若松2D協奏曲

枝豆

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芸術鑑賞教室 菜々子

ひとり

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地下鉄の乗り換えのための通路でひとりになった。
雑踏の中にポツン…と。

周りにボツボツと見慣れた制服の子がいるから、後ろを付いて行けば駅にはたどり着く…はず。

この先の事は降りる駅しか聞いてない。
富田くんのあの感じだときっと劇場に近い出口までしっかり計算して乗る場所まで決めている。

そしてそれを私は知らない。
(ちゃんと聞いておけば良かったな。)
合流さえ出来れば後は付いていけばいい、そう考えてその先の情報はシャットアウトしてた。

例えばこの地下鉄で先頭車両に乗ると聞いていたら、待ち合わせの3両目とごちゃごちゃになって、先頭車両に乗ってしまいそうになる…から。
6分を17分に頭の中を変換するのでも苦労した。

…言い訳だね。ただメモリー容量がないだけ。

きっとあの様子だとみんなが私がはぐれた事に気付くのは地下鉄に乗り換えた後。
下手したら劇場に入る時まで気付かれないかもしれない。


いつもそうだった。

「あれ?菜々子は?」
「また?」
「仕方ないなあ。」

「まっ、いいか。そのうち来るでしょう…。」

そんな会話を想像した。


あー、泣きそう。

「菜々子!早く!」
後ろに立っていたのは…須藤くん。
「諦めるな!まだ行ける!」

たったこれだけの距離なのに、みんなについて行く事すら出来なかった私を気にしてくれる人がいた。

「うん!」
カードを出して、ピッとかざして。

「仁志と菜々子!いた!」
という声が聞こえた。

えっ!?

改札の中に、みんながいた。

「…先に行かなかったの?」
「行くわけないだろう!!」って悠太くんが怒る。

「ごめん、乗り遅れさせたんだね。」
と謝ると、
「いや、違う。そもそも間に合わない。この距離は無理!」
「そうそう、そもそも富田の計画が無謀なんだよ。」

男の子達が言い合う。

「菜々子ちゃんだけじゃないよ、私も。」
と翠ちゃんが言ってくれる。
翠ちゃんが改札に入った時には既に電車は行っちゃってたらしい。

ホームまで行ってたのは富田くんだけ。
振り返って誰も来てない事がわかると、その電車を見送って改札まで戻ってきた。

「富田の考え方がおかしい。
14分乗り換え時間がある、と考えるのが普通。」
と皇子くんは優しいな。

「ったく。だから鉄オタは!」
「違うよ、鉄オタで括っちゃダメ!」
「そっか、だから富田は!!だね。」
「そうそう、富田の計画はいつもいつも独りよがり!!」
「うるせー。」

ヤバっ。みんなが優しくて涙が出そうだ。

「行こう、とりあえず続きはホームで。」
ポンポンと肩を優しく叩いてくれたのは須藤くん。

文化祭の時もいつもそうだった。
後ろでいつもいつも私が取りこぼさないように、殿を務めてくれるのは、須藤くん。

…なんで須藤くんじゃなかったんだろう。

須藤くんが絵里ちゃんのことを好きなのはわかってた。
だけど絵里ちゃんは須藤くんを選ばなかった。

絵里ちゃんのタイプがよくわからない。

こんなに優しい人なのにな。








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