若松2D協奏曲

枝豆

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体育祭 溢れ話

ご褒美をあげよう 中野視点

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球技大会の和津くんは凄かった。
元々目は引かれていた。
新入生代表になって、みんなの心を鷲掴みにした皇子くんこと葛西皇くんといつも一緒にいて、顔だけならどっち?みたいな話はよく聞いていた。

自分の部活種目には出られない球技大会で、バレーボールに出た和津くんは、皇子くんと共に跳びまくりの打ちまくりで、あっさりチームは優勝した。
クラスを応援しにいったのに、いつのまにか和津くんを応援していた。

カッコいい、この人が彼氏になったら最高だろうな。想像を膨らませて、片想いのキュンとした時間を楽しむ。

和津くんのあまりの活躍ぶりに皇子陥落か?と思われたのも束の間。
和津くんは絶対無理だ!という噂が駆け回った。
同じクラスに好きな子がいるらしく、どうやらそれが吹部の山本翠らしい。

山本翠ってあのトランペットの子?
いや、あんな鈍臭いのナイナイ!
一応念のため本人にも聞いたら、全然そんな関係じゃないらしい。

あんな鈍臭い子が噂にあがるくらいなら!
じゃあ、私にもチャンスあるかも?

2年になって、同じクラスになって、すぐに分かった。
和津くんは山本さんしか見てない。

それでも諦められなくって、無理矢理バスレクで班に滑り込んで、一生懸命話しかけたけど、和津くんは山本さんしか見ていなかった。
イライラして山本さんに釘を刺す。
こんなの私らしくない、と自分であざ笑う。
今日だけ、今日だけ。

やり過ぎて北斗くんに怒られた。その後の和津くんは、もういつもの和津くんじゃなかった。

もういい!私を見てもくれない男なんてもう知らない。
楽しくない恋なんて要らない!
帰りのバスの中はずっと寝たフリをしてた。

5月に入って、吹部が割れた。
トランペットリーダーの遥先輩が指揮になってパートリーダーから降り、代わりにパートリーダーになったのは、まだ2年の翠だったから。

セクションリーダー決めは揉めたらしい。3年生から選ぶ案も他の金管から出す案も出た。
でも肝心の金管の3年生が
「一番真面目で上手い子がリーダーになるべきだ。」
と翠を推したって。

ふーん。金管のリーダーなんて打楽器の私には関係ないから、どうでもいい。

2年のくせに。
怒り出したのは全く関係ない先輩達だった。
個人練習の間、ずっと陰口を叩いてた。
いいから自分の練習しろ!何度思ったかわからない。
他パートへの注意は慎重にしなければならない。そう言っていた先輩達の陰湿な揚げ足取りが始まった。

…こういうのは嫌いだ!

練習終わりいつも翠は落ち込んで泣いていた。
どう声かけようか迷っているうちに翠の方が泣かなくなった。

翠は折れそうで折れない。そして何より誠実で真面目。
朝練には一番に来て、帰りも最後まで残っていた。
段々探しても探してもアラは見つけられなくなって、遙先輩の指摘が容赦なくこちらにも降り注いだ。
それどころじゃなくなった先輩達は沈黙するしかなくなった。
ザマアみろって思う。

そんな頃和津から声を掛けられた。
「翠、どう?」
だって。
…知ってたんだ。
知ってて知らないフリしてたんだ。
「多分…峠は越えた。」
そういうと少しホッとした表情になる和津を見て、何かが吹っ切れた。
「…凄く頑張ってたと思うよ。」
らしくない言葉が自然に出てしまった。

だけど。
頑張った結果はギャラリーの反応が物語っている。翠の周りは人が溢れていた。

だから。
ひとつだけご褒美をあげることにした。
言っとくけど、今回だけだから!


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