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ラウール・レイモンド伯爵
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財務部で働く私の兄は王城の中にある官僚達のための寮に部屋を持っている。
そのお隣の部屋を使っていらしたのが、レイモンド伯爵家のラウール様だった。
レイモンド領は王都からは遠いために、ラウール様は長期のお休みでも領地には帰らず、兄と一緒に我が家に滞在する事が度々あった。
「お久しぶりでございます、レイモンド伯爵。3年ぶりくらいでしょうか。」
そう挨拶すると、レイモンド伯爵は苦しそうに眉を寄せた。
「お久しぶりでございます。お時間をいただいて大変感謝しております。
出来れば…昔のようにラウールと呼んではいただけないでしょうか。
…今だけでも。」
今だけ、今だけなら、今だけでも。
誰もいない二人だけの空間。それでも迷ったのは僅かな時間だった。
「それはできません。レイモンド伯爵。」
懐かしさに心が引き寄せられていく。子供の頃に心が戻っていく。
だけど、それはもうしちゃダメな事だから。
「そうですか、残念ですが仕方がありません。レイチェル様はカトリーナ妃殿下からはどのようにお聞き及びでございますか。」
「とても真摯な真心の篭った誠実なお便りを頂戴していた、とだけ。」
「…そうみたいですね。レイチェル様は何もご存じない、とカトリーナ様は仰っておりました。
ではどこからお話しすれば良いのか…。皆目見当が付きませんが、長くなりますが聞いて頂きたい事があります。」
私が何も知らない?どういうことなの?
でも長くなると仰った。きっと聞けばわかる。
「わかりました、お話し下さいませ。」
ありがとうございます、とレイモンド伯爵は私を温室の中にあるベンチへと座らせると、少しの隙間を開けてレイモンド伯爵はその隣に座った。
「話は3年ほど前、私が繁くフィリア伯爵家に通っていた頃のことになります。
最初はあなたのお兄様が寮に篭っているだけの私を連れ出してくれたからですが、次第に私はフィリア邸に行くのを楽しみに待つようになりました。
私はレイチェル様と過ごすひとときが楽しくて、これがいつまでもいつまでも続けば良いと心から願っておりました。
私はフィリア伯爵に貴方が我が家に嫁に来てくれるようにお願いに上がりました。
そして、フィリア伯爵からは、レイチェル様が成人し、社交デビューをするまでは待って欲しいと、そう言われておりました。」
その話もまた私は聞いてなかった。
まだ子供だからどうなるかわからないと父達は判断したのだろう。
しかし急転直下、先代のレイモンド伯爵が急死されラウール様は領地に戻って跡を継がなくてはならなくなった。
慣れない領地経営に振り回されてラウール様はとてもじゃないが結婚の準備をする余裕がなくなってしまった。
そして私のデビュー直ぐにステファン殿下の婚約者選定が始まって、何故だか私は候補のひとりになった。
「もう少し待って頂かなくてはならない。」
父と兄はラウール様にそう伝えるより他にはなかったし、結果としてお断りするしか無くなった。
「お相手はステファン王太子、私は諦めるしかありませんでした。
しかし…。」
しかし。そう、その話は無くなった。無くなったけれど、私はそのまま城に残されていた。
「私はなんとかしたいと陛下にもステファン殿下にも訴えて…。
そしてレイチェル様の処遇はカトリーナ様に実権があり、カトリーナ様がお決めになると聞き及びまして、カトリーナ様に面会をお願い致しました。」
ラウール様は私への気持ちを伝え、私の身柄の引き渡しをお求めになった。
カトリーナ様はその時、
「時期を待て。」
と仰ったそうだ。
「家の事も守らなければならないと諭されました。王太子の不興を買う事は得策ではない、と。」
「目の前に示された僅かな光明をただ信じて待つより他にはその時はありませんでした。」
そしてラウール様は私に手紙を書き続けた。
「必ず助け出すから、諦めないで欲しい、と。」
しかしその手紙は私の手には渡ってはいなかった。
私が読めなかった手紙はおそらくカトリーナ様がお読みになったのだろう。
真摯に真心を込めた誠実な…おそらくは恋文を。
あのカトリーナ様がそう仰るくらいなんだから…。
それはきっと、本当なんだろう。
そして私は何も知らないまま、エルンスト殿下と一芝居打ち、ライナス領へと渡ってしまった。
「誠実な手紙!もしアレをカトリーナ様がそう断じたのであれば…なんて酷い…あんまりだ。手紙に込めたのは誠実なんかではなかったのに。」
最後にそれはあまりに酷いのではないかと言い、ラウール様は唇を噛み締めて…拳を握った。
「カトリーナ様は、全ての件についてお立場から謝る事は出来ない。ただラウール様にだけは謝らなければならない。
だから…私に代わりに謝ってこい、そう仰っていました。」
そうか、だから私なんだ。私が代わりに謝るんだ。
そうか。ようやく腑に落ちた。
そのお隣の部屋を使っていらしたのが、レイモンド伯爵家のラウール様だった。
レイモンド領は王都からは遠いために、ラウール様は長期のお休みでも領地には帰らず、兄と一緒に我が家に滞在する事が度々あった。
「お久しぶりでございます、レイモンド伯爵。3年ぶりくらいでしょうか。」
そう挨拶すると、レイモンド伯爵は苦しそうに眉を寄せた。
「お久しぶりでございます。お時間をいただいて大変感謝しております。
出来れば…昔のようにラウールと呼んではいただけないでしょうか。
…今だけでも。」
今だけ、今だけなら、今だけでも。
誰もいない二人だけの空間。それでも迷ったのは僅かな時間だった。
「それはできません。レイモンド伯爵。」
懐かしさに心が引き寄せられていく。子供の頃に心が戻っていく。
だけど、それはもうしちゃダメな事だから。
「そうですか、残念ですが仕方がありません。レイチェル様はカトリーナ妃殿下からはどのようにお聞き及びでございますか。」
「とても真摯な真心の篭った誠実なお便りを頂戴していた、とだけ。」
「…そうみたいですね。レイチェル様は何もご存じない、とカトリーナ様は仰っておりました。
ではどこからお話しすれば良いのか…。皆目見当が付きませんが、長くなりますが聞いて頂きたい事があります。」
私が何も知らない?どういうことなの?
