修道院に行きたいんです

枝豆

文字の大きさ
18 / 100

ブリトーニャ

しおりを挟む
私はクラリーチェ様預かりとなり、しばらく使われていない王女様の居住区の棟で過ごすことに決まり、すぐに移るようにと命じられた。
この話を私はサラというクラリーチェ様の侍女から聞かされ、更にサラはしばらく私の側にいる事にもなったそうだ。
要は見張りだろうけれど、そんなの構わない!
いやっほぉーー!やったっ!
私はステファン殿下が来られない場所に、あの部屋から堂々と出て行ける!
あ、嬉しい。
あーどうしよう、顔がニヤける。

「王女棟の部屋じゃ、俺、忍んでも会いにいけないじゃないか。」
「だからですよ、殿下。クラリーチェ様が決めたのですからどうか諦めてください。

サラとエルンスト殿下のやりとりを横目で見ながら、私は思う。

…来なくていいから。というか頼むから来ないで!と。

エルンスト殿下に忍ばれて来られたら、今度こそ私の首はクラリーチェ様によって刎ねられる。
いい加減わかってきた気がする。
エルンスト殿下はふざけた口調で周囲を煙に巻く、お調子者の気質がある。

エルンスト殿下にとってこのサラという女性はどうやら鬼門というか、うだつが上がらないというか。
エルンスト殿下の冗談は全く通じずにいた。

「仕方ない。必要な期間なんだろう。レイチェル行こうか、せめて俺に送らせて。」
諦めたエルンスト殿下が私のエスコートを申し出てくれる。
だから、お願いします、とエルンスト殿下の手を取った。
隔離される想い人を惜しむ立場を装い続けようとエルンスト殿下、最後の最後まで演技をし続けるつもりらしいから、それに合わせるだけだ。

エルンスト殿下と私は手を繋いで部屋を出た。
すると、

「これ、なあに?」
「さあ?」

侍女や侍従、警護の騎士…。
沢山の人が仕事の手を止めて、廊下の端で私達が通り過ぎるまで敬礼の姿勢を保って…。

何を言われるわけでもないけれど、私たちが通り過ぎるまで深々とお辞儀をしてくれる。
こんな事は今までなかった。
ステファン殿下と歩いている時でさえ。

「エルンスト殿下はいつも使用人達にこうさせているのですか?」
「まさか。やめてくれ。そんな不遜な趣味はない。」

奇妙な光景に、エルンスト殿下はいつもそうさせているのかと思ったが違った。
流石に違うか…。

「レイチェルにだよ。」
と、ボソリ、エルンスト殿下が耳打ちで教えてくれる。
「私に?まさか。」
信じられない、そんなことがあるわけがない。城で働く人はあの日以来私をいない者のように扱ってきたのだから。
「だからだよ。彼らだって人の心くらいはあるさ。
それに誰に忠誠を誓うか、誰に尽くすべきか、彼らなりに考えて出した答えだ。」

そんな事はあり得ない。ここにいる人は皆国に忠誠を誓った人ばかり、もちろん私もだ。
仕えるべきは国王陛下だ。

「まあ、そのうち解る。」
とエルンスト殿下は言うけれど、そんな日は来るとは思えなかった。

廊下の端に立つ人達の中に、ブリトーニャ様が立っていた。
ブリトーニャ様は私に気付くとツカツカとこちらに向かって歩いてきて、私の行先を遮るように止まる。
どうやら噂を聞きつけて、待ち構えていたらしい。

お見送りではないことは直ぐにわかった。
今一番会いたくない人が、鬼のような顔で私を睨みつけていた。
私はそっと視線を下げて膝を曲げた。そうする事で私の気持ちが伝わると良いな、と思って。

だけど、ブリトーニャ様は遠慮なく私を罵る事にしたらしい。

「本当に喰えない人ね、あなたは。節操のなさに驚きます。」
私は黙っていた。
今、何か喋ったら、心の奥底にある出してはいけない感情が溢れ出てしまいそうだったから。

代わりに?エルンスト殿下が応じてくれた。
「私が請い願ったのですよ、ブリトーニャ。」
「それこそ節操なしの証なのでは?ステファンに侍りながら、エルンストにも粉を撒いていたのですから。」
「そうではありませんよ。あなたが城にやってくるはるかに前から私の想いはひとつでしたので。
私の愛する人を侮辱するのは謹んで頂きましょう。」

ははは、っとブリトーニャ様は笑う。
私だってこんな状況じゃなければ、笑ってしまったかもしれない。
何が私の愛する人だ、そんな見えすいた演技が通用するとは思えない。

「何はともあれ、その負け犬の淫売の顔を見なくて済むのは喜ばしいことです。
せいぜい王妃殿下のご慈悲がある事を祈っていればいいわ。」
「忘れたとは言わせませんよ。レイチェルに負けて、先にスゴスゴと尻尾を巻いて国に逃げたのはブリトーニャ、あなたの方ではなかったか。
それにステファンが結婚するのはダリアン島だ。
あなたはそれにくっついてきた寄生虫に過ぎない。」

エルンスト殿下の嫌味が止まらない。
さすがにブリトーニャ様の表情が怖いくらいに怒りに震えている。

「エルンスト殿下!もう、おやめになって!」
一言われて十返している。もう十分だ。
これから王族としてお2人はステファン殿下と共に在らねばならない。
出て行く私のために2人がやりあう必要はない。

やめて、と言った私に対して、エルンスト殿下はとんでもない言葉を口に出した。
「ええ、そうしましょう。未来の国母殿下が仰ることでしたら。」
エルンスト殿下の一言が、私とそしておそらくブリトーニャ様をも凍り付かせた。

「…国母?」

コクボって…あの国母?まさか!
なんだか話が見えなくなっていませんか?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...