若松2D協奏曲

置き去りにしたもの

絵里 疾風＆皇

「どうした？」
図書館に入るにあたり、サイレントモードに変えるとスマホを取り出した皇が、画面を見て固まっている。

「新田が帰ってくる。」
「新田…？ああ絵里か。」

去年同じクラスで翠と仲が良かったクミからのメッセージ。
さっき学校で面談室に入っていく絵里を見たそうだ。

「そうか半年か。」
早いな、あっという間だった気がする。
「9月じゃなかったか？」
皇が怪訝さを隠さないでこっちを見てくる。

「どうしたの？」
花音が俺たちが動かないのを見て不審に思ったのか声を掛けてきた。

「…いや、別に。」
花音に話していい事なのか、迷う。
すると皇が
「なあ、交換留学生って戻ってくるのは９月だよな。」
と花音に聞いた。

すると花音は
「違うよ。夏休み前には戻ってくる。クラスに入るのは９月だけど。」
と教えてくれた。

カリキュラムを終えていない交換留学生は現地の学校が長期休みになると日本に戻ってきて、しばらく足りないカリキュラムの補講を受ける。

「去年、部活の先輩がそうだった。
学力小テストを受けて、足りないところを補ってからクラスに入る。だけど部活には戻ってきてた。」

「そうか…。」
「そうなんだ…。」
「なにかあったの？」

「なんでもない。」
2人同時に答えた。まだわからないから、みんなには言えない。
だけどそう答えた時に、ふと気付いた。
「優、翠は？」
「そういえば、まだ電話してるのかな？遅いね。」

「疾風！お前はここに、翠戻ってきたら連絡くれ！」
「おい、皇！待って！」
だけど、皇は外に向けて走り出していた。