若松2D協奏曲

枝豆

文字の大きさ
182 / 242
アンハッピーハロウィン 富田

禁止令

しおりを挟む
放課後に面談の約束をさせられて、鳩の死体は用務員さんが持って行ってくれた。

教室に入ってしばらくすると、原田が教室に入って来た。

「全員、靴を持って来て。しばらく下駄箱の使用を禁止するから。」

えっ!?
なんで?

教室中が騒めき出す。

廊下に人が溢れ出した。隣のクラスも動き始めたらしい。

原田は俺の方をじっと見るから、プイッと横を向いた。
…余計な事してんじゃねぇーよ。
これじゃ、尻尾捕まえられねーじゃねぇか。

「他人の下駄箱にイタズラをするヤツがいる。犯人が名乗り出るまで下駄箱の使用を禁止する。ホラ、早く靴を取りに行け!」

ガタガタと椅子を引く音がして、みんながブーブー文句を言いながら廊下に歩いて行った。

「富田、お前のだろ?」
悠太がそう聞いてくるけど、
「知らねー。」
と答えておく。

だって直ぐ近くには真っ青な顔をした新田がいる。
山本も何か思い当たるのだろうか、2人で顔を見合わせている。
…察するなよ、気付くなよ。良いことなんか無いんだから。


昼休み。
中庭でコッチを睨んでいるアイツに向かって歩き出そうとした時、
「…富田…どこ行くの?」
って新田が不安そうな声で俺を呼び止めた。

「…どこにも。」

本当はアイツを問い詰めたかったケド、新田の前じゃ出来ない。
「図書館…行こう?」
新田が手を差し出して俺を誘う。

その手をしっかりと握って、
「うん、行こう。」
と答える。

先生達は山本の私物が荒らされた時、何もしていなかった訳ではなかった。
それは放課後の面談で知らされた。

「去年の今頃も似たような事があってな。
それはひと月くらいで収まったんだが、今度また起きたらどうするかは決めてあった。」

「それが靴箱使用禁止?」
「ああ、そうだ。」
「無関係なヤツ巻き込むなよ。」

俺たちが授業を受けている間にカラの下駄箱はビニールシートで覆われていて、使いたくても誰も使えない状態にされていた。

「ロッカーは何もされてないか?」
「教室のとロッカー室のは空にしたから、されてない。」
「空!?それ困らないか?」
「部室のがあるから、平気。」
「それはそれでどーかと思うけど、仕方ない、今回は見逃す。」

まさかと思うけど、ロッカーも使用禁止にするつもりか?と聞いたら、被害が出ればそうだと答えた。
「みんな困るだろう?」
「スポーツ系の部活の奴は困らないだろう?お前みたいに。」
と原田はニヤリと笑った。

帰宅部、文化部の奴らは困るだろーがっ!

「靴箱もロッカーを禁止にして、犯人捕まえる気ないの?」
「あるよ。
「どうやって。」

「お前の心当たりと、教員の心当たりの結果次第。」

「…吐けっていうの?」
「そうだ。もうお前だけの問題じゃない。さすがに鳩はやりすぎだろ。」

まあ、確かにな。動物に罪はない。

「A組の森。」
「理由は?接点無いだろ。」
「…ある。好きなヤツが同じ。」
「誰だ。」

それには答えない。新田は巻き込めない。
原田が探るように俺を見つめる。
仕方ないから、じっと見つめ返してやった。
剣道三段の俺と睨み合いをして勝てるなんて思うなよ。

だけどインドアの教員に負けたのは俺だった。
「新田。じゃないと答えが合わない。」
と原田に言われて、スッと視線を逸らしちまった。くそっ!全部お見通しか。
だけど。
「言いたく無い。」
と悪あがきをしてみる。

諦めて原田はそこで話題を変えた。

「ずっと耐えるつもりだったか?」
「まさか。こっちからは手を出さないけど、向こうから出して来たら話は別。」
「…剣道か。お前は絶対に手を出すな。正当防衛でも専守防衛でもダメ。
後は俺たちに任せろ。」

「…わかった。」
嫌だって言ったら、話は進まないし終わらない。
渋々だけど、不本意だけど。

「富田、お前のロッカーの鍵寄越せ。」
「鍵なんか付けてない。」
「…じゃあ、こっちで付ける。」

カラのロッカーに鍵!?

「無駄な事すんなよ。」
「ビデオカメラを入れる。」
「そんなん捨てられて終わりだろう?」
「データはWi-Fiで飛ばす。」
「本気?」

去年見逃されたから、アイツ何にも考えて無いんだろうな。先生に当たりつけられていたことも対策練られていたことも気付いてない。
森ってヤツ、おそらくはもう詰んでる。

「ああ、誰にも言うなよ。」

言わねーって。
和津以外には。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...