若松2D協奏曲

アンハッピーハロウィン 富田

察し

ガラス越しに見えた新田はどこか表情が冴えなくて。

自信に溢れて眩しいくらいに輝いて見えるいつもの新田じゃなかった。

…どうしたんだろう？

気になって側に行った。

「別れた」
途切れ途切れに聞こえた会話でズドーンと俺の頭に響いたのはこの一言だけ。

ああそうか。
場違いな場所に無理やり俺たちを連れてこようとしたのは、きっとコレが理由だ。

新田は目立つ、そしてモテる。
その事を新田は十分自覚してるし、それを武器にして闘おうとしてる。
その新田がここまでシュンとしてしまう相手。
きっと会いたくなかった元彼のひとり。

だから俺は新田から離れちゃいけない。
今日ここに呼ばれた意味はきっとコレしか無い。

…学校のやつ。オレ、コイツ知ってる。
こう見えて俺、剣道をやってるせいか人のちょっとした動きとかに敏感なんだ。
和津がサッと山本の視界を塞ぐような不自然な動きをする時は、大抵コイツとすれ違う時。
（山本に何かやらかしたんだな。和津がこうなるってことは…。）
そう薄々感じてた。

きっと、ううん絶対に。
山本だけじゃなくて、新田にもなんかやったんだな、コイツ。

「じゃ、また学校で。」
剣道の試合の時に時々出てしまう殺気というか覇気というか、それを前面に押し出してそう言うと、何か言いたげな様子を見せながらもヤツは黙って引っ込んだ。

早く帰ろ。
ここは居心地が悪い。
な、新田？
手が震えてるよ。

…理由わかんねーけど。

思わず出してしまった手を新田は迷わずに掴んでくれてて。だから花火を見てる間、ずっと手を掴んでた。
牽制…になるか？
安心して貰えるか？

花火が上がる合図の音玉が鳴る。
バルコニーの手摺に寄り掛かって花火を見上げてしまえば周りの余計なモンは新田には見えない。

しっかし。
本当よく見えんな。

俺が知ってる花火大会は蒸し暑い人混みの中で、汗だくで蚊と闘いながら見る花火。
あれはあれで楽しいし、花火大会なんてそんなもんだと思ってたけど。

透き通る空気、心地よい秋風。
満員電車のように知らない誰かと肩がぶつかることもない。
新田の手を掴んでいても、手汗なんか全くかかない…いや違うちょっと、いや、かなりかいてるかも。
でも離さなかった。苦じゃない、全くもって。

「エリー、楽しそうだね？」
声を掛けて来たのは多分事務所の社長さん。
日本人だから、お父さんじゃない。判断材料はそれだけだったけど、多分当たり。

「ここなら良いけど、外では気をつけて。もう今からパパラッチ対策しておかないとダメ！」
って言うからさぁ。

「ここでなら良いんですか？」
と聞いた。
俺が見張っているとアイツにさえ伝われば、俺の役目は終わる。

社長さんはちょっと俺を睨んで、新田を睨んで。
ギュッと新田が握り返してくる力が強くなった。

「ああ、今だけなら構わないよ。」
どこか呆れたような、諦めたような答えだけど、よし！言質は取った。

「ありがとうございます。」
とお辞儀をしておいた。