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つる

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あんたがいればそれでいい

魔術と紅茶の香り 2

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「ならなんだよ」
 ロドナークは置いてあった黒ペンでコンコンとローテーブルに敷いた紙を叩く。ちょうど円と文字の間あたりだ。
「術を発動させるのに必要なのは、力と文や絵と合図だ。それらを簡単にしたのがプログラムと機械と術式結晶だ」
「文と絵と合図?」
 力についてはわかる。何もないところから魔術は発動したりしない。俺が唸っても掌を見つめても火も水も風も石もでない。魔術を発動する力がなければいけないのだろう。けれど、それ以外の文と絵と合図がよくわからない。俺は首を傾げる。
「そう。魔術の専門用語でいうとスペルとサークルとリリース。魔術はスペルとサークル……文と絵を描いてこの魔術を使いますよ、この魔術はこうですよっという指示を出す。魔力で指示通りに形を作ってリリース、解放……あー……発動させる。これが合図というわけだ」
 俺が『なんだそれ』と思って顔に出すたびに、ロドナークが違うことばで説明してくれた。なんて親切なやつなんだ。俺は親切なロドナークの説明を聞いて『魔術には力と文と絵と合図』が必要なんだということを頭に入れる。
 小さく頷くとロドナークは良かったと顔を緩めた。教えるのが特別得意なわけではないらしい。
「もう一度いうがこれらを簡単にした……手軽にしたのがプログラムと機械と術式結晶だ。手軽でなくて良いならすべて人の手でできる」
「それはつまり……金がなくてもできるって?」
 手間がかかっていいのなら誰でもできる。
 ロドナークのことばは俺のような貧乏人にもできるといっているようにきこえた。
「その通り。ただし、奇跡だとか神秘だとかいわれるものを扱うには資質……適正が必要だ」
「マジュツテキソヨウってやつか?」
 俺が調べた中で一番気に食わないことばがマジュツテキソヨウだ。これがなければ魔術は使えない諦めろというのが普通である。諦めるのは得意な方であるが、気分良く諦められるわけではない。俺は気に食わないことを隠さなかった。
 ロドナークは俺の顔を見て、顎に手を当てて独り言を繰り返す。無表情でブツブツいうさまは文句をいっているようにしか見えない。こいつもそんなことを質問してくるのかと面倒になったのだろう。そう思って布に包まろうとすると、ロドナークが俺の手を掴んだ。
「……火を、つけるには燃やすものが必要だろう? 電化製品を使うにも電気が必要だ。魔術を使うには魔力が必要で……人間はだいたい魔力を持っている」
 ロドナークはイライラしていたのではなく、どういうか悩んでいたらしい。
 再び話し始めたロドナークを助けるように俺は口を開いた。
「魔力が多いか少ないかで魔術を使えるかどうか決まる?」
 マジュツテキソヨウの話でよくいわれる話だ。
 生まれ持った才能次第で使えないんだといわれているようで嫌いな話である。
「ただしくは、魔力が多ければ魔術が多く使えて威力も強くなるってだけで、魔力が少ない奴が魔術が使えないなんてことはない」
 ロドナークは俺の嫌いな話を違うといって、満足そうに笑った。
 俺のいったことを否定しておきながら、よくできましたといわんばかりの笑顔だ。何がそんなに嬉しいのかわからないが、珍しいものを見て俺は瞬きを繰り返す。そんなものは生まれてから目の前でみたことがない。
「もちろん、使い方や注意すべきことが解らなければ使えないし事故が起きる。そういうことを含めて魔術的素養のあるなしは決まるんだ。お前にはあるよ」
「……使い方も注意することもわかんねぇ俺にはねぇよ」
 楽しそうに、かつ嬉しそうにロドナークは話し続ける。
 話をわかってもらえることが楽しいのか、聞いてくれるのが嬉しいのか。
 ロドナークは不思議だ。こちらを妙に照れ臭い気分にさせる。俺はロドナークから顔を反らして事実を述べると、俺の頭に何かが乗った。
「あるよ。ここまで聞いて俺にも使えるって安易に思わないこと、調べたんだろうに未だ術を使ってないこと。知らないことに貪欲なのに慎重だ」
 髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きまわして、俺の頭から何かが離れる。気のせいでなければ何かはロドナークの手で、たぶん頭を撫でられた。今日は珍しいことばかり起きる。悪い気はしない。
「プログラムの話」
 しかしやはり俺は照れ臭い気分になり、わざと不機嫌な顔をして話を戻す。
「そうだった、プログラムの話だったな。魔術プログラムは魔術に必要な文と絵と合図を出すために作られたものだ。その文と絵と合図が最初に俺が紙に書いたこれだ……文が二種類あるのはわかるな?」
 まだロドナークに顔を向けるのは照れ臭い。ちらっとローテーブルの上を確認する。赤と青の文字と二重の円が見えた。
「色が違ぇから」
 俺の答えにロドナークはまたもや満足したらしい。また俺の頭の上に手が乗った。
 俺はペットか何かか。そうは思うもののやはり嫌な気分ではない。
「本来なら赤い方は青い方とは違う文字なんだが正しい字を書くと発動してしまうから同じ文字で書いている。赤い方は魔術を形作る文……スペルだ。青い方は合図だ。この合図を操作するために機械が使われる」
「合図を操作する?」
 またわからないことをいいだしたと思い、頭に乗った手をそのままに振り返る。わかんねぇよという不機嫌顔で振り返っただろうに、ロドナークは目が合うとふにゃふにゃ笑った。何が嬉しいのか本気で分からない。俺の眉間に皺が寄った。
「魔術プログラムは魔術に必要な手間をなくすために作られたものだから、魔術を発動させるための合図も最初から用意されている。けれど合図されたままだと魔術は発動したままになってしまう。そこで追加で用意したのがスイッチだ」
「もしかして、つけたり消したりできる?」
 スイッチと聞いてすぐ頭に浮かんだのは部屋の灯りだ。この部屋にある灯りは壁にあるスイッチを動かすことで、つけたり消したりできる。それと同じことが魔術でもできるということだろうか。
 不機嫌顔を止めて首を傾げると、ロドナークの顔が更に蕩けた。
「そう! スイッチで合図のオンオフができる。魔術を発動させる合図を機械から送ることでそれを可能にする」
「なるほど。じゃあ、スイッチは結晶じゃなくて機械にあるのか?」
 魔術をボタン一つで発動させる。どうやってそれを起こしているかなんて知らなくても、ボタンが押せて間違った使い方さえしなければ問題ないのだ。普通はそんなこと気にしない。
 俺だって魔術をどうにか使ってみたいと思っていなければ、調べなかったし質問もしなかった。ロドナークの話なんて聞きもしなかっただろう。
 だからこうして質問をされると嬉しいんだろうか。ロドナークは上機嫌に俺の頭を撫でた。
「その通り。さて、本来魔術を発動させるには機械も結晶も必要ない。でも手軽さは捨てがたい。ならどうする?」
「絵と文だけ用意して合図と力は自分で出す?」
「正解」
 ずっとぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられて、すっかり俺の頭は鳥の巣だ。流石にロドナークも俺の髪型が気になったのか、俺が正解を導き出すと髪を整えだした。
「これでプログラムの話の触りは終わりで、まとめるとこうだ。魔術は人の手で発動する。魔術的素養があれば誰でも魔術が使える。魔術は手間がかかるけれど魔術プログラムで手軽になる。たとえ機械や結晶がなくても魔術プログラムの一部を使えば手間が省ける。質問は?」
「……一気に詰め込まれて質問までいかねぇよ。ちょっと時間くれ。時間」
 頭の回転は速くないし、記憶力がいいわけでもない。その上、ロドナークが変わったことをしてくるから少々気が散る。俺は頭の中を整理するためにブツブツとロドナークがいったことばを繰り返す。
 ああ、途中でロドナークがブツブツいいだしたのはこれか……そんなことがチラリと頭をよぎる。ちょうどそのとき、ロドナークがこういって俺から離れた。
「わかった。それじゃあ、紅茶でも淹れようか」
 コーヒーじゃねぇのかよ。ぼんやりローテーブルの紙を見つめ残念に思う。
 あとから出てきた紅茶は今まで嗅いだことのない良い匂いで……しばらく紅茶を飲めずに猫舌だと思われた。いや、違うからな。
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