異世界の勇者に逮捕されました!?

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03 職場見学

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「ふむ、ここが君の職場か」
「そうだよ……本当はあんまり見せたらいけないんだけどな」
俺はアルクを連れて交番へとやってきた。ここが俺の仕事場である。
部外者を交番に連れてきてしまうなんて、これこそ悪いことなんじゃないか……と思うが、仕方がない。

「君はここでどんな仕事を担当しているんだい?」
「主に周辺の見回りと交通整理だな。あとは落とし物の管理をしたり……」
俺がそう答えると、アルクは不思議そうな顔をしている。
「犯罪者を捕まえるんじゃないのか?」
「まぁ、そういうこともあるけれど、俺は地域の安全を守ることが担当なんだ」
「へぇ、そうなんだ……」
アルクはあまり納得していない様子だ。異世界から来た人間にとっては想像しにくいのかもしれない。
彼は魔法で魔獣と派手に戦っていたし、同じように、俺も悪人と戦っていると思ったのだろう。
「人々が安全に暮らせることが、世界平和に繋がると俺は思っているよ」
「なるほど。それが君の考え方なのか」
「ああ。だから俺は警察官になったんだ。誰かを守れるような強い人になりたいからな」
「素晴らしい考えだね」
アルクはそう言って微笑む。やはり彼の笑顔を見ると、少しドキッとするな……。
「ありがとう。でも、君も自分の世界のために頑張っているんだろう?立派じゃないか」
世界を守るために異世界へやって来るなんて、かなりの正義感がなければできないことだろう。
「そうかな。そう言ってもらえると嬉しいよ」
照れくさそうに笑うアルクを見て、俺もつられて笑う。
「お互い頑張ろうぜ!」
すると、アルクは驚いたような表情を見せた。
「どうした?」
「いや、何でもない。そうだね……、頑張ろう」
「おう!」
何だか変なことになってしまったけれど、俺はできることをやるしかない。気持ちを切り替えて、いつも通り仕事に励むことにした。

「おまわりさーん!おっはよー!」
「おう、おはよう!気をつけて学校に行くんだぞ!」
小学生に元気良く挨拶され、俺もそれに応える。その様子を見て、アルクは驚いているようだった。
「へえ、君は随分慕われているんだな」
「そうか?まあ、なるべく明るく接するように心掛けてるからかもしれないな」
ここを通る子供達はみんな素直で良い子ばかりだ。彼らのためにも、安全な街づくりをしていきたいと思っている。

「おはよう」
「あ、おはようございます!」
ベテランの先輩が出勤してきた。彼はとても優しい人で、いつも丁寧に指導してくれる頼もしい先輩だ。
「大庄敷、昨日も遅くまで残業してただろ。疲れてるんじゃないか?」
「いえ、全然平気ですよ。先輩も無理しないでくださいね」
「ああ、ありがとう」
俺は本当に良い人たちに恵まれていると思う。この人達のおかげで、俺は毎日楽しく仕事をすることができているのだ。
アルクは、そんな俺の様子をじっと見つめていた。

***

「ふう……、今日の業務はこれで終わりだな」
書類を整理し終え、脱力して椅子にもたれかかる。業務に没頭しているうちに、あっという間に夜になっていた。
「お疲れ様」
「うお!?」
急に声をかけられて驚いてしまう。そうだった、アルクがいるのを忘れていた。
「集中していたみたいだね」
「ま、まあな……」
ずっと見られていたことに気付き、急に恥ずかしくなる。
そういえば何度かトイレにも行ったけれど、その時はアルクの姿は無かった気がする。完全に透明化もできるのだろうか。きっと見られていたんだろうな……。
「どうかしたかい?」
「い、いや、なんでもない!それよりどうだった?俺に怪しいところはあったか?」
「そうだなぁ……」
アルクは顎に手を当てながら考え込む。今日は真面目に仕事をしていただけだし、何も問題は起こっていないはずだ。
「特に問題はなかったよ。君はしっかりと職務を全うしているようだ」
「そっか、良かった……」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、そろそろ帰ろうと思うんだけど……」
「ああ、帰ろう!」
アルクは嬉しそうに言うと、俺の手を握った。そして、徐々に姿がはっきりと見えるようになる。どうやら魔法を解除しようとしているらしい。
「ちょ、ちょっと待って、まだ早いよ」
「え、どうしてだい?」
「だって、もし誰か来たら大変だろう?こんな所を見られたらまずいし」
俺は慌てて周囲を見回した。幸い誰もいなかったが、突然こんな美形な男がいたら騒ぎになってしまう。
「なるほど、そういうものなのか」
「そうだよ、まだ透明になって待っててくれ……」
「分かったよ」
アルクはまた姿を消してくれた。これで一安心だ……。
俺は急いで着替え、二人で交番を出る。念のため、家に着くまで姿は見えないままでいてもらうことにした。
「えっと……俺の家に来るんだよな?」
「もちろん、そうだよ」
「そうだよな……」
俺の狭い部屋に美男子を招き入れることになるとは。しかも、まだ疑われている身だ。
何か不手際でもあれば、魔法で消されてしまうかもしれない……。慎重に行動しなければ。

俺は色々不安になりながらも、アルクと共に自分の家へ向かったのだった。
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