44 / 100
転換の兆し
しおりを挟む
俺は婚約者選定の場で全くブリトーニャを見ていなかったから、人となりを見定める事から始めた。
王族だったブリトーニャは王族としての素養は十分に兼ね備えていた。
マナーはもちろん、他者に対する態度も王妃として上に立つ気概のようなものは十分に持っている。
レイチェルはそうじゃなかった。上に立つというよりは横に寄り添う感じがする。
もちろん悪い事じゃない。
ただ、違う、それだけ。
レイチェルとの事はいつのまにか貴族達の間では噂が既定事実となりつつある。
悪いのは割り込んできたブリトーニャ。
悲劇の令嬢のレイチェル。
俺もそう思っていたし、そんな言動を取ったから、あながち皆を責められない。
ブリトーニャはただ黙ってひたすらに耐えていた。
机の上の黒い壺を見て毎日考えた。何故ブリトーニャはあれをレイチェルに渡したのかと。
あんな事を好んでするようなタイプには見えない。貴族の陰口にも黙ってひたすら耐えている。敵を作ったり争いごとを好むタイプではない。
きっかけはある夜会だった。
最低限の挨拶だけをしてブリトーニャの周りから人は去る。
ブリトーニャも最低限の事をして早々に抜け出していく。
当然だと思っていた、最低限のことさえしてもらえたら十分だ。
ブリトーニャが去った後から夜会が砕けたものに変わる。
「いつまでもシュタインのドレスを纏うのかしらね。」
ふと耳に入ったあるご婦人の言葉。
…そういえば。
俺はブリトーニャにドレスを見繕った事はなかった。
もちろん衣服費は与えられているはずで、自分で見繕って作ればいいと思っていたし、ブリトーニャもそうすると思っていた。
何が気になったのかはわからない。ただ城に入ってからのブリトーニャの購入履歴を取り寄せてみた。
「0?」
「はい、ブリトーニャ様が公費で買われたものはありません。」
ドレスだけじゃなく、宝飾品も些細な買い物でさえも、公費で買ったものはない。
輿入れの時に持参したもので全てやりくりしている、だと?
「なんでだ?」
「着飾るだけの王太子妃になるつもりはありません、と仰っています。」
「…そうか。勝手にすればいい。」
口ではそういったものの、それはマズイとも思っていた。
王族がある程度の財を使うこと、これもまた公務だ。
でなければ、国の経済が回らない。
ブリトーニャの周りの者は誰もそれを指摘していないのだ。
「もう少し金を使え。」
ブリトーニャを呼び出して伝えると、
「何故ですか?」
と素気なく答えが返ってくる。
「当てつけか?」
「意味がわかりません。」
と、会話にならない。
国の経済のことを話して聞かせると、
「だったらカトリーナ様やクラリーチェ様が使えばよろしいのでは?」
「母はともかく、クラリーチェ様には衣服費は支給されていない。」
「はっ!?」
…知らなかったのか?まさか?
「ブルーノ殿下には大公領の収入で賄って貰っている。ライナス公爵もそうだ。相談役としての経費はあるが、衣服費は出ていない。母だけでは王族として国の経済に貢献出来ない。」
「…わかりました。今後は善処します。」
それだけ言ってブリトーニャは出て行った。
…何かおかしい。
もう少しブリトーニャの事を知らないとマズイかもしれない。
「もう少し調べてくれ。」
と更に侍従に命じた。
そして知った。
シュタインの王族維持費の額はとんでもない高額だった。
キッテンの3倍ほどもあるらしい。
まあ、王族の人数も違うし、一口では語れないのかもしれないけれど、決められた財政の中でやりくりしているとも考えられない額だった。
まず、持参金の額からして破格だった。
…なのに?ブリトーニャには散財どころか必要なものを買う気配すらない。
…おかしい。何かがおかしい。
その事を母に尋ねた時だった。
「シュタインの王妃が散財するからよ。
ブリトーニャはそれを諌めたらしいんだけど、相当嫌われちゃったみたいね。追い出されるようにここに来た。
…不憫な子なのよ。間違っちゃいないんだけど、真っ直ぐ過ぎるわ。」
「…真っ直ぐ過ぎる?」
「そうよ、真っ直ぐで、ゆとりが持てないのよね、甘えを知らないっていうか。
こうじゃなきゃ、って思い込むと…ダメよね。」
真っ直ぐ、ゆとりがない、甘えられない。
こうじゃないと思い込む…。
「何があったか知らないけれど、ブリトーニャに興味を持つのは良いことよ。
…ねえステフ、何故レイチェルが身をひいたのかは理解したんでしょう?
じゃあブリトーニャはどうすれば良かったんだと思う?」
ブリトーニャがどうするか…?
王妃に嫌われて国を出された。
嫁いだ男には別の想い人がいて…。
王太子妃としての立ち振る舞い…は。
真っ直ぐ過ぎるブリトーニャが思い込んだら?
「あなたが誓わなきゃいけない人は誰?」
「…それは。」
「いい加減にしなさい、ステフ。苦しいのはあなただけじゃないのよ。」
王妃である母が呆れたように俺を諭しに掛かった。
「何がです?」
「ブリトーニャの事よ、あと自分のことも。
許して許されて2人で乗り越えていきなさい。恨み言は私に向けなさい、決めたのは私なんだから。
もうわかっているんでしょう?」
わかっている。いや、わかってやらなければならない。
何故ブリトーニャがレイチェルにあんな事をしたのか、は。
王太子の威厳が守れない。
俺のために身を引いたレイチェルはそう言った。
俺のために悪役を買って出たブリトーニャ。
悪役を買って出た?
