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嶋田さんご夫妻との出会い
白い犬と夫婦
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「お撮りしますよ?」
声を掛けてくれたのは、60代くらいの白い犬を連れたご夫婦だった。
「すみません、お願い出来ますか?」
和津くんがスマホを預ける。
するとご夫婦の奥様が、
「ねえ、どうせならあっちがいいんじゃない?」
と言い出した。
あっち?
「ああ、あっちか。」
ご主人には伝わったようだ。
「馬車は見ましたか?」
とご主人に聞かれて正直にまだと答えた。
「着たばかりなんです。」
「ああ、それならオススメです。少し移動しましょう。」
と少し先を指で示された。
お二人とワンちゃんに付いていくと、そこには大輪の白いバラで埋め尽くされた、丸い馬車をモチーフにしたオブジェがあった。
「シンデレラの馬車みたいですね。」
見たままそう思ったので口に出した。
「ええ、可愛らしいでしょう。あなたたちにピッタリ。」
奥様がオホホと微笑む。
ピッタリとは思えないけれど、可愛いのは確かだ。
「…ハードル高い。」
和津くんの顔は引き攣っている。
確かに、高校生男子には羞恥心のハードルがありそうだけれど、閉園間近で周りにはあまり人はいない。
「せっかくだから撮ってもらおうよ。」
背中を押してみる。
ご主人も
「さあさあ、こういうのは怯んだら負けですよ。」
と促してくれる。
今更断れないと思ったのか、和津くんは渋々?その気になってくれた。
丸い馬車の形に作られた鉄柵にバラの枝が器用に絡ませてある。
中にも座れるが、御者台の方が顔の写りが良いからと勧められて2人でそこに腰掛けた。
「手くらいは繋ぎましょう。」
そう言われるままに手を繋いだ。
それからご主人は色々と視線やポーズを指示しながらたくさん写真を撮っていく。
(…多分この方はプロだ。)
指示の出し方が独特で的確だった。
「彼氏さんは…そうですね、あのアイスクリーム屋辺りを見て、彼女さんは…あの木を見ましょう。ああもう少し上を、そうそう良いですよ。」
バシャバシャとシャッターを切る。
「今日お昼何食べました?」
「菖蒲の花は綺麗だったでしょう?」
こんな感じで話しかけながら写真を撮っていく。
「お付き合いしてどのくらい?あっ待って当てますね?半年くらい?」
と聞かれて、顔が熱くなるのがわかる。
「…まだ2週間です。ずっと片想いしてました。」
和津くんがそう答えた。
繋いでいた手がギュッっと握られた。
「…2週間!それは素晴らしい!」
何が素晴らしいのかはよくわからないけれど、恥ずかしいのは確かだ。
「こんなもんかな?」
そう言われて戻ってきたスマホには50枚くらいの写真があった。
「すごい…。」
私達はほとんど動いていない。ただ座っていただけなのに。
全体からバストアップ、アップ。
さまざまな表情はとても自然で、バラの馬車も綺麗に収められている。
「あ、あの。プロの方ですよね?」
堪らずそう聞いてしまった。
「オホホ、あなたすぐバレるわね。」
奥様が堪らないように吹き出した。
「一応、こういう者です。」
と男性が差し出した名刺。
「さくら市広報課、カメラマン 嶋田 大成」
と書いてある。
「あの、すみません。プロの方だとは思ってなくて。お礼を何か…。」
和津くんが言い出して、ハッと気付いた。
プロカメラマンに写真をタダで撮って貰う訳には流石にいかない。
「いやいや、公務員なんで、お礼は受け取れないので良いですよ。
いやぁ、初々しい若者の写真を撮るのは楽しかったなぁ。」
と笑ってくれる。
「あっ、そうだ。強制するわけじゃないけれど、市の広報に今日のこと書いても良いですか?」
写真は載せない、名前も出さない。
初々しい高校生カップルがデートにバラ園に来てた。とても楽しそうだったから、みなさんも是非来てね、みたいに纏めると言われて、それがお礼になるのならと快諾した。
「あなた、そろそろ出ないと。」
奥様から閉園時間が迫っていると言われて、慌てて歩き出した。
若松高校に通っていると話すと、じゃあまたどこかで会えるかもしれませんね、と言われた。
先日の体育祭にはもう1人のカメラマンの人が来ていたそうだ。
「さくらまつりならどこかにいると思いますよ。」
と夏休みに行われる市のイベントの事を話す。
「あっ!そうだ。コレ来てくださいよ。」
別れ際に出口の横に置いてある広報から、1枚のチラシを抜き出して渡される。
「ホタルを愛でる夜」
と書いてある。
「えっ、ホタル見れるんですか?」
「ええ、一時的な放流なんですが。上手くいけばそのまま産卵してくれるんじゃないか、と淡い期待はあるんです。
なかなか浸透してくれなくて。是非お友達と来てください。」
「あなた…高校生よ。」
高校生を夜のイベントに誘うのはどうなのか?と嗜められて、あっ!ああ…と嶋田さんは慌てている。
「大丈夫じゃないかなぁ。あっ、でもちゃんと親の許可は取りますね。」
じゃ、約束なしで会えたら良いですね、という感じで、その日は嶋田さん夫婦とは別れた。
声を掛けてくれたのは、60代くらいの白い犬を連れたご夫婦だった。
「すみません、お願い出来ますか?」
和津くんがスマホを預ける。
するとご夫婦の奥様が、
「ねえ、どうせならあっちがいいんじゃない?」
と言い出した。
あっち?
