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別離
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「やめて下さい。レイチェルに謝って欲しくはない。」
「いいえ、謝らせて下さい。私も王族の端くれですから。」
おそらくカトリーナ様は私の処遇についてラウール様の所へと脚本を描いていたに違いない。
それはエルンスト殿下が勝手に書き換えた。
私達がライナス領にいる間に、王都やお城では面白おかしく脚色が加えられて、噂はどんどんと広がって、何か本当なのかは全くわからなくなっていった。
それを耳にしたラウール様はどう思っていらしたんだろう。
「やめてくれ…。王族の端くれだなんて…。それは言わないでくれ…。」
ラウール様の腕が私に伸びて、私は少し、ほんの僅かだけ身を引いた。
ハッとした表情と共にラウール様の動きが止まる。
伸ばされた手は行き場を無くして力無く降ろされた。
「…失礼致しました。…つい昔のように…。
私は、レイチェル様が不本意ながら王族の決定に従ったのではないか、今でもお辛い立場にあるのではないか、そんな思いが消える事はありませんでした。」
ステファン殿下に捨てられた上にエルンスト殿下に押しつけられて、心が伴わない婚約を突きつけられているのではないか…。
そう思ってしまう。打ち消しても打ち消しても…終わりに出来ない。
ラウール様にどこまで話して良いのだろう、どこまで話せばラウール様はわかってくれるのだろう。
「確かに、ステファン殿下とのことはとても悲しい出来事でした。あの状態のまま長く城に居続ける事は、私が望んだ事ではありません。
私はなんとかしてその時の状況から抜け出す事を模索しました。
それを手助けしてくれたのがエルンスト殿下でした。
私はエルンスト殿下から差し伸べられた手を、自分の意思で掴みました。」
その頃…もしレイモンド伯爵からの手紙を読んでいたら…。
ラウール様は兄の良い友人で、子供の私にも紳士で優しくて…。
そう、ラウール様は憧れの対象になっていてもおかしくはなかった。それは否定できない。
けれどもそうなるよりも前にラウール様は領地をお継ぎになって我が家には来なくなった。
もしあのときああだったら、もしあの時こうだったら…。
もし、ラウール様のお心を一番最初に知っていたら、婚約者選定の最初の10人にすら入らなかった。
…でも、今更だ。
「あの頃、私はまだまだ子供でした。
きっとラウール様からの愛情を感じ取れる程には大人では無かったのだと思います。」
「今は?」
「えっ!?今!?」
今は…。
「私は…自分の運命を今ほど悔しく思った事がない。
父が生きていて、まだ財務部の官僚で、貴女の側であなたが大人になるのを見守っていられたら…きっと…。
取り戻せるのなら、取り戻したい。」
「私は…取り戻したくは…ありません。」
「あんなに辛い目にあったのに?」
…やり直したいと思った事は確かにあった。
私はひとり脳内反省会で幾度も幾度も…。
でも…。
「今きっと時間を巻き戻して人生をやり直せるとなったら…そうなっても絶対に同じ道を選ぶと思います。
今が、とても幸せだから。
エルンスト殿下が私に示してくれた気持ちは決して義務を果たすものや責任を取るだけのものではなかったと私は信じています。
きっと、それだけの愛情をエルンストは時間を掛けてたっぷりと私に与えてくれました。」
そう伝えると、ラウール様は目を閉じて何かを考えるように項垂れた。
大きく息を吐いて、真っ直ぐに私を見つめた。
「もし何もかも捨てて、私と一緒に来て欲しいと言ったらどうなりますか?」
あなたに一度だけ機会をあげる。
カトリーナ様は私にどうしろと言いたいのだろうか…。
ああ、そうだ。
ーよく考えて自分で決めなさい。
私は…。
「どうにもなりません。
私は…ラウール様の手を取ることは…ありませんから。」
弱々しくラウール様は笑った。
「いつのまにか昔のようにラウールと呼んで下さっていますね。」
あっ!
やっちゃった!
