政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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オマケ

ペルー2

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重たい気持ちをニルスに置き去りにして、ペルーはアイリーン様と共にエリールへと旅立った。

エリールでは騎士というよりも侍女の役割りの方が強くなる。
アイリーン様はエリールで騎士ヅラして側に侍ることをお許しにはならない。
アイリーン様と似たような木綿の簡素な服を着て、工房に通ったり、桑畑を歩いたり。
ローラ様やアイリス様と共にお茶を飲みながら歓談する事も頻繁にある。

「エリールでは普通に過ごしたいの。だからペルーも友人のように振る舞ってくれる?その方が私は気楽だし楽しいから。」
というのがアイリーン様のご命令だ。

先にエリール入りしていたアイリーン様を追いかけてアリストリア殿下が合流した。
増えた護衛の人数はエリールの市井にはそぐわないと、ペルーは出立までの間は休暇を与えられてしまった。

…またか。

こうなるとペルーは落胆し心が落ち着かなくなる。

人減らしが可能な時になると、アイリーン様は真っ先にペルーの名を挙げる。
必要とされていないのか…疎まれているのか…決めきれないまま、ズルズルと時だけが過ぎていく。


ある晩のこと。
エリールにある酒場でクリス、アレン、マクシマスの4人で小さなテーブルを囲んでいた。
こんな気分で飲みにいくつもりは毛頭なかったけれど、アリストリア殿下の筆頭護衛官のマクシマムから直々に話があると誘われては断れない。

「さあ、今夜は飲みましょう。」
とクリスは目の前のグラスに酒を注いでくれた。慣れた手つきで酒に水と氷を入れる。結婚式ではなかった氷を入れられるのは冬から夏前にかけての贅沢なのだそうだ。

「やっぱり割るんですね、これ。」
「ええ、普通は。」
薄い茶色の香り高いこの酒はウィスキーというらしい。
そのまま飲む事もあるけど、それは雪山で任務に就く時などに携帯し、身体を温めたり気付け薬的な扱いをされるのだと後から聞いた。

「…なるほど。」
唸るようにマクシマスは興味深けに酒を見つめ、そのままで飲みたいとクリスに頼んだ。マクシマムは、口に含んだ瞬間こそしかめ面にはなったものの、味わいながらゆっくりと嚥下していく。

「凄い…喉にくる。ああ、確かに身体の芯が熱くなる気がする。」
「そんな即効性はないはずです。」
あはは、気のせいだとクリスは笑いとばした。
「追い水を飲んだ方が良いですよ。」
と空いたグラスにクリスが水を注ぐ。

「私は…これはちょっと…。」
一方でアレンの歯切れは悪い。アレンはエリールでの披露宴の際に、この酒をローラ様に飲まされて潰された。それを思い出すのかもしれない。

あの披露宴でその様子を横で見ていたペルーには、ただただ羨ましいだけの光景だった。

だってあれは歓迎の儀式で、あの時ローラ様はアレンだけを歓迎したのだもの、と。
あの時参列していた侍従や侍女、護衛の中でローラ様に歓迎してもらえたのはアレンだけ。

その事を言葉にするとアレンの顔が歪んだ。
「あれは戯れの悪戯だろう。でなきゃ八つ当たりだ。」
「どれも違うよ。あれは母達の感謝だ。」
とクリスは言った。

「感謝?」
「ああ、感謝だ。流石の母も警備の者にあの酒を勧める程愚かではないし、ライラに至っては感謝なんかしたくはなかったし。
酒を飲ませて障りないのがアレンだけだったって事だよ。
強いて言えば皆の酒を代わりに飲まされたってとこだよ。」

クリス曰く、あのスタイルでの披露宴をローラ始めエリールの人達は半ば諦めていたらしい。
アレンからエリールでの披露宴の仕切りを打診された時、ローラ様は泣いて喜んだそうだ。
でもあれはアイリーン様の希望だとアレンは言ったが、クリスは
「却下する事もできたはずだ、って母が言ってた。」
と聞き入れない。

「出来ないよ。」
「出来っこないわ。」
「無理だったね。」

エリール側の内情を知っている3人は揃って口にしてしまう。

エリール式の披露宴はただひとつアイリーン様が出した希望だった。
そしてアイリーン様の希望を叶える事がアリストリア殿下の希望である。
だからどんな手段を使ってでも実現させるのがアレン達侍従や侍女の役目だ。

「そうなの?」
疑うクリスに3人はそうだと言い切った。
内情を話して聞かせるとクリスは苦笑いになり、「リーンは相変わらず人を振り回すのが上手いヤツだな。」と呟いた。

あの披露宴は皆が楽しそうに過ごしていた。あれはあれで結果としては良かったのだ。

ペルーだって最初は躊躇したけれど、思い切って楽しむ事にしたのはライラの言葉だ。

「自分を疑う人に人は胸襟を開きません。このエリールの宴にはきっと意味があります。郷に行っては郷に従う事も時には大切です。」
と。
離れていた間にライラに何があったかはわからないが、ライラは名前だけではなく人格さえも変えた気がする。
昔のカレンはこんな事は絶対に言わなかった。

それでもローラ様はカレンを未だに許してないらしい。ペルーだってすっかり蟠りがなくなった訳でもない。
ただ、当のアイリーン様はとっくにその事は乗り越えて、あんな事をしでかしたライラに許しを与えてしまった。
片腕が使えない筆頭侍女なんて聞いたことがない。
しかしライラは、頭の中にある知識でもって、アイリーン様から絶大な信頼を得、もの凄く重用されている。

…羨ましいほどに。

「ローラのアレはとても感謝には…見えん…。」
アレンの呟きに、確かに!と皆が笑った。
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