6 / 100
失敗
しおりを挟む
ギュッと固く目を瞑って、大きく息をひとつ吸って…。
さあ!いざ!
「なにをなさるのです!!」
後ろからいきなり羽交締めにされ、レイチェルは
「ギャァー」
とはしたない声をあげた。
「痛い!!」
気付くと両手首をガッカリと誰かに掴まれてしまっている。
若い男性の、鍛えられた剣だこだらけの手だった。
誰?と思ったけれど、そんな事は些細な事。大切なのは、見つかった!失敗した!ということだ。
おそらく自刄できるチャンスは一度だけだ。今を逃したらもう自由にはなれない。
刃物は遠ざけられ、下手したら鉄格子の嵌った部屋で暮らさなければならなくなるかもしれない。
そう思ってしまうほど、今のステファン殿下の自分への執着は度を越している。
「お願いです。手を離して!!」
「ダメです。離すのはレイチェルだ。刀を捨てて。」
「嫌です!どうかご慈悲を!」
力強い男の人の胸板がレイチェルの背中にのし掛かる。
痛すぎるほどの力で細いレイチェルの手首を締め付けて、身体から引き離そうと引っ張られている。
「死んで終わらせるおつもりですか!!」
「そうよ、終わらせないと!こうしないと終わらないのよ!」
「嫌です。こんな事をしても終わりになんか出来ません!こんな終わり方になんかさせません!」
どんなに争っても、相手は鍛えられたらしい身体を持った男だった。
掴まれた手首を締め付ける力はどんどん強くなり、血が堰き止められる。それに従って指先が痺れ始めた。
…お願い…このままだと…だから…。
レイチェルの必死の抵抗も虚しく、握っていた短剣は力の抜けた指から抜け落ちた。
ボチャン、と小さな水音と共に短剣は池の底に落ちた。
慌てて探し出そうとしたけれど、レイチェルの身体はすっぽりと男の腕の中に納められて動けなくなってしまう。
「ヤー、ぃヤァーーー!」
身を捩ってもどうしても男の腕を振り解くことは出来なかった。
「お願いです、どうか私の目の前でこんなことをなさらないでいただきたい。」
「…どうして…どうして…。」
…どうして見逃してくれなかったのか。
レイチェルは涙を流して嗚咽を漏らしながら、呆然と短剣が落ちたらしき場所を見つめるしかなかった。
「落ち着きましたか。」
散々泣いて力の抜けきったレイチェルが死を諦めたのはもうすぐ日が昇るという頃合いだった。
「ご迷惑をお掛けしました。エルンスト殿下。」
レイチェルの自刃を止めたのは、王弟殿下の令息、エルンスト殿下だった。
「お辛い立場なのはわかります。ですが諦めないで頂きたいのです。
私も、父も、グレイシア公爵も諦めてはおりません。」
「慰めは結構です、殿下。」
もう元には戻れない。失くしたものは取り返せない。諦めるしかないんだ。
「もう、いいんです。私は…戻ります。」
そう言って立ちあがろうとすると、エルンスト殿下は私の腕をガッチリと掴んだ。
「…戻りたいですか?ステファンのところに。」
その質問、今の私にするの?
「…酷いご質問ですね。戻りたいと思うくらいなら初めから出たりはしません。
でも、戻らないとならないのです。」
そう伝えるとエルンスト殿下は破顔した。
「ならば、もう2度と戻らなくて済むようにして差し上げましょう。」
「えっ!?」
「このエルンスト、全てを賭けてあなたをステファンの元から自由にして見せましょう。」
「…どうやって?」
このエルンストに全てお任せ下さい。
そう言ってエルンスト殿下は私を抱き上げた。
さあ!いざ!
「なにをなさるのです!!」
後ろからいきなり羽交締めにされ、レイチェルは
「ギャァー」
とはしたない声をあげた。
「痛い!!」
気付くと両手首をガッカリと誰かに掴まれてしまっている。
若い男性の、鍛えられた剣だこだらけの手だった。
誰?と思ったけれど、そんな事は些細な事。大切なのは、見つかった!失敗した!ということだ。
おそらく自刄できるチャンスは一度だけだ。今を逃したらもう自由にはなれない。
刃物は遠ざけられ、下手したら鉄格子の嵌った部屋で暮らさなければならなくなるかもしれない。
そう思ってしまうほど、今のステファン殿下の自分への執着は度を越している。
「お願いです。手を離して!!」
「ダメです。離すのはレイチェルだ。刀を捨てて。」
「嫌です!どうかご慈悲を!」
力強い男の人の胸板がレイチェルの背中にのし掛かる。
痛すぎるほどの力で細いレイチェルの手首を締め付けて、身体から引き離そうと引っ張られている。
「死んで終わらせるおつもりですか!!」
「そうよ、終わらせないと!こうしないと終わらないのよ!」
「嫌です。こんな事をしても終わりになんか出来ません!こんな終わり方になんかさせません!」
どんなに争っても、相手は鍛えられたらしい身体を持った男だった。
掴まれた手首を締め付ける力はどんどん強くなり、血が堰き止められる。それに従って指先が痺れ始めた。
…お願い…このままだと…だから…。
レイチェルの必死の抵抗も虚しく、握っていた短剣は力の抜けた指から抜け落ちた。
ボチャン、と小さな水音と共に短剣は池の底に落ちた。
慌てて探し出そうとしたけれど、レイチェルの身体はすっぽりと男の腕の中に納められて動けなくなってしまう。
「ヤー、ぃヤァーーー!」
身を捩ってもどうしても男の腕を振り解くことは出来なかった。
「お願いです、どうか私の目の前でこんなことをなさらないでいただきたい。」
「…どうして…どうして…。」
…どうして見逃してくれなかったのか。
レイチェルは涙を流して嗚咽を漏らしながら、呆然と短剣が落ちたらしき場所を見つめるしかなかった。
「落ち着きましたか。」
散々泣いて力の抜けきったレイチェルが死を諦めたのはもうすぐ日が昇るという頃合いだった。
「ご迷惑をお掛けしました。エルンスト殿下。」
レイチェルの自刃を止めたのは、王弟殿下の令息、エルンスト殿下だった。
「お辛い立場なのはわかります。ですが諦めないで頂きたいのです。
私も、父も、グレイシア公爵も諦めてはおりません。」
「慰めは結構です、殿下。」
もう元には戻れない。失くしたものは取り返せない。諦めるしかないんだ。
「もう、いいんです。私は…戻ります。」
そう言って立ちあがろうとすると、エルンスト殿下は私の腕をガッチリと掴んだ。
「…戻りたいですか?ステファンのところに。」
その質問、今の私にするの?
「…酷いご質問ですね。戻りたいと思うくらいなら初めから出たりはしません。
でも、戻らないとならないのです。」
そう伝えるとエルンスト殿下は破顔した。
「ならば、もう2度と戻らなくて済むようにして差し上げましょう。」
「えっ!?」
「このエルンスト、全てを賭けてあなたをステファンの元から自由にして見せましょう。」
「…どうやって?」
このエルンストに全てお任せ下さい。
そう言ってエルンスト殿下は私を抱き上げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
114
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる