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72 小林茶坊周囲で彷徨く者達3
しおりを挟むside.木村壽人
「神宮寺くんの本能は猛牛みたいな人だったのですね~」
ライモンド先輩がさも面白いものを見たと言わんばかりに口角を上げ、ニヤニヤした目で二人を見ている。
はい、二人です。
神宮寺と監視対象、名前を……まだ聞いてなかった。
「君、名前は」
一応監視対象を調査した報告書を読んだ時に名前を見たが思い出せん。確か物凄く日本人的な平凡な名前だった気がするが、まさか山田太郎とか言う名前だっただろうか。それとも一郎や次郎、始や続、まさかの終。いやいや余とかもありかも。意外性を狙って花子とか。おっと、それは女性の名前だった。
「…」
警戒しているのだろうな~。
何せご対面した際にライモンド先輩が問答無用で羽交い締めにしてから吸引式のΩ用抑制剤を接種させたから。尚、Ω用の吸引式抑制剤って高価な薬品なんだよね。それを初めて見る人に使用させるライモンド先輩ってお給料俺等より良いのだろうなぁ。
…もしかして経費で落とせるのかも知れないけども。
もしくはライモンド先輩の番(?)相手に使うつもりでコレしか携帯していないとかだったりして。…先輩ならば有り得ないこともない。
何せこの薬品、Ω用の即効性の抑制剤の中では一番高価だが、その分Ωの身体に負担が無い。
昔人体実験を繰り返していた、今国内のとあるダムレイ研究所に所属して居た研究者が作った薬品らしく身体に優しく、そして効果が高い。
数年前だか数十年前だかに無くなった研究所らしいが、今も当時の薬品が幾つか改良をされて流通している。特にΩ用の薬品に関しては他社の随所等類を見ない、いや、凌駕する。
それなのに、その研究者の名前や今居る場所、所属している研究所等は現在名前が出て来ない。
噂では国の指定された研究所で捕らわれて居るとか、ドコゾの機関に捕らわれて昼夜問わず働かせて居るとか、何処かの秘密結社で脳を弄られて働かされているとか、良くわからない噂が流れていたりするが俺にはわからない。
…だが、恐らくだけど、我が社の社長と一部の者達は知っているのでは無いかと俺は思っている。勘だけど。そうしてそれらに関しては首を突っ込んではいけない。
何せ我が社にも時折国家機密という事で何かしらの情報とそれらに関わるガードの依頼が稀に入るのだが、その中で異様に、かつ厳重に情報を厳守され、その人物に対して強固とも思えるガードを強いる場合がある。しかも政治家でもなければ著名人でも無い、資産家と言う訳でもない人物に対してだ。
…正直に言うと国の政治家、大臣達大物政治家よりもその人物達の方が厳重にガードされて居たりする。
閑話休題。
話を戻そう。
「あの」
警戒している筈の監視対象の元チンピラ……あーえーと、Ωの青年が徐々に困惑の色合いを濃くする。それはそうだろう。普段は冷静沈着な綺麗な顔付きをした青年が正面に居て、鼻息を荒くして顔面真っ赤な状態で突っ立っているのだから。
と言うかお前、神宮寺。何か喋れや。
「可愛らしい君、君の愛らしい口から名前を聞きたい。是非、君の愛に飢えているこの私に教えて貰えないだろうか」
ブフォ!
神宮寺から小恥ずかしい台詞が出て来たぁ!
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