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しおりを挟む怒涛の1日が過ぎ、あの日から日数が立って数日後。
そろそろ大型連休であるGWが近付いて来た時期。
世間が、あの事件が起こったのを忘れ去った様に、極々普通の日常が戻って来ていた。
「ウニャー。」
「杏花音ちん。滅茶苦茶可愛い!」
1年2組で、更には1年生で二名しか居ないオメガと言うことで一時期は他学年や他クラスのαが顔を見に来ていたが、此処暫くは大人しくなり、やっと安定した学園生活を送っている。
それと言うのも事件が起こり、学園生活が再開した初日に唯一の男のオメガである倉敷優樹である僕が首筋に真新しいプロテクターを装着して登校した事により、クラス中でざわめきが起こった。
次いでもう一人のオメガであり、女性である一戸杏花音も優樹が新調して登校をしてから翌日、同じく真新しいプロテクターを身に着けてから更にざわめきが起こり。
学園のα達が沈黙した……。
言っちゃ何だけど、αって結構神経質なんだなぁ~と思う。
僕の場合、皇さんがプロテクターに周囲のα相手の威嚇フェロモンを付けていたらしく、あからさまにクラスメートの男性α達が遠巻きに距離を図る様になった。
僕は気が付かなかったのだけど、一戸さんのお兄さんである京夏さんと落合先輩が、『上位αのエゲツないフェロモンが付いている。』と二人共に鳥肌を立てて居た。
それに対しΩである杏花音さんと僕はサッパリわからなかった辺り、α専用の威嚇フェロモンが付いていたらしい。(βの父親達も反応が無い。)
逆に何故かクラスの女生徒αが数名寄って来ていたりするけど、これは中学生の時からもそうだったからもしかしたら同性扱いなのかも知れない。もしくは杏花音さん効果。彼女はΩだけど、滅茶苦茶同性からモテるらしく、当人も解っている。
色々と強い女性だ。
そんな訳でこの皇さんのフェロモンとプロテクターにより、僕は『お相手候補が居る』と言う噂があっという間に広がり、下手な手出しをされずに学園で平和に過ごしている。
そしてそれは杏花音さんもあやかっており、ご当人は「新調しただけなんだけどね~。」と、気楽にカラカラと笑っている。
同じ【国からの支給品】という古いプロテクターを装着していたからと、あのお店の店員にされた(簡単にプロテクターが外れた)事柄とプロテクターの危うさについて僕が必死に伝えた為、彼女も翌日買いに行ったというわけなのだけど、彼女の場合兄の京夏さんが買って上げたらしい。
この先杏花音さんを守る事が出来ない事もありえるから、今回は『兄』に支払わせてくれと言って。
「流石ね~。」
「あかねちんのおにーちゃん、ほんとあかねちんにべったりね~。」
「大変!倉敷くんの綺麗な髪の毛にゴミが!取るね!」
…。
今僕は何故かクラスの四人の女の子αに囲まれている。その中には一戸杏花音さんも居るのだけど、先程から群がる女の子達の手を取って「ウニャウニャ」と鳴いたりしている。
勿論嫌がらせを受けているワケでも無く、むしろ彼女が自主的に行っているわけで。
普段の凛とした雰囲気とは全く違う言葉に、何となく違和感を覚える。
何故かって?それはつい先程までしていたババ抜きで一戸さんが負けて、「猫の鳴き真似」がババ抜きで負けた罰ゲームだから。
そして現在、休み時間になると何時もの光景になりつつある一戸京夏さんと落合先輩がいつの間にかちゃっかりとクラスにいて、何やら此方に背を向けてゴソゴソとやっている。
…何かをやらかしている状態の間違いかも知れない。
この二人、結構揃うとヤラカスことが多くって中々驚く事が多い。
「おーし、京夏こっちオッケー。」
「こっちもオッケー」
「「んじゃやるかー。」」
ホント、声出すタイミングまで一緒とか。
そう思って見ていたら、二人同時にくるりと此方を向いて………
「ぶ」
何やっているのですか二人共―ッ!
「よっしゃー!優樹君笑った―!」
「イエイ!」
ハイタッチをしている二人、京夏さんと落合先輩の頭には猫耳カチューシャと顔にはシールで付けた猫髭。一体何を考えているのだ、この二人は。
って、僕を笑わすため?
「いやーだって、最近優樹君笑っていないからさぁ。」
「うんうん、だから笑わせてみました!」
「え。」
そう、だったかな。
愛想笑い程度には笑っていた気がするけど。
「最近皇君登校して来ていないもんねぇ。」
こう言って落合先輩が皇さんの席の方を見る。
「来たとしても午後にはすぐ居なくなるよな。」
同じく京夏さんが皇さんの席を見て、肩を竦める。
最近皇さんは忙しいらしくて不在な事が多い。
こうも授業を休みがちにしていると、出席日数が大丈夫なのか気になるけど、それはそれで調節していると前に言っていた。つまりこの時期が特に忙しいらしい。
「とあるブランドのイメージモデルとして登用されたばかりらしくて、この時期はどうしても休まないと不味いって言っていたなぁ。」
「「「は?」」」
うん?
何だか一戸ブラザーズと落合さんが驚いた様に此方を見ている。そして側にいる女子達三人とクラスの女子達と、遠巻きにしていた男子達まで此方を注目している。
「優樹君、ちなみにブランド名は?」
「発表するまで言っちゃ駄目だって注意された。」
「極秘情報!て言うか、優樹君と皇君親密度アップー!!!」
「うん??」
何だ、何だ?
「何時発表って聞いた?」
「知っているけど、それも教えちゃ駄目って。」
「おおおお!?」
一戸さんが驚いた顔をしているけど、よく見ると周囲の女の子達も同じような気配。
逆に落合先輩がハテナマークを飛ばしている状況なのがちょっと新鮮。
京夏さんは妹の杏花音さんの影響故か、周囲の人達と同じ感じかな?割と流行りとか敏感タイプなのかも?
「マジか。皇君モデルの中でも秘密主義っぽくて、今迄正式に発表する前とかの告知とかは無い人なのに。」
「そうなの?」
「マネジメントの方針なのかも知れないけど、緊急告知はあった気がするけど、だいぶ前から予告して置いてと言うのは滅多に無いと思ったなぁ。」
「それなのに優樹君には教えちゃうってことは、マジで落としに行っているって噂は本当だったのね。」
可愛いもん、優樹君って。と言う一言はいらないと思うよ。
周囲もウンウンって頷いているけど、それはαがΩ相手に言っているだけだろうなぁ。
その後担任の田中先生が「おーい席につけー。」と言う授業開始の声が掛かるまでクラス中皇さんの話で盛り上がって居たけど、僕はその様子を耳で聞きながらも、目では皇さんの席をぼんやりと眺めていた。
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