若松2D協奏曲

枝豆

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体育祭

泣いてる? 疾風視点

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今日はあいにくの雨、その日そこにたどり着いてしまったのはたまたまだった。

体育館はバスケ部には割り当てられていない。バド部が練習試合だから。
全体練習は中止になり、各自筋トレ等をして過ごす。
といっても、屋外部活も沢山あって、筋トレ室は野球部の先輩達で埋まってる。

「どうすっかなぁ。」
と皇と北斗、他の仲間と頭を悩ます。
腹筋だけ2時間とかないわー。
「なあ、コレどう?」
スマホを片手に皇が見せてきたのは、どこかのスポーツクラブがアップしたトレーニング動画。
「なになに?階段トレーニング?」

階段ダッシュだけではなく、段差を利用したトレーニングがいくつかあった。
「まあ、とにかくやってみるか?」
軽い気持ちでその辺りで始めたんだけど。

「邪魔!」
ランニングをしているグループには一箇所に溜まっている俺たちは邪魔らしい。
人がいないところいないところへと彷徨って、とうとう屋上へ続く踊り場まで来てしまった。
普段屋上への扉は施錠されているから、流石にこの先は誰もいないだろう…。
ここなら落ち着いてトレーニング出来そう、そう思ったのに。

グズっ…スンっ…グズっ…。
(泣いてる…のか?)
あれ?あの声…。あれ?西?
見上げた先にある階段の上には屋上への扉しかない。半分は壁になった手摺で一個下の踊り場からは死角になっていて見えない。どうやら壁の向こうに泣いている多分女の子がいる。
そして階段を塞ぐようように、こちらに向いて座っている女の子数人の中に、丸いトランペットみたいなのを抱えたクラスメイトの西がいた。

北斗と皇も泣いている子の存在と、吹部の集団の異様な雰囲気に気付いて、足を止める。

俺たちをみつけた西はちょっと驚いて、隣の子に一言話し掛けると、立ち上がって小走りに階段を降りてきた。
「ったく、誰が漏らしたの?」
西らしくもなく舌打ちすると、俺の腕を掴んで、階段を降り始める。
「こっち来て。」
「いや、筋トレの場所探してただけで、たまたまなんだけど…。」
そういうと西はマズイ!と思ったのか、表情を歪めた。

「ねえ、あれ翠だろ?」
そういうと皇と北斗がえっ!と驚く声を出す。
「…何も。何も言わない。」
西はそれだけいうと黙り込んだ。
しかし歩みは止めない。
違うと言わないところ、翠なのは間違いない。

まるまる一階分階段を降りてようやく西は立ち止まった。
「…何も見なかった事にして。」
「ねえ、大丈夫なの?何があったの?」
「…和津には関係ない。」
「なあ、西。」
「あのさぁ、バスケ部は試合に負けて泣いた事とかないの?んで泣いてるチームメイトに「なんで泣いてるの?」とか聞いちゃったりするの?」

そうか。そういうことか。
部活で何か行き詰まっているのか。
「…そうか。わかった。別の場所探すわ。」
「…ありがと。そうしてくれると助かる。
ねえ、このこと…。」
「大丈夫、言わないし、聞かない。だけど頼むな、西。」
「うん、そこは大丈夫。金管が付いてる。」
じゃ、と西はやっぱり小走りで階段を上がっていった。

「疾風…良いのか?」
意外そうに北斗が聞いてくる。
「うん、良いんだ。ひとりじゃないし。」
「心配じゃないの?」
「心配だけど…。多分俺たちには何も出来ないし、俺たちの前では翠は泣けない。」

「だから普通に、普通に接してやってくれよ。」
「そうか、お前がそれで良いなら、そうするわ。ホラ、皇、行くぞ。」
まだ気にかかる様子を見せる皇に北斗が声を掛けた。
「吹部のことだ。吹部でなんとかするんだろ。」
それだけ言葉にした。

「さあ、どこで筋トレすっかなぁ。」
ワザと大きく声を出して、腕を軽く上には伸ばした。
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