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90 疑惑5
しおりを挟むside.一戸陽平
「は?」
いや、Ωどころかαやβ等の第二次…んんん!?
「詳しくはわからない。だが、俺は女性Ωと同じく女性Ωから唯一産まれた特殊個体らしい。」
「特殊個体?」
確かに男性Ωと女性Ωからは子供が作れる。
俺等みたいなβの男性同士の結婚も出来る世界だ。それなら、Ωの同性同士でも可能だろう。
だが、結婚は出来ても普通、子供は出来ない。
Ωの男性同士ならば出来るが、Ωの女性同士は唯一子供を孕ます事が出来ない。
そもそも生殖機能云々の前に、精子が無いと卵子だけでは子が出来ない。
勿論α男性とα男性同士でも出来ないのだが。
更に言うと、αやβにΩ等の第二次成長の兆しが現れるのは十代前半から後半が一般的だとされている。
それなのに何故。
産まれても居ないのに、胎児の時に【Ω】だとわかったのだ。
「特殊個体と云うのを知ったのも、まだ自我が無かった幼少時、実験データを取っていた何人か居た当時の研究者達が勝手に俺のことをそう言って居たからだ。最も、俺のことは大抵の研究者は『実験体No.0』やら『失敗作』と呼んでいたがな。」
「阿須那…」
阿須那の顔色を伺うと、一切の表情が抜け落ちた様な。
言うなれば「無」。
そんな状態のまま、淡々と言葉を続ける。
「人間扱いされず、子供扱いもない。そこいらのモルモットと同じ扱いだったからな。個体名も付けられて居なかったし。」
そう言い捨てると、阿須那は年齢の割には比較的大きめな目を伏せ、瞳が少しだけ振れる。
…当時のことを思い出して居るのだろう。
阿須那からは、当時のことをあまり聞かされたことが無い。
俺の両親には匿われた時にある程度自分が置かれた状況等を話したらしいのだが、水以外では食事と言う食事を殆ど取ったことが無く、摂取していたのは栄養剤やらカプセル、それに栄養ゼリーと言った品ばかり。
更には来る日も来る日も365日ほぼ休む間もなく実験、実験と繰り返されるばかりの日々。
勿論服は着たきり雀。
下着はもしかしたら付けていなかったかも知れない。
物心ついた時から風呂になど俺の両親に保護されるまで入ったことは無かったらしく、俺の母親がお風呂に入れた時には激しく抵抗して苦労していたのを今でも覚えている。
どうりで俺の記憶の中にある、出会った当初の記憶の中の阿須那は幼児特有のぷくぷくした体型では無く、幼児なのに枝毛だらけの伸び放題だった髪。
…枯れ果てた小枝の様に、肢体が異様に細かったと言う記憶な筈だ。
それまで栄養補給系の製品しか飲んだことも食べたことも無く、俺の両親が保護した時に与えた食事も最初は喉を通らず。いや、正確に言うと食事と概念そのものが無かったし、知らなかった。
どれだけ歪な所研究所だったのだ…。
そうして、当時出会った研究所内の研究者らしき白衣を年中着ていた人々は、皆顔付きや体格は違えども似たような真っ白い肌に青白い顔付きをし、目の下には真っ黒な隈を作り、阿須那と同じ様に体中の肉という肉が削げ落ちた様な異様な姿をしていた。
幽鬼の類いというのは正しく彼等、研究者達のことを表す言葉だと断言出来るぐらいに。
『まともな食事等摂取して居なかったのだろうな。おまけに滅多に外にも出ていない、不健康な生活を送っていたのだろう。髪や頬がパサついていて、肌の色も真っ白。歩き方も歪。骨付きも体幹も崩れて居るものばかりだ。』
昔、親父が見ていた報道番組で、研究所が閉鎖され、非人道的な研究ばかりを繰り返していた研究者達が逮捕されていく。そんなニュースを見ながら、親父が呟いていたことを思い出す。
「元々、亜藥村の研究所は【俺】を作り出す為に出来た研究所だった。」
「え」
「研究所に務めている他の研究員達の目的は違うし、知らなかったらしいが、研究所の所長だけは目的が違っていたって言うやつさ。」
阿須那は其処で一旦自身を落ち着ける為か、それとも何か思惑があるのか。視線をうろうろと彷徨わせ、大きく深呼吸を一つ。
「所長は、亡くなった元恋人との【Ω】の子供が欲しかった。だが元恋人は自身と同じΩの女性。子が出来るには長い研究と大量のデータに資金が居る。その確保の為と言う目的であの研究所を建てた。」
とは言え資金提出させるためには非人道的な事柄もしなければならない。
何せ当時の事件で明るみになって居た事柄だが、大手の薬品会社系列が研究所の背後に居たらしく研究所が仕出かした事柄は発覚するまで隠蔽していたのだから。
「で、だ。研究所の所長は【俺】を、亡くなった恋人との子供を作ったから目的は達成した。それと同時に、【俺】は珍しい『胎児の状態でのΩ』。所長意外の研究者達には格好の餌、いや実験体となった。」
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