「ああ、あっちか。」
ご主人には伝わったようだ。
「馬車は見ましたか?」
とご主人に聞かれて正直にまだと答えた。
「着たばかりなんです。」
「ああ、それならオススメです。少し移動しましょう。」
と少し先を指で示された。
お二人とワンちゃんに付いていくと、そこには大輪の白いバラで埋め尽くされた、丸い馬車をモチーフにしたオブジェがあった。
「シンデレラの馬車みたいですね。」
見たままそう思ったので口に出した。
「ええ、可愛らしいでしょう。あなたたちにピッタリ。」
奥様がオホホと微笑む。
ピッタリとは思えないけれど、可愛いのは確かだ。
「…ハードル高い。」
和津くんの顔は引き攣っている。
確かに、高校生男子には羞恥心のハードルがありそうだけれど、閉園間近で周りにはあまり人はいない。
「せっかくだから撮ってもらおうよ。」
背中を押してみる。
ご主人も
「さあさあ、こういうのは怯んだら負けですよ。」
と促してくれる。
今更断れないと思ったのか、和津くんは渋々?その気になってくれた。
丸い馬車の形に作られた鉄柵にバラの枝が器用に絡ませてある。
中にも座れるが、御者台の方が顔の写りが良いからと勧められて2人でそこに腰掛けた。
「手くらいは繋ぎましょう。」
そう言われるままに手を繋いだ。
それからご主人は色々と視線やポーズを指示しながらたくさん写真を撮っていく。
(…多分この方はプロだ。)
指示の出し方が独特で的確だった。
「彼氏さんは…そうですね、あのアイスクリーム屋辺りを見て、彼女さんは…あの木を見ましょう。ああもう少し上を、そうそう良いですよ。」
バシャバシャとシャッターを切る。
「今日お昼何食べました?」
「菖蒲の花は綺麗だったでしょう?」
こんな感じで話しかけながら写真を撮っていく。
「お付き合いしてどのくらい?あっ待って当てますね?半年くらい?」
と聞かれて、顔が熱くなるのがわかる。
「…まだ2週間です。ずっと片想いしてました。」
和津くんがそう答えた。
繋いでいた手がギュッっと握られた。
「…2週間!それは素晴らしい!」
何が素晴らしいのかはよくわからないけれど、恥ずかしいのは確かだ。
「こんなもんかな?」
そう言われて戻ってきたスマホには50枚くらいの写真があった。
「すごい…。」
私達はほとんど動いていない。ただ座っていただけなのに。
全体からバストアップ、アップ。
さまざまな表情はとても自然で、バラの馬車も綺麗に収められている。
「あ、あの。プロの方ですよね?」
堪らずそう聞いてしまった。
「オホホ、あなたすぐバレるわね。」
奥様が堪らないように吹き出した。
「一応、こういう者です。」
と男性が差し出した名刺。
「さくら市広報課、カメラマン 嶋田 大成」
と書いてある。
「あの、すみません。プロの方だとは思ってなくて。お礼を何か…。」
和津くんが言い出して、ハッと気付いた。
プロカメラマンに写真をタダで撮って貰う訳には流石にいかない。
「いやいや、公務員なんで、お礼は受け取れないので良いですよ。
いやぁ、初々しい若者の写真を撮るのは楽しかったなぁ。」
と笑ってくれる。
「あっ、そうだ。強制するわけじゃないけれど、市の広報に今日のこと書いても良いですか?」
写真は載せない、名前も出さない。
初々しい高校生カップルがデートにバラ園に来てた。とても楽しそうだったから、みなさんも是非来てね、みたいに纏めると言われて、それがお礼になるのならと快諾した。
「あなた、そろそろ出ないと。」
奥様から閉園時間が迫っていると言われて、慌てて歩き出した。
若松高校に通っていると話すと、じゃあまたどこかで会えるかもしれませんね、と言われた。
先日の体育祭にはもう1人のカメラマンの人が来ていたそうだ。
「さくらまつりならどこかにいると思いますよ。」
と夏休みに行われる市のイベントの事を話す。
「あっ!そうだ。コレ来てくださいよ。」
別れ際に出口の横に置いてある広報から、1枚のチラシを抜き出して渡される。
「ホタルを愛でる夜」
と書いてある。
「えっ、ホタル見れるんですか?」
「ええ、一時的な放流なんですが。上手くいけばそのまま産卵してくれるんじゃないか、と淡い期待はあるんです。
なかなか浸透してくれなくて。是非お友達と来てください。」
「あなた…高校生よ。」
高校生を夜のイベントに誘うのはどうなのか?と嗜められて、あっ!ああ…と嶋田さんは慌てている。
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