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皇子くんの一番
誰かの一番になりたい
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壮は頑張った。ソラも頑張った。
壮とソラは小学生の部、21名の中で、10位だった。
嶋田さんは満足そうに
「テリアで10位なんて上出来!」
と喜んでいた。
よくわからないが、嶋田さんに言わせると、上位5位くらいまでの犬は有名犬らしい。
優勝したラブラドールは特に。
それよりもなによりも。
とにかく壮がニコニコ笑っている。
あんなに、あんなにいつも無表情だったのに。
父に抱きついて、髪の毛をグジャグジャに混ぜっ返されながら、壮が笑っている。
あれっ?カメラおかしい?
レンズ曇ってる…?違うか。
目をゴシゴシと擦って、それでも夢中になって写真を撮り続けた。
ずっと撮りたかった壮の笑顔。
同じ構図に同じく笑う父がいる。
諦めていた親子の姿がそこにあった。
「一応練習して大会に出るという夏休みの目標は達成した。だけど課題も見えたし、壮くんが続けるならもう少しやってみるかい?」
という嶋田さんの申し出に壮は嬉しそうに
「いいの!やる!僕頑張る!」
と食いついた。
「…ソラで良いの?」
美和子さんが恐る恐る聞いてくる。
「優勝とかを目指すなら…。」
「ソラが良い!ソラじゃないとやらない!」
とキッパリ言い切る壮。
…壮が変わった。
もう膝を抱えて蹲っていた壮じゃない。
やりたい事、言いたい事はきちんと口に出すようになった。
良いことだけど、やっぱり寂しいな。
壮にとってもう俺は一番じゃなくなった。
だってほら。
「お兄ちゃん!」
と壮が抱きついて来たのは、今やっとだから。
…誰かの一番に、俺がなる事はあるのだろうか…。
「皇、壮、ちょっといいか?」
父に呼ばれて振り向いた。
「うちでも犬を飼うのと、嶋田さんオススメの一眼レフカメラを買うのとならどっちがいいと思う?」
壮と顔を見合わせる。
「お兄ちゃん、カメラが良いんだよね?」
そっと顔色を伺う壮。
先に選べよ…。思いを込めて壮に微笑んだ。
「…うーん。今はソラがいるから、良いかな。」
よし!自分で選んだ!つい手を握ってガッツポーズ。
「やっぱりカメラが先じゃないの?」
半分期待を込めて言葉にしてみる。
いつまでも嶋田さんにカメラを借り続けているわけにはいかないから。
北斗のところでもらったバイト代は手付かずで取ってあるけれど、それじゃ全然足りないから。
「お前がカメラ欲しいだけだろう?」
「それは…そうだけど。」
「じゃ、今度の休みにカメラ見にいこう。壮だけじゃない、皇との時間も作らないと。」
じわり胸が熱くなる。
「今更かよ。」
心とは裏腹に口から出る言葉は素直にはまだなれない。
「まだ間に合って欲しい、そう思ってる。」
「…どうしたの急に?」
「うーん、どうしてだろうね。」
ソラとはしゃぐ壮を眺めているようで、父はもっと遠くを見つめているような気がする。
「…俺、ちゃんと写真撮れるようになりたいんだ。壮だけじゃなくて、親父も母さんも。
友達も。大切な人の写真撮りたいんだ。」
将来の夢…と言えるほど確たるものじゃないけれど、小さく芽生えた願い。
それを口に出して、父に伝える日が来るとは思ってもいなかった。
「うん、良いんじゃないか。」
笑わられる事もなく、責められる事もなく、肯定してもらえた事がなんだか嬉しくて照れ臭い。
たくさんの写真を撮ってあげる事で、こんな俺でもいつか誰かの一番になれるだろうか。
この願いは秘めておくけどな。
俺にもどこかもっと先にある大切なものを見つめられる日が来るのだろうか。
壮とソラは小学生の部、21名の中で、10位だった。
嶋田さんは満足そうに
「テリアで10位なんて上出来!」
と喜んでいた。
よくわからないが、嶋田さんに言わせると、上位5位くらいまでの犬は有名犬らしい。
優勝したラブラドールは特に。
それよりもなによりも。
とにかく壮がニコニコ笑っている。
あんなに、あんなにいつも無表情だったのに。
父に抱きついて、髪の毛をグジャグジャに混ぜっ返されながら、壮が笑っている。
あれっ?カメラおかしい?
レンズ曇ってる…?違うか。
目をゴシゴシと擦って、それでも夢中になって写真を撮り続けた。
ずっと撮りたかった壮の笑顔。
同じ構図に同じく笑う父がいる。
諦めていた親子の姿がそこにあった。
「一応練習して大会に出るという夏休みの目標は達成した。だけど課題も見えたし、壮くんが続けるならもう少しやってみるかい?」
という嶋田さんの申し出に壮は嬉しそうに
「いいの!やる!僕頑張る!」
と食いついた。
「…ソラで良いの?」
美和子さんが恐る恐る聞いてくる。
「優勝とかを目指すなら…。」
「ソラが良い!ソラじゃないとやらない!」
とキッパリ言い切る壮。
…壮が変わった。
もう膝を抱えて蹲っていた壮じゃない。
やりたい事、言いたい事はきちんと口に出すようになった。
良いことだけど、やっぱり寂しいな。
壮にとってもう俺は一番じゃなくなった。
だってほら。
「お兄ちゃん!」
と壮が抱きついて来たのは、今やっとだから。
…誰かの一番に、俺がなる事はあるのだろうか…。
「皇、壮、ちょっといいか?」
父に呼ばれて振り向いた。
「うちでも犬を飼うのと、嶋田さんオススメの一眼レフカメラを買うのとならどっちがいいと思う?」
壮と顔を見合わせる。
「お兄ちゃん、カメラが良いんだよね?」
そっと顔色を伺う壮。
先に選べよ…。思いを込めて壮に微笑んだ。
「…うーん。今はソラがいるから、良いかな。」
よし!自分で選んだ!つい手を握ってガッツポーズ。
「やっぱりカメラが先じゃないの?」
半分期待を込めて言葉にしてみる。
いつまでも嶋田さんにカメラを借り続けているわけにはいかないから。
北斗のところでもらったバイト代は手付かずで取ってあるけれど、それじゃ全然足りないから。
「お前がカメラ欲しいだけだろう?」
「それは…そうだけど。」
「じゃ、今度の休みにカメラ見にいこう。壮だけじゃない、皇との時間も作らないと。」
じわり胸が熱くなる。
「今更かよ。」
心とは裏腹に口から出る言葉は素直にはまだなれない。
「まだ間に合って欲しい、そう思ってる。」
「…どうしたの急に?」
「うーん、どうしてだろうね。」
ソラとはしゃぐ壮を眺めているようで、父はもっと遠くを見つめているような気がする。
「…俺、ちゃんと写真撮れるようになりたいんだ。壮だけじゃなくて、親父も母さんも。
友達も。大切な人の写真撮りたいんだ。」
将来の夢…と言えるほど確たるものじゃないけれど、小さく芽生えた願い。
それを口に出して、父に伝える日が来るとは思ってもいなかった。
「うん、良いんじゃないか。」
笑わられる事もなく、責められる事もなく、肯定してもらえた事がなんだか嬉しくて照れ臭い。
たくさんの写真を撮ってあげる事で、こんな俺でもいつか誰かの一番になれるだろうか。
この願いは秘めておくけどな。
俺にもどこかもっと先にある大切なものを見つめられる日が来るのだろうか。
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