おかしい、なにかおかしい。
王族だったブリトーニャは王族としての素養は十分に兼ね備えていた。
マナーはもちろん、他者に対する態度も王妃として上に立つ気概のようなものは十分に持っている。
レイチェルはそうじゃなかった。上に立つというよりは横に寄り添う感じがする。
もちろん悪い事じゃない。
ただ、違う、それだけ。
レイチェルとの事はいつのまにか貴族達の間では噂が既定事実となりつつある。
悪いのは割り込んできたブリトーニャ。
悲劇の令嬢のレイチェル。
俺もそう思っていたし、そんな言動を取ったから、あながち皆を責められない。
ブリトーニャはただ黙ってひたすらに耐えていた。
机の上の黒い壺を見て毎日考えた。何故ブリトーニャはあれをレイチェルに渡したのかと。
あんな事を好んでするようなタイプには見えない。貴族の陰口にも黙ってひたすら耐えている。敵を作ったり争いごとを好むタイプではない。
きっかけはある夜会だった。
最低限の挨拶だけをしてブリトーニャの周りから人は去る。
ブリトーニャも最低限の事をして早々に抜け出していく。
当然だと思っていた、最低限のことさえしてもらえたら十分だ。
ブリトーニャが去った後から夜会が砕けたものに変わる。
「いつまでもシュタインのドレスを纏うのかしらね。」
ふと耳に入ったあるご婦人の言葉。
…そういえば。
俺はブリトーニャにドレスを見繕った事はなかった。
もちろん衣服費は与えられているはずで、自分で見繕って作ればいいと思っていたし、ブリトーニャもそうすると思っていた。
何が気になったのかはわからない。ただ城に入ってからのブリトーニャの購入履歴を取り寄せてみた。
「0?」
「はい、ブリトーニャ様が公費で買われたものはありません。」
ドレスだけじゃなく、宝飾品も些細な買い物でさえも、公費で買ったものはない。
輿入れの時に持参したもので全てやりくりしている、だと?
「なんでだ?」
「着飾るだけの王太子妃になるつもりはありません、と仰っています。」
「…そうか。勝手にすればいい。」
口ではそういったものの、それはマズイとも思っていた。
王族がある程度の財を使うこと、これもまた公務だ。
でなければ、国の経済が回らない。
ブリトーニャの周りの者は誰もそれを指摘していないのだ。
「もう少し金を使え。」
ブリトーニャを呼び出して伝えると、
「何故ですか?」
と素気なく答えが返ってくる。
「当てつけか?」
「意味がわかりません。」
と、会話にならない。
国の経済のことを話して聞かせると、
「だったらカトリーナ様やクラリーチェ様が使えばよろしいのでは?」
「母はともかく、クラリーチェ様には衣服費は支給されていない。」
「はっ!?」
…知らなかったのか?まさか?
「ブルーノ殿下には大公領の収入で賄って貰っている。ライナス公爵もそうだ。相談役としての経費はあるが、衣服費は出ていない。母だけでは王族として国の経済に貢献出来ない。」
「…わかりました。今後は善処します。」
それだけ言ってブリトーニャは出て行った。
…何かおかしい。
もう少しブリトーニャの事を知らないとマズイかもしれない。
「もう少し調べてくれ。」
と更に侍従に命じた。
そして知った。
シュタインの王族維持費の額はとんでもない高額だった。
キッテンの3倍ほどもあるらしい。
まあ、王族の人数も違うし、一口では語れないのかもしれないけれど、決められた財政の中でやりくりしているとも考えられない額だった。
まず、持参金の額からして破格だった。
…なのに?ブリトーニャには散財どころか必要なものを買う気配すらない。
…おかしい。何かがおかしい。
その事を母に尋ねた時だった。
「シュタインの王妃が散財するからよ。
ブリトーニャはそれを諌めたらしいんだけど、相当嫌われちゃったみたいね。追い出されるようにここに来た。
…不憫な子なのよ。間違っちゃいないんだけど、真っ直ぐ過ぎるわ。」
「…真っ直ぐ過ぎる?」
「そうよ、真っ直ぐで、ゆとりが持てないのよね、甘えを知らないっていうか。
こうじゃなきゃ、って思い込むと…ダメよね。」
真っ直ぐ、ゆとりがない、甘えられない。
こうじゃないと思い込む…。
「何があったか知らないけれど、ブリトーニャに興味を持つのは良いことよ。
…ねえステフ、何故レイチェルが身をひいたのかは理解したんでしょう?
じゃあブリトーニャはどうすれば良かったんだと思う?」
ブリトーニャがどうするか…?
王妃に嫌われて国を出された。
嫁いだ男には別の想い人がいて…。
王太子妃としての立ち振る舞い…は。
真っ直ぐ過ぎるブリトーニャが思い込んだら?
「あなたが誓わなきゃいけない人は誰?」
「…それは。」
「いい加減にしなさい、ステフ。苦しいのはあなただけじゃないのよ。」
王妃である母が呆れたように俺を諭しに掛かった。
「何がです?」
「ブリトーニャの事よ、あと自分のことも。
許して許されて2人で乗り越えていきなさい。恨み言は私に向けなさい、決めたのは私なんだから。
もうわかっているんでしょう?」
わかっている。いや、わかってやらなければならない。
何故ブリトーニャがレイチェルにあんな事をしたのか、は。
王太子の威厳が守れない。
俺のために身を引いたレイチェルはそう言った。
俺のために悪役を買って出たブリトーニャ。
悪役を買って出た?
おかしい、なにかおかしい。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる