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和解
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王女様の部屋に入ってか10日程経った頃、クラリーチェ殿下から、
「ステフがレーチェと話したい、と言っている。」
と聞かされた。
「今更、合わせる顔がございません。」
私は自分がここから出るために、ステファン殿下から離れるために、ステファン殿下を裏切って、エルンスト殿下を利用した。
「今更?なにそれ。」
「…申し訳なく思っています。」
それじゃ困るのよね、とクラリーチェ様は仰る。
「勘違いしないで欲しいのだけれど、これは王命だと思いなさい。それが国のためよ。
ステフに引導を渡して頂戴。」
「…引導ですか?別に私がそんなことをしなくても、すぐにステファン殿下は私のことなんて忘れてしまいます。」
「それを決めるのはあなたじゃない。」
「…それは…そうですが…。」
「ステフとエルはこれから協力して国を治めていかなきゃならないの。
いつまでも過去を引きずってモタモタされても誰も幸せにはならないわ。
あなたがエルを本気で愛してるなんて思わない。
だけど、そのフリはして頂戴。
それでステフは前を向ける。」
クラリーチェ様は多大な勘違いをされているように思う。しかし、あれこれ悩んでも仕方がない。王命だ、選択権はない。
会えと言われたら、会わないとならないのだ。
私はステファン殿下に会うことを了承するしかなかった。
ステファン殿下との面会は、それぞれの付き人が立ち会う中、中庭で行われた。
ブリトーニャ様との婚約披露のお茶会が行われた場所でもあった。
ステファン殿下は花壇に植えられたクチナシの生垣を眺めながら私を待っていてくれた。
私の気配を感じて振り返ったステファン殿下を見て私は息を呑んだ。
青白い顔、落ち窪んだ眼、痩けた頬…このところの心労の深さをしっかりと物語っていた。
「…元気そうだな。」
声まで弱々しい。
なんて声を掛けて良いかわからなくなって、黙って俯いてしまった。
「…抱きしめたいが、触れられないんだ。
触れた瞬間、話し合いが終わる。聞いてるだろう?」
「はい。」
話すだけ、触れ合ってはならない。
エルンスト殿下が出した条件ということになっている。
「みんな嘘ばっかりで、もう誰を信じていいかわからない。
レーチェだけは、きっと俺に本当の真実を正直に話してくれる、そう信じている。」
「…はい。」
エルンスト殿下の想いを知って、それに応えた事にしなくてはならなかった。
ステファン殿下にはもう一欠片の親愛の気持ちはないと告げなくてはならなかった。
それが、クラリーチェ様からの依頼で、王命の中の大部分を占める。
…はずだった。
だから、そう言わなくてはいけなかった。
手をギュッと握り込んで、俯いた顔をキッと上にあげ、殿下の瞳を真っ直ぐに見て…。
ボロボロと涙が溢れた。
溢れてしまった。
ステファン殿下にだけは嘘は吐きたくなかった。
「ステフがレーチェと話したい、と言っている。」
と聞かされた。
「今更、合わせる顔がございません。」
私は自分がここから出るために、ステファン殿下から離れるために、ステファン殿下を裏切って、エルンスト殿下を利用した。
「今更?なにそれ。」
「…申し訳なく思っています。」
それじゃ困るのよね、とクラリーチェ様は仰る。
「勘違いしないで欲しいのだけれど、これは王命だと思いなさい。それが国のためよ。
ステフに引導を渡して頂戴。」
「…引導ですか?別に私がそんなことをしなくても、すぐにステファン殿下は私のことなんて忘れてしまいます。」
「それを決めるのはあなたじゃない。」
「…それは…そうですが…。」
「ステフとエルはこれから協力して国を治めていかなきゃならないの。
いつまでも過去を引きずってモタモタされても誰も幸せにはならないわ。
あなたがエルを本気で愛してるなんて思わない。
だけど、そのフリはして頂戴。
それでステフは前を向ける。」
クラリーチェ様は多大な勘違いをされているように思う。しかし、あれこれ悩んでも仕方がない。王命だ、選択権はない。
会えと言われたら、会わないとならないのだ。
私はステファン殿下に会うことを了承するしかなかった。
ステファン殿下との面会は、それぞれの付き人が立ち会う中、中庭で行われた。
ブリトーニャ様との婚約披露のお茶会が行われた場所でもあった。
ステファン殿下は花壇に植えられたクチナシの生垣を眺めながら私を待っていてくれた。
私の気配を感じて振り返ったステファン殿下を見て私は息を呑んだ。
青白い顔、落ち窪んだ眼、痩けた頬…このところの心労の深さをしっかりと物語っていた。
「…元気そうだな。」
声まで弱々しい。
なんて声を掛けて良いかわからなくなって、黙って俯いてしまった。
「…抱きしめたいが、触れられないんだ。
触れた瞬間、話し合いが終わる。聞いてるだろう?」
「はい。」
話すだけ、触れ合ってはならない。
エルンスト殿下が出した条件ということになっている。
「みんな嘘ばっかりで、もう誰を信じていいかわからない。
レーチェだけは、きっと俺に本当の真実を正直に話してくれる、そう信じている。」
「…はい。」
エルンスト殿下の想いを知って、それに応えた事にしなくてはならなかった。
ステファン殿下にはもう一欠片の親愛の気持ちはないと告げなくてはならなかった。
それが、クラリーチェ様からの依頼で、王命の中の大部分を占める。
…はずだった。
だから、そう言わなくてはいけなかった。
手をギュッと握り込んで、俯いた顔をキッと上にあげ、殿下の瞳を真っ直ぐに見て…。
ボロボロと涙が溢れた。
溢れてしまった。
ステファン殿下にだけは嘘は吐きたくなかった。
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