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69 あの人がお父さん

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 side.嵯峨憲真

 小林茶坊での出来事から数時間後。
 何故か俺は警察官達に連れられ、此処から近い派出所にまで連れて行かれた。

 最初のうちは彼女等が住んでいたアパートに案内をするだけだと思っていたのだが、問題を起こした母親の娘もまた母親同様に支離滅裂な事を言い出して喚き、まともな話し合いが出来なかったからだ。
 その為母親同様に娘まで薬を使用して居るのでは?と疑惑が高まり、一人の警官が娘を連れ出そうとしたがその際に保護者である彼女の父親、もしくは祖父母は居ないかと聞いた。

 すると何故か、


「あの人がお父さん」


 警官と俺、目が点になった。


「だってそう聞いたもの。お母さんが大家さんのこと『私の男』だって」


 それは無い。
 断言出来る程だ。
 100%無い、無理。
 あの女と付き合うなんて俺にとっては悪夢以外無い。
 全力で拒否する。

 私の横に居た警官が「大丈夫ですか、物凄い顔色悪いですよ」と心配してくれるぐらい拒否反応が出てしまった。出来たらこのまま帰らせて貰えません?母親も母親ならその娘もコレか。
 気持ち悪くて仕方がない。


「そもそも貴方のお母さんとはアパートを借りる際に初めて会ったし、その後『トイレを修理して欲しい』とか何度も修理をお願いされて訪れた時に会っただけです。嘘でしたが。その他は会っていません」

「嘘!!」

「嘘ではない」

「嘘よ、嘘!お母さんが言っていたもの!『大家さんと付き合っている』って!」


 ありえないが、付き合っていると言う台詞を母親から聞いただけでお父さんって。幾ら自分の母親だからと、どれだけ疑うという事を知らないのだ。
 そもそも父親ならこんな他人行儀な接し方をしない筈だし、一緒に住んだりしているのでは無いか?


「その台詞が嘘だったのですよ」

「そんな訳ないじゃない!だって、お母さん何時も言っていたもの!『αのイイ男は私みたいな良い女を欲しがる』って!」


 背後で流石に変だと思ったのか、警官の一人が「いい女?」と疑問を口にし、もう一人の警官に小突かれている。この子には申し訳無いが、君の母親はとてもでは無いけど俺の目から見てイイ女とは言えなかったよ。
 恐らく今この場にいる警官達もそう思っていることだろう。
 薬のせいかどうかはしらないけれど、俺。いいや男を舐め腐った顔をして下に見ている感じだったし、一寸でも媚びれば即落ちると思い込んで居た様だ。
 かなり気持ちが悪い人だった。

 出来たら二度と会いたく無い。
 今後は不動産に任せてなるべく早く此処を出て行って貰おう。

 恐らく残った娘だけでは家賃は払っていけないだろうし、この娘も言動がおかしいことから薬品以外にも精神的にも何かあるかも知れないと、警官達が此方にだけ向けて小さく言葉を漏らし、携帯電話で手配をした。

 その後も色々と揉めたが、母親も母親ならば娘も話が通じないタイプだったようだ。それでも警官が頑張り、時間が掛かったが何とか祖父母らしき人達の連絡先を入手。
 とは言え母親と縁を切られているらしく、「どうせ迎えには来ないわよ!」と逆ギレ。

 流石に疲れたし、俺はもう良いだろうと警官達には申し訳無いがその場を後にする事にした。
 その際に今後は不動産を通してくれと不動産の連絡先を教え、さあ出て行こうとするとー…


「私を置いていかないで、お父さん!」


 ご近所に響いただろうなぁと言う大声。
 この子は本当に人の話を聞かない。
 もう此処まで来ると母親に洗脳されているのかとも思ったが、可愛そうと言った感情は一切なく、酷く冷たい感情が心の中から出て来る。
 迷惑としか思えない。


「ひっ!」


 恐らく無意識にαとしての威圧を出して居るのだろうが構わない。
 それだけの事をされたのだ、コレぐらいの威圧で許してやろう。

 …だから一切の手加減はしない。


「血の繋がりも、家族でもないアカの他人、しかも名前も知らぬ子供に『お父さん』等と呼ばれるとは信じられん。迷惑だ。二度と顔を見せるな」

「だって、だって!私…!」


 何だかゴチャゴチャと言っていたがスルーしてその場を去った。
 ああ、気持ちが悪い。心が一気に冷えて嫌な気分に陥るが、何とか頭を振って気分を変える。
 今後俺や小林さんにこれ以上迷惑を掛けるなら、弁護士を用意しないとならないだろう。

 スマホを取り出し、不動産と一応昔から担当して貰って居る弁護士に連絡を取ることにした。
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