修道院に行きたいんです

枝豆

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王女棟の暮らし

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王女様のお部屋は快適だった。快適過ぎた。
まず、この棟は男性の立ち入りが出来ない。
ステファン殿下もエルンスト殿下も来れない。
次に、王妃殿下からの差し入れが無くなったのだ!

やっほっー!
嬉しそうにエッタがお茶を淹れてくれる。
それがとっても嬉しくてついニヤけながら見てしまう。
サラとエッタと3人で座ってお茶を飲むようにもなった。
最初は頑なに固辞されたけれど、ずっと孤独だった、こうやって同性とお喋りできるのは半年ぶりで、修道院に行くまでの僅かな期間なのだから、と2人を無理矢理押し切った。
一度してしまえば、後はなし崩し的に習慣になる。

男子禁制だけれど女性は別だ。手続きさえ踏めば人を招くことも許された。もちろん、最初にやってきたのはお母様だった。

「リーチェ!!」
「お母様!!」

約半年ぶりの再会だった。
一時帰宅すら許されていなかった私は、久しぶりに会えたお母様の胸の中でわんわんと泣いた。

お母様はずっと、
「ごめんね。ごめんね。」
とやっぱり泣いていた。
それを見てエッタも泣いて…、みんなでひとしきり泣いた。

満足するまで泣き続けて、一息ついてからは、とにかく喋り倒した。

「お父様とお兄様はどうしてる?」
と聞くと、この半年殆ど毎日忙しく駆けずり回っていたらしい。
「グレイシア公爵がとにかく親身になってくれていてね。」
「グレイシア公爵が!?」

アデリーナ様だ!アデリーナ様が私を心配してくれて、公爵様に働きかけて下さったのだ!
最初の目的だった、「高位貴族との縁」を深めることができた。
良かった、報われたんだ。

であるならば。私は次へ進まなければ!

「ねえ、お母様、お願いがあるのだけれど。」
「何?」
「ここを出た後のことなんだけど。」

途端にお母様が困り顔になる。
「それは…でも家に戻ってくれば…良いんじゃないの?」
「家には戻りたくはないの、もう迷惑は掛けられないから。」
まともな結婚は出来ない傷が付いた私が家にいたら、お父様もお兄様も困るだろう。
「でね、どこかに良さそうな修道院はないかしら?」

お母様は悩み始めてしまってなかなか答えてくれなかった。
仕方なくサラにも話を振ってみた。
「サラ、あなたはどこか知っているかしら?」
「…修道院、ですか?」
サラもまた眉がハの字になってしまっている。

「レイチェル、ほら、あなたの行き先はクラリーチェ様がお決めになると思うから…。」
「そ、そうですね。クラリーチェ様がきっと良きところを見繕って下さいますわ。ええ、多分。」
そうよね、そうですわね、と母とサラが目と目で会話をして、頷き合っている。

「今後の事は気にしないで、のんびり過ごしていれば、悪いようにはならないわ、大丈夫よ、きっと。」
「そうですわ、これからはお幸せになりますよ、多分。」

ねえ?はい!と2人は頷きあっている。

「大丈夫…なのかしら?」
「大丈夫よ、きっと。」
「ええ、何の心配も要りませんわ、多分。」

「そんなことより、月のものは来そうなの?身体の方は問題がない?よく眠れているの?ちゃんと食べられている?
あっ、そうだわ。食べたいものがあれば差し入れるし、必要なものは何かある?」

「ちょっと待って、そんなにいっぺんに聞かれても答えられないじゃない。
えっと、月のものは未だよ。夜はぐっすり眠れているわ。後は…なんだったかしら?
とにかく今の暮らしは気楽で穏やかで、最高!」

「そう、じゃあ、この後のことはとりあえず考えなくていいじゃない。今はゆっくり身体を休めてのんびりしていればいいじゃない。

そのうちクラリーチェ様からのお沙汰があるわ。いくつか候補があれば悩む余地もあるけれど、そうしなさいと決められたら従うしかないんだもの。
あれこれ迷うだけ今は無駄よ、そう、きっと無駄だわ。」

相変わらずの日和見。
でもそれは仕方がないこと、しがない伯爵夫人と伯爵令嬢がどんなに抗ったとしても、王族の意向には逆らえない。
それがのキッテンの貴族なのだから。

「…幸せになれるまで諦めちゃダメよ。」
優しく母が言ってくれるから、
「はい、頑張ります。」
と微笑んだ。

昼間は限られた人ではあるけれど、賑やかに過ごせた。
けれど、夜はまた違う。

「それでは失礼致します。おやすみなさいませ。」
「今日も1日ありがとう。おつかれさま。」
サラが部屋を出て行くと、静寂の中にひとりになる。
あまりの静かさに眠れない夜が続いていた。

ひとりでいると色々な事を考えてしまうのはどうしてなのかしら?
私のひとり脳内反省会が終わる気配はない。

あの日、目覚めた時にあの短剣がなかったら…。
何もかも振り切って、横に眠るステファン殿下に擦り寄って眠っていたら…。
エルンスト殿下に見つからなかったらこうはなってはいなかった…し。
それが最善だったのか、最悪だったのか…。

色々な思いが浮き上がって、自然に沈んだり、無理やり沈めたり…。

エルンスト殿下の申し出を受けた事に悔いはない。
ただ、好きにしていいとまでの覚悟を見せたのに、エルンスト殿下は「今はそこまでしなくていい。もっと自分を大切になさい。」と言った。

ほんの数刻前までステファン殿下のベッドにいた私を抱く気にならなかったのかもしれない。エルンスト殿下は優しかったし、とても労ってくれたと思う。拒絶された事への思いはさほどない。不思議なことに…。

実際あの時それ以上は要らなかったのだから、あれはあれでよかった…はず。
本当に…要らなかった…のかしら?あれで良かった…のかしら?
あの時の私の言ったことした行動をエルンスト殿下はどう思ったのだろうか。

そして…。
ステファン殿下はどう思ったのだろうか。

私のことを裏切り者だと怒っているだろうか。
それとも嘆いているのだろうか…。

ステファン殿下がエルンスト殿下の部屋から出された後のステファン殿下の事は誰も教えてはくれないから。
何故私があんなことをしでかしたのかを誰もステファン殿下に伝えてはくれないから。
だからきっと私の脳内反省会は永遠に答えは出ないんだと思う。

悩んだって後悔したってもう遅い。時はもう戻らない。

…だけど。
もしあの時、あの短剣を受け取らなかったら…。

くるくると思いは周って、また元の場所に戻ってきて。
沈んだはずの、沈めたはずの気持ちがゆらゆらと浮かび上がってきて。

気付いたらぐっすり眠って朝を迎える事もあれば、朝の支度のために入ってきたサラやエッタの足音を聞く日もある。

…手紙を書こう。
アデリーナ様に、お父様に、それから教会にも修道院にも。

ここにいつまでもいられるはずはないのだから。
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