若松2D協奏曲

枝豆

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天使が舞い降りる 皇

世間は狭い

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あ、あの。

テープにいたのは6人。うちひとりは生徒さんではなくて、生徒さんのお嬢さん。
田辺さんの娘さん。

「あの、皇子先輩、ですよね。」
皇子、と呼ぶのは高校の友達、最近は後輩にまで浸透し始めてはいる。

「もしかして若松?」
「はい!1年の田辺です。あ、あの…津山先生のクラスの。」
「ああ、津山の。」
部活の顧問の津山のクラスの子、確か1Aだったか。

おばさま方がやいのやいのと騒ぎ始める。
「寿美の学校の…そう先輩なの!わぁ、すごい偶然、ううん、運命?」
「違うから。」

同じ学校ってだけで運命とか言い出したら、運命の大セールに違いない。

「部活…バドミントンなんです。だから…。」
「ああ、優か。」
「はい!」

優が皇子と呼ぶから、自然と皇子と認識したって事か。

「うわぁ、どうしよう。みんなに怒られる。」
「怒られる?まさか。」
「いや、絶対に怒られます!」

みんなの憧れの皇子先輩、しかも滅多に見れない和装姿で。
「クリスマスパーティーしたなんて知られたら、絶対怒られます。」
だって。

ははは、俺一体なんだと思われてるんだ!?

「…写真撮っても良いですか?」
と聞かれたから、どうぞと答えた。

「寿美、失礼よ。やめときなさい。」
田辺さんが子供を嗜める。
「別に構いませんよ、慣れてるし。」
「慣れてるの!?」

学校で隠し撮りされるのは一度や二度じゃない。試合ともなれば連写音が凄まじい。

流石にフラッシュを焚かれると北斗や疾風が怒ってくれる。
ただカメラを学び始めてから、フラッシュを焚きたいと思ってしまうことも度々あって…。俺からは何も言ってはいない。

「学校でいちばん人気がある先輩なんです!」
って誇張して力説しなくていい。

このままだと心が抉られる。
自分のことが話題の中心になるのは居心地が悪い。

察して美和子さんが巧みに話題を逸らし始める。
俺にはわからない、着物の話だ。

自然とおばさま達と、俺と田辺寿美さんと、会話は2つに分かれた。

寿美さんって何か言いにくい…。みとさの繋がりがしっくり来ない。
気付けばスミちゃんと呼びかけるようになっていた。


異変は突然だった。
「田辺さん?大丈夫?」
キャーっというおばさま達の悲鳴が上がる。
「あなたー、あなたー!」
美和子さんまで叫び出した。

えっ!と思って田辺さんをみると、白目を剥いて椅子に変に寄りかかっている。
えっ!?さっきまであんなに元気に俺を揶揄っていたのに!?

「お母さん!」
慌てて寿美ちゃんが駆け寄る。

「動かしちゃダメ!今救急車呼ぶから!」
一人の人が携帯を持ち上げた。

「お母さん、お母さん!」
寿美ちゃんが泣き出した。

2階から嶋田さんが降りてくる。
「どうした?」
「わからない。わからないのよ。
さっきまで普通だったのよ!なんか眠そうで、身体がフラフラしてるなぁ、と思って。
そうしたら急に目つきがおかしくなって…。」
「救急車は?」
「呼びました!」

とりあえず横にしよう、いや動かさないほうがいい、と大人達がパニックになっている。

「とりあえず、大丈夫だから。救急車を待とう。」
田辺さんに張り付く寿美ちゃんをそっと引き剥がした。
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