修道院に行きたいんです

枝豆

文字の大きさ
22 / 100

和解2

しおりを挟む
泣き出してしまった私に向かって伸ばされたステファン殿下の手は、側で見張っていた騎士とサラとエッタが私達の間に身体をねじ込むことによって止められた。

「…そうだった。済まない。涙さえも拭かせては貰えないようだ。
…せめてこれを。」

ステファン殿下のポケットから出されたハンカチはエッタの手から私へと渡された。

「…事情はエルから大体は聞いた。そこまで追い詰めてしまってすまなかった。」

うっ、うっ、っと必死で涙を堪えて、なんとか言葉を伝えたかったけれど、しゃくりあげて泣いてしまっているために上手く言葉にならない。
謝らなくていい、ステファン殿下のせいじゃない。
その思いを込めて首を上下に振る。

「私の想いはレーチェだけだ。時が来ればちゃんと妃にしてみせると思っていた。
…レーチェは、待てなかった、か?」
違う、違うのだ。

「そ、っれ、じゃ。っひっく。おっ、たい、しー、の…。い、いげっんが。」

抜け道を探して王妃をすげ替えるような真似をすれば、きっと王太子としての威厳が守れない。
臣下達の中で評価と意見は分かれるだろう。
…万が一、貴族達が似たような事をすればきっとキッテンの婚姻制度は歪になっていつかきっと破綻する。
それは、今後の、家のために婚姻さえも自由にはならない若者達への悪習慣になってしまう。

「…俺のため、か?」
コクコクと頷いた。
「…そんなものはどうでも良かったのに。」
とステファン殿下は呟いて…、
「いや、そうだな。厳格に己を律しなければ、民の信頼は勝ち取れない。」

ふーっとステファン殿下は大きく息を吐いた。

「これで良かったのか?」
そう聞かれたから、大きく頷いてみせた。

ステファン殿下から離れることが、ステファン殿下へ示せる最大の忠誠だから。
「こっ、これで、いいん、でっすっ。」
うん、わかった、そう言いたそうに頷いてくれたステファン殿下に、漸く私の思いが伝わった気がする。

それが嬉しかった。

私を見つけて選んでくれた事も、私に全てを与えて誓ってくれた事も、私の全てを欲してくれた事も嬉しかった。
だけど、私を捨ててくれた事もきっと嬉しく思うはずだ。

私はあなたのためにあなたから離れる。
国のためじゃなくて、王命だからじゃなくて、ただ唯一の人のために。
きっとそれを誇りにして生きていけるに違いない。
その事をようやく理解してくれた事が嬉しかった。

「ありがとう。」

たった一言に心が踊る。漸く報われた。やっと終わりにできる。

「まだしばらくの間はきっと顔を合わせるのが辛い。
必ず乗り越えるから、そうしたらここへ帰ってきて欲しい。」

えっ?
ステファン殿下の言葉で涙が引っ込んだ。

「おそらく俺は子を作らない。ブリトーニャが国母になる事はない。
キッテンの王族の中にシュタインの血を引く者は要らない。

エルとレーチェの子ならきっと我が子のように慈しむ事が出来る…と思う。」

…は?

「国母となったレーチェと、エルと、共にまつりごとができる日を待っている。」

って!?
「私は…。」

その時、ステファン殿下がギュッと私を抱きしめた。
「殿下!」
「最後だから。少しだけ。」

サラが引き剥がしにかかった騎士とエッタを止めたのが見えた。

「エルなら…エルならレーチェを任せられるんだ。他のヤツじゃ耐えられない。
…修道院なんて論外だ。頼むから、幸せになってくれ。
でないと…攫いに行く、きっと誘惑を断ち切れない…。」

そんな…狡いですよ、その言い方は。

「お時間です。約束ですよ、殿下。」

私が言葉を返す前に、私とステファン殿下は離されて、私は連れ出されてしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...