修道院に行きたいんです

枝豆

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密会

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新成人達とのダンスが終わると、夜会の雰囲気は厳粛なものから少し雑多な様相を見せ始めた。
これはおそらく酒が回り始めたからだと思う。

一応大人達も新成人のエスコートという大役を終えて、それぞれの社交へと移っていき、若者達は夜会の雰囲気に呑まれつつも、湧き上がる楽しさを抑えきれず、それぞれ思い思いに過ごし始めた。

「レイチェル様、2人で少し庭に出ませんか?」
うわぁ、夢みたい!マヌエラ様が私を、私だけを誘って下さるなんて!
「いいでしょう?少し静かな場所でお喋りしましょ。レイチェル様には聞きたい事がたくさんあるのよ。」

根掘り葉掘り噂の真相を確かめられるのかと身構えつつ、憧れのマヌエラ様を独り占めできる!

「リーチェ、俺も…」
「ダメ!邪魔しないで!エルがいたらレイチェル様の本音が聞けないもの!」
と素っ気ない。
しかも、
「あなたはカルロ陛下の代理なのよ!その務めはどうされるの?」
「レーチェだって、カトリーナ様の…」

あっ!そんな事を言い出したら、せっかくのマヌエラ様と2人でお話しできる機会が!!
もう、エルのバカ!!

じーっと睨んで見てやると、エルの口が閉まる。
言わないでね、それ以上は言わないで!!
お願い、後でいくらでも頑張るから!!

「エル、少しいいか?」
チェスター殿下がエルを追いかけてやってきてしまい…。
「さあ、今のうちに。」
マヌエラ様は私に耳打ちをして、腕をそっと引っ張る。
「行きましょう。」

…エル、ごめんね。

私はマヌエラ様に付いて、庭に面した扉からバルコニーへと進み出た。

バルコニーから庭へ続く階段を降りる。
「誰も通さないで頂戴。」
階段の警備をしていた兵にマヌエラ様がお声を掛ける。

「こっちよ。」
グイグイとマヌエラ様は私の手を引っ張りながら、まるで逃げるように歩いていく。
着いたのはカトリーナ様の温室だった。

あらかじめ決められたようにここにも警備の兵士が見張り番をしており、うちのひとりがマヌエラ様に駆け寄って
「もういらしております。」
とマヌエラ様に告げた。

「そう、わかったわ。」
とマヌエラ様は足を止めた。

「レイチェル、カトリーナ様からの伝言は聞いてるわね。
私はここで待っているから、この先は2人で。良いわね。」

一瞬意味がわからなかった。カトリーナ様の伝言?

けれど、温室の扉の向こう側に立ちコチラを真っ直ぐに見つめている人影を見つけたとき、状況が飲み込めた。

「あ、あのマヌエラ様…これは?」
「いってらっしゃいませ、レイチェル様。
…エルンスト殿下のために。
それからステファン殿下のために。
過去を引き摺っているもうひとりの人のために。」


一度だけ機会をあげる。
その意味を理解すると、私はひとりで温室へ向かって歩いていった。
ゆっくりと時間を掛けて。

…自分で考えないと。

ラウール様の元へ向かってゆっくりと歩いて行った。
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