若松2D協奏曲

アンハッピーハロウィン 富田

再会

帰国して直ぐに学校に手続きに行った。
対応してくれたのは副校長先生。
久しぶりに履いた制服のスカートは意外なほどに身体に馴染んでた。

「おかえり、新田さん。カナダではちゃんと学び倒して来たかな？」
「…多分。いえ、はい。とても充実してました。」

これから学校は１学期の期末テストなのだという。私は期末ではなく習熟度判定テストを受けて、補習を受けなくてはならない。そして２学期からどこかのクラスに編入し直される。
「とりあえず明日テストね。用意はしておくから。」

事務手続きを終えた母を待って、駐車場に出た。

…あっ、翠だ。そして…。

こっちをじっと見ている翠、その後ろに皇子が駆け寄って行くのが見えた。

この瞬間に察した。まだ終わっていなかった。
逃げるようにカナダに行っている間、学校の時は止まってた事に気付かされた。

…もう、嫌だぁ。

なかった事にはならないらしい現実が覆いかぶさってきた。
真っ直ぐに翠が見れない。
俯いて車に乗り込んで、さらに俯いた。

「久しぶりの学校で疲れた？」
お母さんが聞いてくる。
「ううん、…違う。」

翠の横を通り過ぎる時、窓の外は怖くて見れなかった。

そんな気分のままで受けたテストの結果は散々で。
辛うじて補習なしで済んだのは英語と数学。
物理は運動量保存則をlaw of momentum conservation、加速度 をaccelerationと書いたら怒られた。
壊滅的なのが現代文と古文、まず漢字が出てこない。
渡された補習スケジュールはお盆を除けば名一杯押し込まれた。

そして面談室を出たら和津がいて。
翠と仲直りが出来て、留学前のゴタゴタを無かった事にして欲しいと頼んで、私の中では終わったと思ってた。

…終わってなかった。

新学期の日、家のマンションの前に貴行が立ってた。

「おかえり。」
「…ただいま。」
「連絡くれたら良かったのに。」
「…なんで？」

なんでもう別れた貴行に、一体どんな連絡をしろというの？

「ブッ！なんでって。」
別に笑わせるつもりは無かったのに、貴行は面白そうに笑い出した。
「なんの冗談。付き合ってるんだから帰ってきた報告くらいしろよ。」

背筋に冷たい風が吹き抜けた。
まさか？まさか！？
「…私達別れた…よね？」
「ああ、留学してる間だけ、な。」

貴行が言っている意味がわからない。

「ごめん、私は…、」
「留学してる間だけな！」
私の言葉を遮って貴行は言う。

「留学に専念したい、そう絵里は言った。留学は終わった。だから俺たちは元通り、だろう？」

「…違う。もう…。」
「ちゃんと話そ。そうしたらどれだけ俺が寂しい思いをしてたかわかるから。」

「嫌、…話すことなんかない。」

どれだけ貴行が私を好きかとか、どんな誤解があったかとか、なんで私が別れたいと思ったのかを聞きたい、とかじゃなくて。
「どれだけ俺が寂しかったか？」を分かれ、ってどういうこと？

「…分かりたくない。もう貴行とは別れた。」
「絵里！話そ。」
貴行の腕が私の方へ伸びてきて、思わず後ろに一歩下がった。

「新田さんのお嬢さん、おかえり。」
不意に遠くから大きな声を掛けられて、ビクッと身体が震えた。
あっ、管理人さん！

箒を片手にこっちを見ている作業着姿の管理人さんが救世主に見えた。

「ただいま！お掃除お疲れ様です！」
返事をしながらエントランスに走って飛び込んだ。
二重の自動ドアが開くまでの時間がもどかしい。
振り返ると管理人さんに止められている貴行がこっちを睨みつけていた。