商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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「…車で行きましょう」


 今回バスで移動しようとしていたのだけど、背後からのストーカーヒムカさんの視線が凄いので(後、何度か声を掛けて来そうになった)距離を取りつつ移動。と言うか最近ヒムカさん、遠慮が無くなって来ている。
 買い物に行くと何時の間にか目の前に居て荷物を持とうとするし、この間は仕事が終わって気晴らしに商店街を散歩していたら、何時の間にか傍に来ていた。

 ちょっと、いいやかなり怖い。

 うっかり道端でヒートとかを起こしてしまったら怖すぎるので会いたくないのに、最近は視界に入ることが多すぎ。お陰で抑制剤が手放せない。これ、結構お高いのですよ?
 しかも『運命』だから勝手に身体が反応する。

 中学の時は兎に角、今はヒムカさんにそんな気なんて無い。

 だけど問答無用で意識がそちらに向く。

 ほんっと、勘弁してくれ。
 これって厄介な呪いみたいだよなって思っているのだけど、ヒムカさんは理解しているのかな。

 奥さんに振られて離婚して、寂しさを覚えたから今更俺を追い掛けて居るのでは?



 止めてくれ。
 俺はヒムカさんの『運命の番』かも知れないけど、そんな此方の気持ちを無視した運命なんてものに翻弄されたくは無い。
 俺の自由意志を否定しないでくれ。

 それとも偶々都会に出たら『運命の番』に会って、浮かれているとか?
 中学の時は五分刈り頭のお子様だった俺の事等覚えていない可能性があるし、顔とか姿とか覚えていない可能性大。ふ、中学の時の俺今よりも身長低かったし。
 自虐ネタだよ、こんちくしょう。

 まぁ、今も昔も色気の一つもないから………自分で言っていて、非常に!虚しい!!


「…っさん、小林さん」

「えっ」

「大丈夫ですか小林さん!?顔色が悪いですよ」


 焦っている嵯峨さんが此方の顔色を伺うためか、俺の顔を覗き込んで来る。と言うか、近い!顔が近い!


「ええ?」


 思わず変な声が上がっちゃうよ!


「店長ちゃん~昨夜ワクワクして寝られなかった、とか?」


 可愛い~とか年下の高校生である京夏君に言われてしまったけど、横、横!京夏君の横に居る落合君からの圧が凄!!此方を可愛いとか言わないで、落合君の嫉妬が凄まじいから!


「可愛いのは京夏君だからって言ってやって落合君」

「ほぅ、京夏が可愛いと?」


 それ藪蛇!嫉妬しないで!俺君等カップルの間にはどうやっても入りたくないから!断固!拒否!!無理過ぎるから!!


「うん、冗談だ」

「ぶふっ!」


 真顔で冗談とか言わないで欲しい!

「京夏が可愛いのは真実だ」って、何これこのバカップル凄まじい。

 落合君の台詞を聞いて嬉しそうな京夏君、良かったね!
 此方は色々と当てられて何とも言えない気分ですよ。


「嵯峨さん」

「はい」

「…何でも無いです」


 意味もなく嵯峨さんの名前を呼びたかっただけです、とか言ったら嬉しそうに微笑まれたけど。
 俺、ヒムカさんの事考えてイライラしたり落ち込んで居たのに、バカップルに当てられて無性に嵯峨さんの名前を呼びたくなったりしてさ。

 浮き沈み激しくて変じゃねえ?

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