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オマケ
石がないんです5
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ダリアン島の建設工事用の石材の調達に悩む事数ヶ月、とうとう俺たちは必要な石を買い付ける事に成功した。7割をカタインロジェに、3割をゴッツウォールにしたのは訳がある。
最初に皆にカタインロジェの話をしたのはブリトーニャだけれど、実は俺はこの石を知っていた。
話はまだレイチェルがステフの側から離れられないでいた頃に遡る。
母が、レイチェルの今後を話し合う中で、「ラウール・レイモンド」という名前が出たという事を、俺にふと漏らした事がある。
レーチェと本決まりの手前まで婚約話が進んでいた男の名前として。
レーチェの救出にフィリア伯爵夫人が頼ったのは母の妹だ。叔母を通じて得たその名前を聞いた母は、直ぐにラウール・レイモンドについての身元検分を始めた。
歳はレイチェルより五つ上、財務官の兄の元同僚。小さいながら既に領主であり、小さいながらも商会を営んでいた。
扱っていたのは建築資材。木材と領地で採れる僅かな量の石材、その名をカタインロジェという黒い石だった。
我が国では石材建築物のほとんどは美しさを求めるものは大理石、堅固さを求めるものはゴッツウォールが用いられる。黒い石の出番はほぼないと言っていい。
王都から遠く離れた地理的要因、生育には年月が掛かる木材頼みで、打つ手がない零細商会を営む、地方領の貧乏領主、それがその時のレイモンド伯爵の評価で、こんな奴にレイチェルが託せるわけがない、と俺は片付けた。
それからレイチェルの周りからレイモンドの名前は消える事となり、俺の頭の中からも消えかけて…。
それを今になってブリトーニャが揺さぶり、掘り起こした。
ブリトーニャからの指摘をステフは見逃さなかった。
ステフは知らない。
ラウール・レイモンドが俺とステフをどう思いどう断じてどう恨んでいるかを…。レイモンドの存在はステフには完全に秘されていたから…。
何も知らなかったステフは、直ぐにカタインロジェの見本を取り寄せてしまった。
「…どうだろうか、エル。全部じゃなくていい、海に沈む部分の、更に取っ掛かりだけでも。
ラブレフへの揺さぶりと牽制になれば、ゴッツウォールをすんなり出す気になるんじゃないか?と俺は睨んだんだが…。」
「ダーランドは、どう思う?」
「…宜しいかと。あまり時間がありませんし…。」
時間は無尽蔵ではないが、焦る必要もないと思う俺に対して、ダーランドは必要以上に急かす気がしていた。
ああ、ダーランドといえば。
「…そういえば、農場で何があった?」
「いえ、何も。」
シラを切り通そうとするダーランドに再度尋ねた。
「コソコソと、レーチェと何をしてる?」
ステフの前で敢えてレイチェルの名前を出すと、ステフの眉がピクリと動いた。
「レーチェに何か吹き込んだか?何をさせようと企んでる?…ラブレフ絡みか?」
いえいえ違います!!と慌て始めたダーランド、俺は立ち上がりダーランドの背後に周りこんで、肩に手を乗せた。
テーブル越しに陣取ったステフはダーランドの腕を掴んでじーっと睨みつける。
忙しなく瞬きを繰り返すこと数回…。諦めたように息を吐いたダーランドは、
「お2人には内密に…と。申し訳ありません。で、ですから、レイチェル様を裏切れば…もう2度とご相談はいただけなくなるかと…。何卒、ご容赦くださいませ。」
申し訳ありません!!とダーランドはひれ伏すように床に蹲った。
「…確かに時間がなさそうだ。」
とステフが呟いた。
「…どういう事?」
「…わからないのか。既にさりげなくトーニャが動いた。」
レーチェが何かをし、トーニャが動いた。
きっとあの2人の背後には母達…。
「ああ確かに。拘り続けている場合じゃなさそうだ。」
母達に失格の烙印を押される前に、ラブレフが嗅ぎつけるよりも前にレイモンドに話をつけないとならない。
…恩を売る事になるだろうか?それとも借りた覚えのない借りを返すだけに留まるだろうか…。
案外どちらにも当てはまらず、レイモンドはただビジネスとして割り切るだろうか。
…いや、流石にそれはない…か?
