若松2D協奏曲

枝豆

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置き去りにしたもの

ひとりで行くな 皇視点

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(もしかしたら、もしかするか?)
あの翠だ。きっとそうしてる。
焦燥感が覆い、気付けば学校に向かって走り出していた。

去年のクラス。
陽キャの塊のような新田絵里は割と早い段階でクラスをまとめ上げていった。
新田はその場を盛り上げてみんなを楽しませるのに長けていたと思う。

まずクミが取り込まれ、芋づる式に翠も囲われた。翠が囲われたら疾風も俺も付いていくしかない。
考えなしに広げられたグループは気付けばクラスの半分程になっていった。

いや、楽しかったよ。あの1ヶ月以外は。
翠と新田が揉めるまで、新田が交換留学に出た3学期は楽しいクラスだった。

大所帯のグループの真ん中と端、クミという接点がなければ多分友達にはならなかったであろうほどにタイプの違う翠と新田。

ある日突然翠の私物が荒らされるようになった。
元々誰かに嫌われたりすることのない翠だったから、最初はたまたまだと思っていた。
だけど嫌がらせは続いた。

「誰だ?誰がやってるんだ?」
俺と疾風、クミ達は心配して、翠が傷付かないようにずっと側にいた。

ほぼ同じ時期に新田が翠を避け始めた。
それはもうあからさまに。
翠には何か心当たりがあるようだったが、俺たちには話さなかった。

だから絵里に「何があった?」と尋ねた。
絵里の答えはいつだって「別に。」だけ。
そっけない態度が完全無視に変わって、絵里は周りに刺々しくなっていった。
気付けばグループは分裂していた。
ただ翠だけが変わりなく皆と接しようとしていた。それはもう痛々しいくらいに。

「翠の物を荒らしているのは絵里じゃないの?」
という声はどこからともなく聞こえ始めて、
「いつか嫌がらせがいじめになってしまうんじゃないか?」まで行き着いた。

だから徹底的に翠と新田が2人にならないようにみんなで翠を守っていった。
新田は翠を避けていたから、翠が新田に近づくのを止めていた。
「もういい加減止めろ!」と言いに行った事もある。

翠の私物が荒らされなくなったのは、3学期、新田が交換留学でカナダに行ったら。 

もし翠が新田に会いに行っていたら?

翠が新田に執着する理由がわからない。だけど追えば追うほどにきっと絵里は翠を容赦なく傷付ける。

もし、翠が傷ついたら…?
そう思うと息が止まりそうになる。
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