修道院に行きたいんです

枝豆

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未来の国母

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「…どういう事かしら?」

ブリトーニャ様の表情が固くなる。
対象的にエルンスト殿下の表情はとても柔らかくてなんだか楽しそうだ。

「だって。ブリトーニャがステファンの子供を産む事はないから。」
「それはまだわからないわ。これから…」
「ないよ。」

ブリトーニャ様の言葉を遮るようにエルンスト殿下は言葉を被せた。
まだ結婚式すら挙げてないお2人に対して、そんなことが言い切れるのかしら?
私の頭の中の疑問符をエルンスト殿下は端的に消し去った。

「ステファンはレイチェルを愛し続けるから。ステファンは一生あなたのものにはならないよ。
そして、レイチェルは俺の子を産む。子が成せないステファンは次王を俺の子に託すしかない。
そうなれば、国母はレイチェルだ。」

「「そんなことにはなりません!!」」
期せずして、私とブリトーニャ様の声が重なった。

しかし思いは違う。
「私はステファン殿下の子を産みますわ。それが勤めですから。…直ぐにでも。」
そうブリトーニャ様は言った。
そうしなければならない理由がブリトーニャ様にはあるから。

私の思いは違う。
私はエルンスト殿下にこれ以上の迷惑を掛けるつもりはなかった。

「リーチェ。」
エルンスト殿下が私を嗜める声はどこか哀しげに聞こえた。

…っ痛い!

「リーチェ、そんな事言わないで。
君が遠慮する気持ちはわからなくはないけれど、君は俺に愛されて、俺の子を産む。」
優しく頬を撫でる指先はとても優しい…けど。
ドレスに隠れた私の爪先はエルンスト殿下に踏まれてとても痛い。

はい、察しました。
ブリトーニャ様にも嘘をつけ、演技をし続けろ、と。はいはい、わかりました!

「ステファン殿下はいずれ私のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまいますから。ブリトーニャ様と次代をお作りになりますわ。だから私が国母になることはありません。」

これでよろしいですか?
という思いを込めて睨みつける。
爪先を上下に動かして、合図を送った。
(足を退けて!!)と。

「ああ、そうだね。ステファンはレイチェルの事は綺麗さっぱり忘れるね。
でも、割り込んできたブリトーニャを伴侶として認めるかどうかは別だよ。
まあ、俺たちには関係がないことだ。
2人でゆっくり考えればいい。」

ようやくエルンスト殿下は私の足を踏みつけるのをやめてくれた。

「行こうか。」
繋いでいた手が離されて、私の腰に回る。
密着度が更に増した。

「あっ、そうそう。
あなたはまだご存じないようだから俺から教えてあげよう。
キッテンの王は必ず王族の相談役を持つ。カルロ陛下の相談役は父だし、ステファンの相談役は俺。王妃殿下の相談役は母だ。
ブリトーニャの相談役は誰になるだろうね。すまないね、今キッテンの王族はものすごく少ないんだ。
叔母や母はレイチェルに負い目があることは忘れないで欲しいな。」
「私を蔑ろにすればシュタインの兄が黙っていない。」

ブリトーニャ様の言葉を聞いてエルンスト殿下はフッと笑った。
「残念だけど、レイチェルを蔑ろにすれば、レスボートのアデリーナ王太子妃が黙ってないし、キッテンの貴族はレイチェルに同情的だし。
レイチェルとは仲良くした方がいい。それが君のためだ。
…お飾りの王妃のままでいたくなければ。」

そう言い放って、今度こそエルンスト殿下は歩き始めてくれた。
「失礼致します。」
ブリトーニャ様に軽く一礼だけして、私は王女の棟の扉を潜った。

「スッキリした?」
ええ、と答えられたらどんなに良かったか。
だけど、
「言い過ぎだったのでは?」
と私は答えた。

「あれくらいで丁度いい。人の人生を捻じ曲げたんだから。
大人しく自国で貴族に降嫁していたら良かったんだよ。」
「相当お嫌いのご様子ですね。」
気持ちはわからなくもない。
ブリトーニャ様が捩じ込まれていなければ、エルンスト殿下がこんな汚れ役をすることもきっとなかった。

「いいや、感謝してるよ、この上なく。レイチェルが俺のところに来てくれるんだから、ね?」
と相変わらずの調子の良さだけど。

「しばらく会いには来られないけど、いつも君を想っているから。」
エルンスト殿下は右手を私の肩に、左手を私の腰に回して、額を私の額にくっつけながら囁く。

「ありがとうございました。」

エルンスト殿下は、ご自分の不名誉を引き受けてまで、私をあの牢獄のような場所から外へ出してくれた。
感謝してもし足りない。

「もう、十分です。」
王妃殿下のお茶さえ飲まなければ、近いうちに体調は元に戻るだろう。
身籠もってない事さえ証明出来れば、私がここに留まらなければならない理由もなくなる。
エルンスト殿下とはここでお別れだ。

「…どうかお健やかに。」
軽く一歩後退りして身体を少しだけ動かす。

殿下の額が離れて、腕が解かれ…ない?

「あ、あの殿下?エルンスト殿下?」
エルンスト殿下は私が後ろへ下がった分だけ前に進んできてしまう。
離れた額にの代わりに、今度はエルンスト殿下の頬が私の頬をスリスリと摩り、身体に巻き付けられた腕には更に力が込められた。

「…離れたくないんだ。」

はい、まだまだ演技続行なのですね。
でももう必要ないと思いますけど?
そっとエルンスト殿下の体を押し返した。

「釣れないな。」
と言いながら、今度はスルッと殿下は私から離れた。
「多分、ここを出る前に一度会いに来られるとは思う。」
「はい。お待ちしております。」
「待っててくれるの?」
「はい。」

だって、「悪いけど、責任は取れない。」って言いに来なきゃならないから。

その時、私は本当の意味で自由になれる。
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