若松2D協奏曲

アンハッピーハロウィン 富田

理由

今日のパーティーはお父さんの会社の社長さんエリックの家で行われる、毎年恒例のパーティーだ。

去年、ここでエリックと会ってモデル事務所の社長を紹介してもらって…。
だから行かないという選択はなかった。

…去年、もうひとりここで会った人がいる。
正確にはここで、もうひとつの繋がりがある事を知った、ってところかな。

貴行。

クラスメイトの貴行のお母さんが社長の奥様の友達だった。
貴行はお父さんの代わりにお母さんをエスコートして、この場に来てた。

「貴行！？」
「おお！絵里じゃん！」

お互いに偶然にビックリして、話が弾んで。
そして付き合うことになって…。

夏だったら帰国してないかすぐの頃だったから、招待を断る口実もあったけど…。幸か不幸か今年は秋で。

ひとりで参加するのが怖かった。

貴行との事情を知ってるのは和津と翠だけ。
貴行が翠にした仕打ちを考えると翠は誘えない。だから和津も誘えない。

後は文化祭で少し仲良くなった仁志と富田くらいしか…。
…事情は話せない、あの２人は何も知らない。話すとしたら、翠とのピアスの件から話さなくちゃならなくなる。

仁志はバイトで来れないけど、富田は来てくれた。
…良かった、助かった。

着いた時まだ貴行の姿はなかった。少しでも見つかりたくなくて、富田と共にバルコニーに出た。
ストーブがあるから大丈夫、これに温かい飲み物でもあれば完璧。

花火を見て、料理を食べて、さっさと帰ろ。

「コーヒー飲める？取ってくるね。」

飲み物は全部リビングの一角にまとめてあって、セルフで好きなのを取りに行く。
来たばかりの、多分こういう集まりに慣れてない富田に取ってこい！なんて言えない。

「取りに行こう。」
そう言えばよかったと思ったのは、コーヒーを淹れている時に声を掛けられてしまったから。

「絵里？」

背筋が凍った。

「あっ…。」

見つかっちゃった。

貴行がお母さんと立っていた。



「…お久しぶりです。」
貴行じゃなくてお母さんに挨拶した。
お母さんは…知ってるのかな？
私達がちょっとの間付き合ってたこと、一方的に私が貴行をフった事になってしまっている事、貴行が翠にした酷いこと…。

「相変わらずみたいね。」
…知ってそう。
蔑むような冷たい声に全てを察した。

「あの…私。」
人を待たせていると離れようと思ったのに、タイミングが悪かった。

エリックの奥様のマリアさんが、
「タカコ～！」
と貴行のお母さんを見つけて話しかけてきちゃった。

そのままマリアさんとお母さんは会話を始めてしまう。

「絵里。」
「…何？」
「話がある。」
「…私にはない。」

声が震える。

…貴行がやっぱり怖かった。