しかしこうと決まればあとは悩む時間が勿体無い。
すこしでも効果的に事を成し遂げるには、スピードも命だ。
「ラブレフが気付く前に話をつける。勿体ぶった事を心から悔やませてやるんだ。
…ブリトーニャとレイチェルを巻き込もうとした事を後悔させてやる。」
折衝は主にステフに託した。
カタインロジェの産出量は少なく、直ぐに用意できる物では全然足りない事がわかった。
採石と加工と建築を並行しつつ行うと…。
「全部は無理だな。工期が延びすぎる。」
「だな。8割…いや、7割がいいところかな?」
「残りはどうする?」
皆で設計図や計画書と睨めっこする事数日。
ダリアン島の計画にカタインロジェが採用されそうだという噂が流れた。
世の中では流した、というかもしれない。
「エル、ラブレフが面会の申し出をしてきたぞ。」
「ふーん、今更?まあ会ってやっても良いけどぉー?」
2人で視線を合わせて笑いあった。
最初に皆にカタインロジェの話をしたのはブリトーニャだけれど、実は俺はこの石を知っていた。
話はまだレイチェルがステフの側から離れられないでいた頃に遡る。
母が、レイチェルの今後を話し合う中で、「ラウール・レイモンド」という名前が出たという事を、俺にふと漏らした事がある。
レーチェと本決まりの手前まで婚約話が進んでいた男の名前として。
レーチェの救出にフィリア伯爵夫人が頼ったのは母の妹だ。叔母を通じて得たその名前を聞いた母は、直ぐにラウール・レイモンドについての身元検分を始めた。
歳はレイチェルより五つ上、財務官の兄の元同僚。小さいながら既に領主であり、小さいながらも商会を営んでいた。
扱っていたのは建築資材。木材と領地で採れる僅かな量の石材、その名をカタインロジェという黒い石だった。
我が国では石材建築物のほとんどは美しさを求めるものは大理石、堅固さを求めるものはゴッツウォールが用いられる。黒い石の出番はほぼないと言っていい。
王都から遠く離れた地理的要因、生育には年月が掛かる木材頼みで、打つ手がない零細商会を営む、地方領の貧乏領主、それがその時のレイモンド伯爵の評価で、こんな奴にレイチェルが託せるわけがない、と俺は片付けた。
それからレイチェルの周りからレイモンドの名前は消える事となり、俺の頭の中からも消えかけて…。
それを今になってブリトーニャが揺さぶり、掘り起こした。
ブリトーニャからの指摘をステフは見逃さなかった。
ステフは知らない。
ラウール・レイモンドが俺とステフをどう思いどう断じてどう恨んでいるかを…。レイモンドの存在はステフには完全に秘されていたから…。
何も知らなかったステフは、直ぐにカタインロジェの見本を取り寄せてしまった。
「…どうだろうか、エル。全部じゃなくていい、海に沈む部分の、更に取っ掛かりだけでも。
ラブレフへの揺さぶりと牽制になれば、ゴッツウォールをすんなり出す気になるんじゃないか?と俺は睨んだんだが…。」
「ダーランドは、どう思う?」
「…宜しいかと。あまり時間がありませんし…。」
時間は無尽蔵ではないが、焦る必要もないと思う俺に対して、ダーランドは必要以上に急かす気がしていた。
ああ、ダーランドといえば。
「…そういえば、農場で何があった?」
「いえ、何も。」
シラを切り通そうとするダーランドに再度尋ねた。
「コソコソと、レーチェと何をしてる?」
ステフの前で敢えてレイチェルの名前を出すと、ステフの眉がピクリと動いた。
「レーチェに何か吹き込んだか?何をさせようと企んでる?…ラブレフ絡みか?」
いえいえ違います!!と慌て始めたダーランド、俺は立ち上がりダーランドの背後に周りこんで、肩に手を乗せた。
テーブル越しに陣取ったステフはダーランドの腕を掴んでじーっと睨みつける。
忙しなく瞬きを繰り返すこと数回…。諦めたように息を吐いたダーランドは、
「お2人には内密に…と。申し訳ありません。で、ですから、レイチェル様を裏切れば…もう2度とご相談はいただけなくなるかと…。何卒、ご容赦くださいませ。」
申し訳ありません!!とダーランドはひれ伏すように床に蹲った。
「…確かに時間がなさそうだ。」
とステフが呟いた。
「…どういう事?」
「…わからないのか。既にさりげなくトーニャが動いた。」
レーチェが何かをし、トーニャが動いた。
きっとあの2人の背後には母達…。
「ああ確かに。拘り続けている場合じゃなさそうだ。」
母達に失格の烙印を押される前に、ラブレフが嗅ぎつけるよりも前にレイモンドに話をつけないとならない。
…恩を売る事になるだろうか?それとも借りた覚えのない借りを返すだけに留まるだろうか…。
案外どちらにも当てはまらず、レイモンドはただビジネスとして割り切るだろうか。
…いや、流石にそれはない…か?
しかしこうと決まればあとは悩む時間が勿体無い。
すこしでも効果的に事を成し遂げるには、スピードも命だ。
「ラブレフが気付く前に話をつける。勿体ぶった事を心から悔やませてやるんだ。
…ブリトーニャとレイチェルを巻き込もうとした事を後悔させてやる。」
折衝は主にステフに託した。
カタインロジェの産出量は少なく、直ぐに用意できる物では全然足りない事がわかった。
採石と加工と建築を並行しつつ行うと…。
「全部は無理だな。工期が延びすぎる。」
「だな。8割…いや、7割がいいところかな?」
「残りはどうする?」
皆で設計図や計画書と睨めっこする事数日。
ダリアン島の計画にカタインロジェが採用されそうだという噂が流れた。
世の中では流した、というかもしれない。
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