でも長くなると仰った。きっと聞けばわかる。
「わかりました、お話し下さいませ。」
ありがとうございます、とレイモンド伯爵は私を温室の中にあるベンチへと座らせると、少しの隙間を開けてレイモンド伯爵はその隣に座った。
「話は3年ほど前、私が繁くフィリア伯爵家に通っていた頃のことになります。
最初はあなたのお兄様が寮に篭っているだけの私を連れ出してくれたからですが、次第に私はフィリア邸に行くのを楽しみに待つようになりました。
私はレイチェル様と過ごすひとときが楽しくて、これがいつまでもいつまでも続けば良いと心から願っておりました。
私はフィリア伯爵に貴方が我が家に嫁に来てくれるようにお願いに上がりました。
そして、フィリア伯爵からは、レイチェル様が成人し、社交デビューをするまでは待って欲しいと、そう言われておりました。」
その話もまた私は聞いてなかった。
まだ子供だからどうなるかわからないと父達は判断したのだろう。
しかし急転直下、先代のレイモンド伯爵が急死されラウール様は領地に戻って跡を継がなくてはならなくなった。
慣れない領地経営に振り回されてラウール様はとてもじゃないが結婚の準備をする余裕がなくなってしまった。
そして私のデビュー直ぐにステファン殿下の婚約者選定が始まって、何故だか私は候補のひとりになった。
「もう少し待って頂かなくてはならない。」
父と兄はラウール様にそう伝えるより他にはなかったし、結果としてお断りするしか無くなった。
「お相手はステファン王太子、私は諦めるしかありませんでした。
しかし…。」
しかし。そう、その話は無くなった。無くなったけれど、私はそのまま城に残されていた。
「私はなんとかしたいと陛下にもステファン殿下にも訴えて…。
そしてレイチェル様の処遇はカトリーナ様に実権があり、カトリーナ様がお決めになると聞き及びまして、カトリーナ様に面会をお願い致しました。」
ラウール様は私への気持ちを伝え、私の身柄の引き渡しをお求めになった。
カトリーナ様はその時、
「時期を待て。」
と仰ったそうだ。
「家の事も守らなければならないと諭されました。王太子の不興を買う事は得策ではない、と。」
「目の前に示された僅かな光明をただ信じて待つより他にはその時はありませんでした。」
そしてラウール様は私に手紙を書き続けた。
「必ず助け出すから、諦めないで欲しい、と。」
しかしその手紙は私の手には渡ってはいなかった。
私が読めなかった手紙はおそらくカトリーナ様がお読みになったのだろう。
真摯に真心を込めた誠実な…おそらくは恋文を。
あのカトリーナ様がそう仰るくらいなんだから…。
それはきっと、本当なんだろう。
そして私は何も知らないまま、エルンスト殿下と一芝居打ち、ライナス領へと渡ってしまった。
「誠実な手紙!もしアレをカトリーナ様がそう断じたのであれば…なんて酷い…あんまりだ。手紙に込めたのは誠実なんかではなかったのに。」
最後にそれはあまりに酷いのではないかと言い、ラウール様は唇を噛み締めて…拳を握った。
「カトリーナ様は、全ての件についてお立場から謝る事は出来ない。ただラウール様にだけは謝らなければならない。
だから…私に代わりに謝ってこい、そう仰っていました。」
そうか、だから私なんだ。私が代わりに謝るんだ。
そうか。ようやく腑に落ちた。
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