若松2D協奏曲

枝豆

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文化祭

翠視点

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「翠!行くよ!」

体育館でのコンサートを終えて、次の集合まで約2時間の空き時間がある。

楽器をケースにしまっていると、中野さんが呼びに来た。

打楽器は文化祭中は舞台袖に捌けるだけなので、そのまま行っちゃった方が早い。
だけど中野さんはそうはしない。

サックスの子の中にはアルトとテナーを吹き分ける子がいて、クラリネットにはバスクラと使い分ける子がいて…。
そういう2つ以上の楽器を運ぶ子の事を、中野さんは決して忘れない。
「ツンデレ綾先輩」と1年生が呼んでいる、と北条くんが教えてくれた。

「…珍しいですね。」
北条くんが呟いた。
「…そう?」
「ええ、綾先輩が誰かを誘うなんて珍しい。」

西さんが苦笑いで、
「浮かれてんのよ、中野は。」
と言った。

学校行事でクラスの頭数に入れてもらえない事が多い吹奏楽部。
仲間外れとは言わないけれど、疎外感みたいなものは常にある。
優ちゃんと北斗くんが
「来ていいよ。」
と言ってくれた事が、嬉しかったらしい。

「まあ、私もだけどね。ほら、行くよ!」

3人で廊下を小走りしてクラスのブースに向かった。

うわぁ、人凄い!

「翠!ここ!」
疾風くんが手招きしてくれる。
「紙の番号読み上げて。」
と数枚の紙を渡された。
「えっと…。1、5、9」
読み上げた数字で、疾風くんがフックに掛かった袋を集めていく。

「これ、紙と一緒に…菜々子に渡して。」
「はい!」

菜々子ちゃんがお客さんと絵柄を確認して、金額を告げていく。

「なんか凄い機能的…。」
「うん、優が考えた。」
さすが優ちゃん!
一方通行で、綺麗にお客さんが流れていく。

「あっ。」
一時的にフックから袋が消えて、隠れていた絵が見えた。
皇子くんが描いた、バスケットボールの絵。そこにスポーツ選手のシルエットの絵がついた袋が再び掛けられた。

「なんかニヤニヤしちゃう、ね。」
疾風くんとニッコリと笑い合った。

「翠、お昼は?」
「…まだ。」
「食べておいた方が良いよ。」
「うん、後で。」

カバンの中にお弁当がある。
本当は焼きそばとかフランクフルトとかどこかのクラスで出しているのを食べたいけれど、吹部にはそんな暇はない。

…ううん、違う。

お昼の2時間は本来はそのための時間。
今年はそれをクラスに当てると決めたから。

今年はこっちの方が、きっと楽しい。

「翠!」
あっ、絵里ちゃん。
「なんでジャージ?」
「よくわかんないけど、とりあえず休憩の間は着とけ、って富田に言われた。」

「ね、コレ食べる?」
大きく開かれた袋の中に、3年生が売っている大福やお団子がたくさん入ってる。
「…いいの?」
「うん、貰い物だから。」

文化祭を見に来たお父さんが買ってくれたって。

「じゃあ、コレ。」
ありがとう。

「…美味しっ。」

絵里ちゃんと食べた大福、きっと思い出のひとつになる。
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