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秘密
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前半のダンスがようやく終わった。
優雅な微笑みを絶やさないまま男爵子息からの挨拶を受け取って離れたマヌエラの周りには一斉に名も知らないご令嬢達がワラワラと集まってきてあっという間に囲まれた。
相変わらずの人気だな。
ステファンの姉エリーゼもたくさんのご令嬢の熱い視線を集めていたけれど、国境を守る家に嫁いでからは城にはなかなか上がってはこない。
一方で、同じく休憩となったレイチェルの周りには子息たちの父や兄達が集まり始めた。
…気に入らない。レーチェに気安く話しかけられるような立場じゃないくせに。
エルンストは自分と最後に踊っていた伯爵令嬢に丁寧に祝いの言葉を掛けてやると、さっさとレイチェルを隠すために歩き出した。
「レイチェル、疲れただろう。こっちにおいで。」
レイチェルの周りに集まった男達の視線がギラギラとしたものに変わる。
「エルンスト殿下、少し我々とも話を。」
「妻を休ませたいんだ。話はまたにしてくれ。」
キッテンの、今日は国王代理でもあるエルンストからの言葉には逆らえないのか、男たちはガッカリした様子を見せながらもエルンストのために道を開けた。
「エル…じゃなくて、殿下?」
「少し休もう。足は大丈夫?喉は乾いていないか?」
問答無用にレイチェルの腰に腕を回して、その華奢な身体を自分に引き寄せて歩き出す。
「…私は大丈夫ですけど。よろしいんですか?…アレ?」
置き去りにした男達を振り返りながら、戸惑いながらも引き摺られて渋々という感じでレイチェルは付いてきてくれた。
「いいんだ。ただの保身なんだから。」
「…保身?」
「あっ、いや…。レーチェが気にしなくていい。」
ほら、っと会場の隅にこしらえられた衝立の中にレーチェを入れ込んだ。
ステファンとレスボートのラインハルト、2人の未来の王妃を決める婚約者選定期間の間、貴族達は自分達にとってより良い未来となる様に予測し画策し、派閥を作っていた。
下馬評通りのグレイシア公爵派からフィリア伯爵に乗り換えようとした浅はかな貴族達。
当のフィリア伯爵は派閥を作るつもりがなく、グレイシア公爵派へと自ら飛び込んだのに。
二転三転するレイチェルを巡って、また大きく動き出した派閥争いをどこか俯瞰で見ていた。
レイチェルがステファンに囲われてしまった時、名ばかりの救済を申し出た貴族の数は両手では足りない。
丁寧な文言で、国王や王太子の置かれた立場を尊重する姿勢を示しながら、言いたい事はただひとつ。
「無用となったご令嬢の面倒はどうぞ我が家にお申し付け下さい。」
と。
もちろんあながち彼らだけを責められない。
王太子の相談役のエルンスト自らが後始末を買ってくるとは想像すらしていなかっただろうし、まして溺愛ぶりをここまで晒すとも思ってもいなかっただけ。
しかし結果として、彼らは大失策を犯した。
エルンストが愛する女性をキッテンにとってただの邪魔者の不要な者だと断じ、捨て先にどうぞ我が家をお使い下さい、と申し出た。
返事は出さなかったのではない、あえてなかった事だとしてやる事が陛下や父が示せる温情だった。
今、キッテンの貴族達は右往左往状態にある。
変わらず忠誠を誓い続けるものは少ない。
ステファンを見限り、俺に乗り換えようとする者。
窮地を脱したとステファンに戻ろうとする者。
様々な思惑が渦を巻き始めている。
領地で両親と立ち会い人だけの結婚式をしたのも彼らの不安を煽っているに違いない。
「不要な邪魔者」と断じられたレイチェルの結婚式に、エルンストはあえて呼んでやる必要を感じなかったのでは?と考えているに違いない。
そうじゃないんだけど。
ただ、いくつもの選択肢があの時のレイチェルにはあった事を知られたくはないだけだ。
レイチェルにはもう俺の手を取るしか道がないと思い込ませた事は永遠にレイチェルに知られてはならない。
「エル、お前はそんな性格だったのか?」
叔父が呆れたように白い目で俺を見てくるけれど。
「こんな性格だったみたいですね。」
と答えるしかない。
自分だってこんなになるとは思ってはいなかったんだから、仕方がない。