「わかっています。カトリーナ様からは「終わりにするための機会をあげる。」と、そう言い含められて今日の日をいただきましたので。
ただ、知っていて欲しかったのです。
…私がただのレイチェルを愛した事、冷たくあなたを見捨てたのではないという事を。」
「はい、ありがとうございます。肝に銘じておきます。」
誰からも相手にされず無視され続けた訳じゃなかった。
一方でハットンが言った言葉を思い出す。
エルンスト殿下がそうしなければならなかった理由もまたあるのだと。
もう迷わない。
私は自分で決めて、居る場所を選んだんだ。
外が騒がしくなり始めた。聞き覚えのある声が大きく響いている。
もうここにいてはいけない。
「お目にかかれて良かったと思います、レイモンド伯爵。」
私は立ち上がって話の終わりを告げた。
「貴重なお時間をくださってありがとうございました。レイチェル妃殿下。」
そういってラウール様もまた立ち上がられた。
「見送りは結構です。ひとりで戻ります。」
そう言い捨てて、私はひとりで歩き始めた。
「いいえ、謝らせて下さい。私も王族の端くれですから。」
おそらくカトリーナ様は私の処遇についてラウール様の所へと脚本を描いていたに違いない。
それはエルンスト殿下が勝手に書き換えた。
私達がライナス領にいる間に、王都やお城では面白おかしく脚色が加えられて、噂はどんどんと広がって、何か本当なのかは全くわからなくなっていった。
それを耳にしたラウール様はどう思っていらしたんだろう。
「やめてくれ…。王族の端くれだなんて…。それは言わないでくれ…。」
ラウール様の腕が私に伸びて、私は少し、ほんの僅かだけ身を引いた。
ハッとした表情と共にラウール様の動きが止まる。
伸ばされた手は行き場を無くして力無く降ろされた。
「…失礼致しました。…つい昔のように…。
私は、レイチェル様が不本意ながら王族の決定に従ったのではないか、今でもお辛い立場にあるのではないか、そんな思いが消える事はありませんでした。」
ステファン殿下に捨てられた上にエルンスト殿下に押しつけられて、心が伴わない婚約を突きつけられているのではないか…。
そう思ってしまう。打ち消しても打ち消しても…終わりに出来ない。
ラウール様にどこまで話して良いのだろう、どこまで話せばラウール様はわかってくれるのだろう。
「確かに、ステファン殿下とのことはとても悲しい出来事でした。あの状態のまま長く城に居続ける事は、私が望んだ事ではありません。
私はなんとかしてその時の状況から抜け出す事を模索しました。
それを手助けしてくれたのがエルンスト殿下でした。
私はエルンスト殿下から差し伸べられた手を、自分の意思で掴みました。」
その頃…もしレイモンド伯爵からの手紙を読んでいたら…。
ラウール様は兄の良い友人で、子供の私にも紳士で優しくて…。
そう、ラウール様は憧れの対象になっていてもおかしくはなかった。それは否定できない。
けれどもそうなるよりも前にラウール様は領地をお継ぎになって我が家には来なくなった。
もしあのときああだったら、もしあの時こうだったら…。
もし、ラウール様のお心を一番最初に知っていたら、婚約者選定の最初の10人にすら入らなかった。
…でも、今更だ。
「あの頃、私はまだまだ子供でした。
きっとラウール様からの愛情を感じ取れる程には大人では無かったのだと思います。」
「今は?」
「えっ!?今!?」
今は…。
「私は…自分の運命を今ほど悔しく思った事がない。
父が生きていて、まだ財務部の官僚で、貴女の側であなたが大人になるのを見守っていられたら…きっと…。
取り戻せるのなら、取り戻したい。」
「私は…取り戻したくは…ありません。」
「あんなに辛い目にあったのに?」
…やり直したいと思った事は確かにあった。
私はひとり脳内反省会で幾度も幾度も…。
でも…。
「今きっと時間を巻き戻して人生をやり直せるとなったら…そうなっても絶対に同じ道を選ぶと思います。
今が、とても幸せだから。
エルンスト殿下が私に示してくれた気持ちは決して義務を果たすものや責任を取るだけのものではなかったと私は信じています。
きっと、それだけの愛情をエルンストは時間を掛けてたっぷりと私に与えてくれました。」
そう伝えると、ラウール様は目を閉じて何かを考えるように項垂れた。
大きく息を吐いて、真っ直ぐに私を見つめた。
「もし何もかも捨てて、私と一緒に来て欲しいと言ったらどうなりますか?」
あなたに一度だけ機会をあげる。
カトリーナ様は私にどうしろと言いたいのだろうか…。
ああ、そうだ。
ーよく考えて自分で決めなさい。
私は…。
「どうにもなりません。
私は…ラウール様の手を取ることは…ありませんから。」
弱々しくラウール様は笑った。
「いつのまにか昔のようにラウールと呼んで下さっていますね。」
あっ!
やっちゃった!
「わかっています。カトリーナ様からは「終わりにするための機会をあげる。」と、そう言い含められて今日の日をいただきましたので。
ただ、知っていて欲しかったのです。
…私がただのレイチェルを愛した事、冷たくあなたを見捨てたのではないという事を。」
「はい、ありがとうございます。肝に銘じておきます。」
誰からも相手にされず無視され続けた訳じゃなかった。
一方でハットンが言った言葉を思い出す。
エルンスト殿下がそうしなければならなかった理由もまたあるのだと。
もう迷わない。
私は自分で決めて、居る場所を選んだんだ。
外が騒がしくなり始めた。聞き覚えのある声が大きく響いている。
もうここにいてはいけない。
「お目にかかれて良かったと思います、レイモンド伯爵。」
私は立ち上がって話の終わりを告げた。
「貴重なお時間をくださってありがとうございました。レイチェル妃殿下。」
そういってラウール様もまた立ち上がられた。
「見送りは結構です。ひとりで戻ります。」
そう言い捨てて、私はひとりで歩き始めた。
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