若松2D協奏曲

枝豆

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trick or treat 花音

お怒りモード

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父と母は郊外に買い物に車で出掛けていたために、警察に行くのは大和さんの方が早いからと大和さんへ身柄の引き渡しを依頼してくれていた。
だけど、それは決して大和さんを許していたわけではなくて。
少しでも早く私を警察署から連れ出させる為で…。
慌てて帰ってきた父と母が家で待っていた。

母はオロオロと心配そうに、父はただ黙って座って、大和さんの話を聞いている。

開口一番に、
「申し訳ありませんでした。」
床に額を擦り付けた大和さんに、私がやめて下さい!と駆け寄ると、
「花音!」
と父の鋭い一言に嗜められる。

「部屋に戻るか、黙って座っているか、どっちかにしなさい。」
「…はい。」
渋々とソファーに腰掛ける。
大和さんは土下座したままだ。

なんで、なんで?
大和さんは悪くないのに…。

「まだ高校生の女の子がバイト中に犯罪被害者になるなんて、管理責任を問われるのはわかるね。」
「はいわかります。大変申し訳ありませんでした。」
そこでやっと父が、
「頭を上げなさい。それでは話し合いにならない。」
と大和さんに告げた。

「…何があった。」
父に聞かれて大和さんが話し始める。

店舗の設備から休憩室を業務に使用するしかなかったこと。そのために従業員の休憩は店舗外で取ってもらうことにするしかなかったこと。
ワークショップの講師に来ていた人が、休憩時間を使って私に個人的に商品の勧誘をした事。
その勧誘の仕方が悪質で、私が居酒屋の個室に半ば監禁する様に閉じ込められた事。

この先私は知らなかった事があった。

あの講師の人は私に商品を売る事だけが目的じゃなくて、違法ローンを組ませるのが目的で、後から来たスーツの人は、いわゆる闇金融の人じゃないか?
そう考えた警察は、生活安全課だけではなくて、組織犯罪対策課も尋問に当たっているそうだ。

18歳未満の私はローンは組めない。
もし私がローンを組むとしたら保護者が保証人になる必要があったが、そんな説明はなかった。
もし私があの場でローンの契約書にサインをしていたら、親に相談する事もさせては貰えずにずっとお金を返し続ける事になっていただろう。
返させる事が目的じゃなくて、そのさらに次があったのかもしれないと、警察の人に言われたこと。

「どうして防げなかった。」
「花音さんの休憩には私かもうひとりの正社員が同行するはずでした。もちろん外部の講師や取引先と同席させるつもりはありませんでした。
言い訳を許して貰えますか?」
大和さんが父にお伺いを立てて、父が頷く。

「今日のシフトでは、花音さんの休憩はあと30分後の予定でした。
外部講師のスケジュールは我々の関知出来ることではありません。
時間通りにワークショップを開催してくれればいい、そういう契約でした。

私は通常業務や本社への報告などで、一旦花音さんから離れてしまい、同時にもうひとりの社員もお客様対応のためにやはり花音さんから離れる事になってしまいました。
花音さんが連れ出されてしまった事に気付いたのは、店を出てから5分ほど後でした。」

エプロンにスマホを突っ込んだままだった事から、大和さんは店の防犯カメラを確認したそうだ。

無理矢理エプロンを外されて、腕を引っ張られて店から連れ出される私の姿を見て、大和さんはその時点で警察に一報を入れた。

「警察では現時点では犯罪じゃないかもしれないからと、何も出来ませんと言われて、店を一旦クローズして、花音さんを探す事にしました。」

そしてお店からの通報で、警察官が動き出して、私は無事に保護された。
警察からの連絡を受けて、大和さんは警察署に駆けつけて。

「それが全部か?」
「はい。」
「わかった。今日はもう帰れ。
この先の事は花音ではなく私に。娘はまだ高校生だ。
アルバイトを続けるかどうかは一任させてもらう。」
「お父さん!私は、」
辞めない、と言いたかった。
「花音!安易に決めるな!…これから話し合う。」
「私は辞めないから!」
「安易に決めるな!と言っている。黙りなさい!」

「はい、わかりました。花音、よく考えて決めなさい。
辞めてほしくはありませんが、今回ばかりは伊佐さんの気持ちを尊重しなければならないと思います。

本日は本当に大変申し訳ありませんでした。」

大和さんはそう言って立ち上がってしまう。

慌てて玄関まで大和さんを追いかける。
「大和さん!私、辞めたくありません。」
「うん、ありがとう。
だけどお父様の言う通りだ。俺は殴られても仕方のない過ちをしてしまった。こうやって冷静に話を聞いてもらえだだけでも感謝しかない。
ものすごく心配されたと思うんだ。
だから…仕方がない事なんだよ。

少し冷静に考えた方がいい。店はとりあえず少し休みなさい、続けてくれるとしてもね。
花音は…それだけの辛い経験をしたんだから。」
「大和さん…。」

「じゃあ。」

大和さんは丁寧に頭を下げてから、帰ってしまった。





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