31 / 56
列車の旅は眠くなりますよね
第31話 車窓 (ウォール)
しおりを挟む
定刻通りに魔道列車は王都の駅を出発した。
王都の街並みを抜けるまでは地下を進む。城壁の地下を潜り抜けると、やっと地上に出て、車窓からは王都の周辺の森と畑を見ることができる。
この辺りの畑は、彩り様々な野菜が栽培されているようだ。
森には獣たちが住み着き、狩場となっている。
連休明けには、学院主催の狩猟大会もそこで開かれる。
去年はイチイが頑張っていたが、今年はエンジュがいるからな。
イチイの出る幕はないかもしれないな。
ハンティングなら、剣術より、射撃術の方がランクが低くても役に立つだろう。
「アカシアは、学院主催の狩猟大会に、何か参加するのか?」
「私ですか?私は見学だけの予定ですわ」
狩猟に参加する学生は一握りで、殆どの学生が見学だ。
「そうか、僕は殿下のそばを離れられないから、一緒には見学できないが――」
「お気遣いなく。誰か女友達と一緒いるようにしますわ」
「お姉様、ですたら私が一緒に――」
「エンジュはハンティングに参加する様に話があるはずだぞ」
「そうなのですか?――まあ、仕方ないですね」
「狩猟大会があるのですか?」
「カリンさんは、ハンティングをやったことは?」
「私はないですね。釣りなら得意ですが――」
「流石、海のそばに住んでいただけはあるな」
「食費の足しにするため必死でしたね……」
「そ、そうか……」
雑談をしている間に、魔道列車は順調に北西方向に進み、一時間も進まないうちに、畑は麦一色に変わっている。
ちょうど、穂が出揃った麦が風に吹かれて揺れている。
あと、一月もすれば収穫期を迎えることだろう。
西の公爵領と北の公爵領にまたがるこの地帯は、王国一の穀倉地帯だった。
その真ん中を魔道列車が進んでいく。
車窓から麦が揺らめくのを見ていると、昔のことを思い出す。
車窓から、正面のエンジュに目を向け、それから、目を閉じて当時の記憶を確認する。
あれは、もう六年前、ちょうど今頃の季節だった。
俺は、両親と一緒に、王都からは魔道列車に乗って辺境領に戻る最中だった。
車窓からは、今と同じように麦畑が見え、どこまでいっても代わり映えしない景色に、俺はうとうとしていた。
ふと気づくと、空席だった目の前の席に、黒髪の女の子が座っていた。
=============================
あれ、お母様の隣は誰も座っていなかったはずだけど?
誰だろうこの女の子?
「あ、お兄ちゃん起きたの?」
知らない女の子が俺のことをお兄ちゃんと呼んだ。
「あら、ウォール、目を覚ましたの? まだかかるから、もう少し寝ていていいわよ」
「お母様、その女の子は誰?」
「ウォール、寝ぼけているの? エンジュに向かって」
「エンジュ? 誰だっけ?」
「妹のこともわからないのか? 寝不足か? もう少し寝ていろ」
「そうなのかな? まだ眠いし、もう少し寝てるよ」
隣に座るお父様に言われて、また俺は目を瞑った。
しかし、俺に妹なんて、いつの間にできたんだろう?
お父様の隠し子か? この世界の貴族にはありがちだからな。
それにしても、突然現れたのは変だ。俺は夢を見ているのか?
妖精によるいたずらか? いや、この世界に本当に妖精がいるなんて聞いたこともない。
それとも、両親は魔法で操られているのだろうか?
いろいろ考えているうちに、どうやら、本当に寝てしまったらしい。
終着駅到着前に起こされた。
「ウォール、起きろ。到着だぞ」
「……到着? ふぁー。よく寝た」
「お兄ちゃんは寝過ぎよ!」
夢かと思ったが、目を覚ましても、妹のエンジュはそこにいた。
そのまま、一緒に屋敷に向かい。当然のように、屋敷の使用人に迎え入れられていた。
その後、さりげなくエンジュのことを調べてみたが、俺の妹である証拠しか出てこなかった。
ただ、貴重なクインタプル-フォーということなら、隠し子でなく、養子の可能性も出てきた。
クインタプル-フォーといえば、エンジュのランク4の素質の中の一つが記憶術というものである。
この、記憶術が人の記憶を操る術だったらどうだろう。
両親も使用人も、エンジュに記憶を操作されているのではないだろうか。
そこまで考えて、逆の可能性があることに気が付いた。
記憶を操作されているのは俺の方だというものだ。
両親たちの記憶を操作するより、俺一人の記憶操作の方が簡単で手間がかからない。
そうなると、何故、エンジュは妹だということを俺の記憶から消す必要があった? 今も妹として暮らしているのに? そんなことをする理由が全く思いつかない。
とにかく、真相は闇の中だった。
=============================
当時は不思議でならなかったが、今ではどうでもよくなっていた。
エンジュは俺の妹で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
再び、目を開けてもエンジュは目の前に座っていて、こちらを見て微笑んでいた。
車窓からは、まだ、麦畑が広がっているのが見えた。