叔父からの誹りは受け入れるより仕方がない。
優雅な微笑みを絶やさないまま男爵子息からの挨拶を受け取って離れたマヌエラの周りには一斉に名も知らないご令嬢達がワラワラと集まってきてあっという間に囲まれた。
相変わらずの人気だな。
ステファンの姉エリーゼもたくさんのご令嬢の熱い視線を集めていたけれど、国境を守る家に嫁いでからは城にはなかなか上がってはこない。
一方で、同じく休憩となったレイチェルの周りには子息たちの父や兄達が集まり始めた。
…気に入らない。レーチェに気安く話しかけられるような立場じゃないくせに。
エルンストは自分と最後に踊っていた伯爵令嬢に丁寧に祝いの言葉を掛けてやると、さっさとレイチェルを隠すために歩き出した。
「レイチェル、疲れただろう。こっちにおいで。」
レイチェルの周りに集まった男達の視線がギラギラとしたものに変わる。
「エルンスト殿下、少し我々とも話を。」
「妻を休ませたいんだ。話はまたにしてくれ。」
キッテンの、今日は国王代理でもあるエルンストからの言葉には逆らえないのか、男たちはガッカリした様子を見せながらもエルンストのために道を開けた。
「エル…じゃなくて、殿下?」
「少し休もう。足は大丈夫?喉は乾いていないか?」
問答無用にレイチェルの腰に腕を回して、その華奢な身体を自分に引き寄せて歩き出す。
「…私は大丈夫ですけど。よろしいんですか?…アレ?」
置き去りにした男達を振り返りながら、戸惑いながらも引き摺られて渋々という感じでレイチェルは付いてきてくれた。
「いいんだ。ただの保身なんだから。」
「…保身?」
「あっ、いや…。レーチェが気にしなくていい。」
ほら、っと会場の隅にこしらえられた衝立の中にレーチェを入れ込んだ。
ステファンとレスボートのラインハルト、2人の未来の王妃を決める婚約者選定期間の間、貴族達は自分達にとってより良い未来となる様に予測し画策し、派閥を作っていた。
下馬評通りのグレイシア公爵派からフィリア伯爵に乗り換えようとした浅はかな貴族達。
当のフィリア伯爵は派閥を作るつもりがなく、グレイシア公爵派へと自ら飛び込んだのに。
二転三転するレイチェルを巡って、また大きく動き出した派閥争いをどこか俯瞰で見ていた。
レイチェルがステファンに囲われてしまった時、名ばかりの救済を申し出た貴族の数は両手では足りない。
丁寧な文言で、国王や王太子の置かれた立場を尊重する姿勢を示しながら、言いたい事はただひとつ。
「無用となったご令嬢の面倒はどうぞ我が家にお申し付け下さい。」
と。
もちろんあながち彼らだけを責められない。
王太子の相談役のエルンスト自らが後始末を買ってくるとは想像すらしていなかっただろうし、まして溺愛ぶりをここまで晒すとも思ってもいなかっただけ。
しかし結果として、彼らは大失策を犯した。
エルンストが愛する女性をキッテンにとってただの邪魔者の不要な者だと断じ、捨て先にどうぞ我が家をお使い下さい、と申し出た。
返事は出さなかったのではない、あえてなかった事だとしてやる事が陛下や父が示せる温情だった。
今、キッテンの貴族達は右往左往状態にある。
変わらず忠誠を誓い続けるものは少ない。
ステファンを見限り、俺に乗り換えようとする者。
窮地を脱したとステファンに戻ろうとする者。
様々な思惑が渦を巻き始めている。
領地で両親と立ち会い人だけの結婚式をしたのも彼らの不安を煽っているに違いない。
「不要な邪魔者」と断じられたレイチェルの結婚式に、エルンストはあえて呼んでやる必要を感じなかったのでは?と考えているに違いない。
そうじゃないんだけど。
ただ、いくつもの選択肢があの時のレイチェルにはあった事を知られたくはないだけだ。
レイチェルにはもう俺の手を取るしか道がないと思い込ませた事は永遠にレイチェルに知られてはならない。
「エル、お前はそんな性格だったのか?」
叔父が呆れたように白い目で俺を見てくるけれど。
「こんな性格だったみたいですね。」
と答えるしかない。
自分だってこんなになるとは思ってはいなかったんだから、仕方がない。
叔父からの誹りは受け入れるより仕方がない。
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