若松2D協奏曲

枝豆

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ホタルを愛でる夜

気にしなくてもいいのに… 花音視点

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ホタルを見ている時に、アイツらを2人にしてあげたいんだけど。

皇子くんがそう言ってきた。
おそらく他人はそれは余計なお世話って呼ぶ。

…わかっているのかな。
6人のうち2組のカップルをそれぞれ二人きりにするって事は、結果3組のペアが出来るってことなんだけど。
だったら初めから一緒に行かないでそれぞれで行って貰えば済むのに、何故かそれは皇子くんの頭には浮かんでいなさそう。

そもそも優ちゃんと北斗くんは…。

私と優ちゃんは同じ駅を利用してる。
優ちゃんは南口、私は北口だけど。
去年から同じ制服で乗り降りする優ちゃんのことは気付いていたけれど、なんとなく話し掛けるきっかけがないまま1年が過ぎて、2年で同じクラスになって仲良くなった。

芸術系の大学への進学に強い若松高校。多分翠ちゃんは音大、そして私は美大に行きたいと思っている。
美大にはお金が掛かる、美大専門の予備校にも通わないといけないかもしれない。
だからこっそり画材屋でバイトをしている。

バイトの休憩室の窓からは街をそぞろ歩く人が見下ろせる。
窓にはでっかくお店の名前が貼ってあって、しかもブラインドが降りているから、外から中を見る人はあまりいない。
休憩中の時間を持て余して、ぼんやりと外を眺めていると、時々優ちゃんが通る事がある。
…北斗くんと手を繋いで。

初めて見てしまったのは、まだ「付き合ってるの?」なんて聞くに聞けない微妙な関係の頃。
それから何回か見掛けるけれど、完全に聞くタイミングを逃した。

教えて貰えないってことは私がまだみんなに馴染めていないからだ。
そう思っていたけれど、どうやら翠ちゃんですら知らないっぽい。
何か理由があるんだろう、だから黙っていることにして、知らない事にしてる。

最近皇子くんは元気がない。
みんなと一緒に居たいんだとは思うんだけど、時々フッと距離を取ろうとする事がある。
優ちゃんと北斗くんはどんどん他のグループの子にも話し掛けて、積極的に輪を拡げ始めて、それに引っかかったのが応援団仲間。

何かあったんだとは思うけど、それが聞けるほど私はグループにはまだ馴染めていない。
今日だってたまたまその場にいたから誘ってもらえただけで、いなかったらきっと5人で出掛けていたに違いない。

…私が断れば皇子くんはどうするんだろう。
1人でホタルを見るのかな?
それはないか。
行くのやめちゃうのかな?

別にそんな事気にしなくても、北斗くんと和津くんは皇子くんのことを邪魔にしたりしないんじゃない?
きっとそれぞれ私達の知らないところでちゃんと2人の時間を作っていると思うけど?

バイトの休憩室の窓から見た、優ちゃんと北斗くんの様子を思い出しながら、
「気にしなくて良いんじゃない?」
と言わなきゃいけないのはわかってるんだけど。

私が教えちゃって良いのかな。

「うん、別にいいよ。」
頭が心を裏切ったのか、心が頭を無視したのかわからないけれど、私は皇子くんの提案を拒否しなかった。
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