若松2D協奏曲

文化祭

疾風視点

「時間だよ。行って来なよ。」
売り子をしていた皇が時計を見て俺に声を掛けた。

「うん、終わったら直ぐに戻る。」
吹部のアンサンブルコンサートの時間だった。

部活や委員会の当番の割り振りもあって、クラスに入れる時間の希望を聞かれた時。
迷いなく、ダメな時間を吹部のコンサートの時間と被せた。

それを見た仁志に溜息をつかれて
「全部は無理！」
と怒られた。

翠に確認したら、やる内容は同じなのだそうだ。
だから仕方なく、体育館と音楽室、どちらか一回ずつは見たい、とお願いした。

今日は初回のアンサンブルを見て、あとはクラスに。
明日は午前は部活の方に、午後はクラスに。途中抜けて体育館のコンサートを観に行く。

バスケ部は…今年なんだったっけ？

それくらい今年はクラスの企画に没頭していた。

白のパンツスーツの翠を見つけて、笑顔になる。
「疾風先輩！」
声を掛けられて振り向くと、林がいた。隣には…縦にも横にも大きい男の子、あの弟かな？

「…例の、弟です。」
こんにちは、とペコリと頭を下げた男の子の手に…。

「買ってくれたんだ。」
電車の絵がついた、ウチのバッグを持っていてくれた。
「フルで買ったんですよ、コイツ。」
「フルで！？」

冗談で作った９枚セット。
値段を割り引く案も出たけれど、後で計算が面倒だとそのままの値段になっている。
２２５０円。
中学生なのに、スゲー気合い入ってんな。

「食べ物は買わないって決めて来たので。」
減量中の林の弟は、間食おやつは我慢して、その分を磯山学園の寄付にするつもりらしい。

「あっ、それ。富田の絵。えーとなんだっけ、ああタカシセンセーだ。剣道の。」
「えっ？タカシ先生って、富田先生の？」
「うんそう。」
「えっ！若松だったんですか？」

キョトンとしている林に、磯山学園に剣道を教えに行っていた富田の話をする。

「兄ちゃん！会いたい！んで、もうひとつ買う！」
…ははは。
富田愛されてんな。

「スパイダーマン。今日の富田はスパイダーマンの衣装来て校内を練り歩いている。そのうちどこかで会えると思うよ。」
と教えてあげる。

「ありがとうございます！」

「あーあ、先輩、これじゃ違うイベントになっちゃうじゃないですかぁ。」
と林がボヤく。

…違うイベント？

「はあ、ほとんど企画に参加してないから、そうかなとは思ってましたけど。
ビンゴ！校内探検隊！」
「…何それ？」
「バスケ部の！疾風先輩、明日は絶対来てくれないと、ウチの部のイベント成立しませんからね！」

…よくわかんね。北斗にでも聞くか。

その時、翠の演奏が始まった。