若松2D協奏曲

枝豆

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天使が舞い降りる 皇

25日

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明け方になって嶋田さんは帰ってきた。
「少し寝て下さい。」
俺と壮を送らないとと言い張る嶋田さんだったけど、もうバスも電車も動いているから大丈夫、と眠ってもらった。

俺達が家を出るときまだ寿美ちゃんは寝ていたけれど、起こすこともない。
昨夜は物凄く疲れただろう。

壮と2人でパスに乗る。
「ごめんねー…寝ちゃって。」
壮は昨日の騒ぎを知らない。
泊まったのは壮が寝落ちしたからだと思っている。

あえて伝える必要もない。
「大丈夫、おれも寝ちゃったから。」
と壮を安心させた。

嶋田さんと美和子さんは俺と壮の枕元にクリスマスプレゼントを置いていてくれた。
「…どうしてここにいることわかったんだろう…。」
「誰に?」
「…サンタさん。」

うっ!
えっ!?

壮は小3…。知ってる子は知ってる…。知らない子はいるか…?
俺は知ってた…はず。

美和子さんは俺を見て優しく微笑んで頷く。
(内緒…ねっ。)

「壮、お礼言おう。あー、そのサンタさんに。」

プレゼントに向かって頭を下げる。
「サンタさん、ありがとうございます。大切にします。」
そう言ってみせると、壮も真似をする。
嶋田さんにちゃんとお礼を言えなくてすみません、という気持ちを込めて…。


「また、ゆっくり来てね。その…大晦日にでも。」
桜廣寺の年越しそばは地元の名物だから、きっとみんなで来るだろう、もしかしたら初詣になるかもしれないけれど。
暗にその時に寄って、と誘ってくれている。

「お世話になりました。」
とバス停で美和子さんに手を振った。



…眠っ、さすがに眠い。
今日が終業式で良かった。さすがに授業があったらとっとと寝てしまっていたと思う。

通知表をもらって、さっさと帰路に着く。
疾風がなんかやいのやいの騒いでいるけど、ごめんちっとも耳に残らないや。

駅で
「先輩!」
と声をかけられた。
寿美ちゃんだった。
「ああ、寿美ちゃん。どう大丈夫?」

「はい、もう大丈夫です!昨日ありがとうございました。さっき母は帰ってきました。」
寿美ちゃんはお母さんの帰宅を待って、通知表だけを取りに遅刻で学校に来たそうだ。

「大したことがなくて良かったね。」
「はい!葛西先輩のおかげです。」

ははは、俺、何もしてないけど。
あれ?今、葛西って?
まっ、いっか。こっちの方が正しいんだから。

「母が、お詫びに新年会するって言っていたんで、良かったら葛西先輩もまた来て下さい。」
「…懲りないね、君のお母さん。」
お酒の席での…おそらく失敗なのにめげずに次を企画する田辺さん、さすが美和子さんのお友達だ。

「今度は、大丈夫です!しばらく禁酒するって言ってましたから!っていうか家族が飲ませません!!」

うん、じゃあ予定が合えばね、と寿美ちゃんと別れた。


「…寿美ちゃんって?」
「ああ、昨日さぁ、嶋田さんの家で…会った。」

なんとなくその先を言いたくなかった。
誰かの失敗を話題にはしなくはなくて。

「ふーん。」
「なんだよ。」
「いーや別に。寿美ちゃん、だって。」
ぶっ!と疾風が吹き出す。
「なんだよ。」
「皇が、女の子にちゃん付けするのって珍しいなぁ、って思った。」

ああ、それはな。母親の前で初対面で「寿美!」なんて呼んじゃダメだろう、ってだけの話で…。田辺!もダメだ。目の前に「田辺さん」は2人いたし。
寿美さんは言い難かったし。

でもな。
あの感じ、寿美!じゃないんだよな。
泣いて、ぎゅっと掴まれた手のひら。
寿美…ちゃんだよな、やっぱり。

「そうかな、他にもいるだろ。」
「いないよー。」

疾風はマフラーの裾をぶんぶんと振り回しながら俺を揶揄ってくる。

…なんだろうあのマフラーをアピールしてくる感じ。
新品の服を見せびらかす母を思い出すんだけど?

「お前、そんなマフラー持ってたっけ?」
白いマフラー、ふっ、お前が白のマフラーって。
「あー、酷い!俺の話聞いてなーい!これ翠に翠にもらったの!クリスマスプレゼント!」

あー、なんかさっきからやいのやいの言ったのはそれか。

電車が来て乗り込んで。
座れたのは奇跡的。
「ごめん、俺眠い。少し黙ってて。」

ブースカ騒ぐ疾風を放り出して、俺は目を瞑った。




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