌てて掴まれた腕を取り戻そうとするけれど、既にガッチリと掴まれてしまって離してくれない。
また!してやられた感が半端ない。
「どこって、王子宮ですよ。だってアイリーン様はアリストリア殿下の婚約者になったのですから。」
「ルカリオ宰相、お待ち下さい。久しぶりの再会なんです。積もる話がたくさんあるんです。それからとりあえずリーンは一度エリールに連れて帰りたい。」
父が止めに入る。
その瞬間、宰相閣下の顔は氷点下まで冷たくなった。
「ダメです。王命に逆らえば謀反の疑い有りとして捕縛しますよ。
どうせ春まではエリールには行けないのです。積もる話はまた今度に。
とりあえず先にアリストリア殿下との諸々を済ませてしまいましょう。」
あっ、それ狡い!
そうだ、雪深いエリールには春までは帰りたくても帰れない。
じーっとルカリオ宰相閣下を睨みつける。しかし宰相閣下は私の視線ごときには無反応だった。
「ご自分で歩きますか?兵士に抱えられると兵士の首が飛ぶので止めて差し上げて欲しいのですが。
どんな事をしてでも王子宮に行ってもらわないと困ります、アイリーン様の事で不機嫌な殿下を収めるのは骨が折れるんです。
さあ、早く決めちゃって下さい。」
急かされなくても答えはもちろんひとつしかない。
「はい、王命に従わせていただきます。」
本編 終
入れきれなかったお話を少しだけ続けます。
私はともかく、ナラがここに通される事はきっと価値のある意味がある。
その東離宮で私達を出迎えてくれたのは、エリールから一足先にやってきた父と母と兄様だった。
「リーン!」
「お父さん!お母さん!」
ニルス国の最北の地からこの冬の最中に王都まで来るのは大変に骨が折れたはずで。
父はともかく母はエリールから離れた事すらない。
それでも長く離れ離れになっていた私のためにここまで来てくれたのだ。
堪らなくなって抱きついて、溢れ出た喜びに顔を涙で歪める。
元気だったか、仕事はどうか、溜まりに溜まりすぎてしまった話がたくさんあって会話は尽きない。
「サトラリアの新年の祝いの黒衣は僕らのに決まったよ。濡羽黒…だっけ?あれ良いね。なに入れたの?」
こっそりと父が聞いてくるから、
「うーん、秘密!」
と口の前に人差し指を立てた。
「あはは、何かの炭か泥じゃないかと思ってるんだが…。」
と言われてギクッとする。
「…そんなに的外れじゃないんだな、リーン、顔に出てる。」
と笑われる。
父と母はサトラリアとの停戦とその後の関係の修復に新たな黒布が多大な貢献をした功績を讃えて、即位式に参列し褒賞が贈られることになったそうだ。
「…嫌な予感がするんだけど。」
全ての始まりが国王陛下からのご褒美に釣られてノコノコとお城へやって来てしまったからだし。
つい渋い顔になってしまう私を見て母は
「大丈夫よ。」
と笑い飛ばす。
「わっかんないわよ、あの新国王陛下は。」
「今回は大丈夫。」
と父まで請け負う。
「兄様!」
駆け寄ってギュッと抱きついて、ギューっと抱きしめてもらう。
「元気だった?」
「うん。」
「これで良かった?」
「うん。
…ありがとう、兄様。」
もう良いだろうと、アリに引き剥がされて、今度はスッポリとアリに抱き込まれた。
「近づきすぎだろ!」
「…兄妹なんだけどな。」
「違う、お前達はもう他人だ。」
私の出生証明書には父親の欄にホセと名が入った。
母と宰相様とは相談の上、ザイモック・コンランの名を捨てていた。
私は正真正銘、アイリーン・ボガードになった。
「男の嫉妬は見苦しいな。」
兄様が苦笑いでアリを揶揄う。
「…うるさい、黙れ。」
「ハイハイ、仰せのままに、殿下。」
やれやれと呆れた様子の兄様に、アリを振り切ってもう一度抱きついた。
「ありがとう、兄様。」
きっとこれで兄様はわかってくれる。
「幸せになって。」
ギュッと抱きしめてくれる兄様からの言葉にうんと頷いた。
日が改まり、新国王陛下との謁見が始まった。
私と父と母は膝をついて国王陛下の登場を待つ。
「セオドアス陛下の御成ー!」
憎っくき宰相殿下のあの声が響いた。
ツカツカとヒールの足音がして、父の前でピタリと止まる。
「ボガード工房のホセ・ボガードであるか。」
「御意。」
「この度のボガード工房から献上された黒布により、長らく懸案であったサトラリア公国との和睦が成った。敗戦国であるニルスにとって勝戦国サトラリアとの和睦の持つ意義は大きい。
其方達の功績に見合う褒賞を下賜することと致す。
ひとつ、漆黒の絹の製造特許及び販売特許権、これを認める。
ひとつ、製造技術者のアイリーン・ボガード嬢には我が弟アリストリア王子との婚約の栄誉を授ける。
以上だ。
これからも更なる忠誠を尽くしてくれることを願う。」
ぼっかーん、空いた口が塞がらない。
言いたい事だけ言って、さっさと新国王陛下は引っ込んでしまわれて、なす術もなく私と父母だけが謁見室に残された。
待て!少し頭を整理しよう。
これが褒美?これって褒美になる…よね?
ビックリして父母を見やると、父と母はニヤニヤと悪戯が成功したと笑っている。
「私どうなる…の?」
「好きにしなさい。」
と母が言う。
そんな無責任な!
「そうだ!嫌なら嫌だと言って良いんだぞ!
今の俺ならアイリーンもアイリスもどんな事をしてでも守ってやるんだから!」
と父が嬉しそうに言って来る。
そこにつつつーとやってきてのはルカリオ宰相閣下。
切れ物宰相閣下は、きっとこの筋書きの全てを取り仕切ったに違いない。
「さあ、アイリーン様行きますよ。」
薄笑いを浮かべながらニコニコと私の腕を取る。
「えっ!待って!行くってどこに?」
慌てて掴まれた腕を取り戻そうとするけれど、既にガッチリと掴まれてしまって離してくれない。
また!してやられた感が半端ない。
「どこって、王子宮ですよ。だってアイリーン様はアリストリア殿下の婚約者になったのですから。」
「ルカリオ宰相、お待ち下さい。久しぶりの再会なんです。積もる話がたくさんあるんです。それからとりあえずリーンは一度エリールに連れて帰りたい。」
父が止めに入る。
その瞬間、宰相閣下の顔は氷点下まで冷たくなった。
「ダメです。王命に逆らえば謀反の疑い有りとして捕縛しますよ。
どうせ春まではエリールには行けないのです。積もる話はまた今度に。
とりあえず先にアリストリア殿下との諸々を済ませてしまいましょう。」
あっ、それ狡い!
そうだ、雪深いエリールには春までは帰りたくても帰れない。
じーっとルカリオ宰相閣下を睨みつける。しかし宰相閣下は私の視線ごときには無反応だった。
「ご自分で歩きますか?兵士に抱えられると兵士の首が飛ぶので止めて差し上げて欲しいのですが。
どんな事をしてでも王子宮に行ってもらわないと困ります、アイリーン様の事で不機嫌な殿下を収めるのは骨が折れるんです。
さあ、早く決めちゃって下さい。」
急かされなくても答えはもちろんひとつしかない。
「はい、王命に従わせていただきます。」
本編 終
入れきれなかったお話を少しだけ続けます。
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