王都の街並みを抜けるまでは地下を進む。城壁の地下を潜り抜けると、やっと地上に出て、車窓からは王都の周辺の森と畑を見ることができる。
この辺りの畑は、彩り様々な野菜が栽培されているようだ。
森には獣たちが住み着き、狩場となっている。
連休明けには、学院主催の狩猟大会もそこで開かれる。
去年はイチイが頑張っていたが、今年はエンジュがいるからな。
イチイの出る幕はないかもしれないな。
ハンティングなら、剣術より、射撃術の方がランクが低くても役に立つだろう。
「アカシアは、学院主催の狩猟大会に、何か参加するのか?」
「私ですか?私は見学だけの予定ですわ」
狩猟に参加する学生は一握りで、殆どの学生が見学だ。
「そうか、僕は殿下のそばを離れられないから、一緒には見学できないが――」
「お気遣いなく。誰か女友達と一緒いるようにしますわ」
「お姉様、ですたら私が一緒に――」
「エンジュはハンティングに参加する様に話があるはずだぞ」
「そうなのですか?――まあ、仕方ないですね」
「狩猟大会があるのですか?」
「カリンさんは、ハンティングをやったことは?」
「私はないですね。釣りなら得意ですが――」
「流石、海のそばに住んでいただけはあるな」
「食費の足しにするため必死でしたね……」
「そ、そうか……」
雑談をしている間に、魔道列車は順調に北西方向に進み、一時間も進まないうちに、畑は麦一色に変わっている。
ちょうど、穂が出揃った麦が風に吹かれて揺れている。
あと、一月もすれば収穫期を迎えることだろう。
西の公爵領と北の公爵領にまたがるこの地帯は、王国一の穀倉地帯だった。
その真ん中を魔道列車が進んでいく。
車窓から麦が揺らめくのを見ていると、昔のことを思い出す。
車窓から、正面のエンジュに目を向け、それから、目を閉じて当時の記憶を確認する。
あれは、もう六年前、ちょうど今頃の季節だった。
俺は、両親と一緒に、王都からは魔道列車に乗って辺境領に戻る最中だった。
車窓からは、今と同じように麦畑が見え、どこまでいっても代わり映えしない景色に、俺はうとうとしていた。
ふと気づくと、空席だった目の前の席に、黒髪の女の子が座っていた。
=============================
あれ、お母様の隣は誰も座っていなかったはずだけど?
誰だろうこの女の子?
「あ、お兄ちゃん起きたの?」
知らない女の子が俺のことをお兄ちゃんと呼んだ。
「あら、ウォール、目を覚ましたの? まだかかるから、もう少し寝ていていいわよ」
「お母様、その女の子は誰?」
「ウォール、寝ぼけているの? エンジュに向かって」
「エンジュ? 誰だっけ?」
「妹のこともわからないのか? 寝不足か? もう少し寝ていろ」
「そうなのかな? まだ眠いし、もう少し寝てるよ」
隣に座るお父様に言われて、また俺は目を瞑った。
しかし、俺に妹なんて、いつの間にできたんだろう?
お父様の隠し子か? この世界の貴族にはありがちだからな。
それにしても、突然現れたのは変だ。俺は夢を見ているのか?
妖精によるいたずらか? いや、この世界に本当に妖精がいるなんて聞いたこともない。
それとも、両親は魔法で操られているのだろうか?
いろいろ考えているうちに、どうやら、本当に寝てしまったらしい。
終着駅到着前に起こされた。
「ウォール、起きろ。到着だぞ」
「……到着? ふぁー。よく寝た」
「お兄ちゃんは寝過ぎよ!」
夢かと思ったが、目を覚ましても、妹のエンジュはそこにいた。
そのまま、一緒に屋敷に向かい。当然のように、屋敷の使用人に迎え入れられていた。
その後、さりげなくエンジュのことを調べてみたが、俺の妹である証拠しか出てこなかった。
ただ、貴重なクインタプル-フォーということなら、隠し子でなく、養子の可能性も出てきた。
クインタプル-フォーといえば、エンジュのランク4の素質の中の一つが記憶術というものである。
この、記憶術が人の記憶を操る術だったらどうだろう。
両親も使用人も、エンジュに記憶を操作されているのではないだろうか。
そこまで考えて、逆の可能性があることに気が付いた。
記憶を操作されているのは俺の方だというものだ。
両親たちの記憶を操作するより、俺一人の記憶操作の方が簡単で手間がかからない。
そうなると、何故、エンジュは妹だということを俺の記憶から消す必要があった? 今も妹として暮らしているのに? そんなことをする理由が全く思いつかない。
とにかく、真相は闇の中だった。
=============================
当時は不思議でならなかったが、今ではどうでもよくなっていた。
エンジュは俺の妹で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
再び、目を開けてもエンジュは目の前に座っていて、こちらを見て微笑んでいた。
車窓からは、まだ、麦畑が広がっているのが見えた。
0
あなたにおすすめの小説
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる