ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか

柚ノ木 碧/柚木 彗

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91 疑惑6

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 side.一戸陽平


「―…実験体」


 阿須那になんてことをー…。
 怒って叫んでしまいそうになる己の心を止める。
 今叫んでも、怒っても、目の前にいる阿須那に言っても意味は無いだろう。
 それよりもと、寒いわけでもないのに阿須那の少しだけ震えている手を俺の両手で握り締める。
 少しでも阿須那の心を守れますようにと願いを込めて。


「そう、実験体。何せ胎児の時からΩなんて検査結果が出た珍しい個体。更には女性の体内で育っているわけではない、透明な培養カプセルの中で視覚的に見られる胎児。生まれ出て居ないし、研究所内部にしか知られていない胎児。しかもモラルも何も無い状態の実験オタク、いや常軌を逸した研究所の人間達にとって、好都合の実験体さ。」


 Ωであるバース性。
 その元となるΩ性をある程度大きくなった胎児から引っこ抜いたらどうなると思う?


「な…」

「だから【俺】は『失敗作』なんだよ。Ωのなり損ないと言われていたのに、何てことはない。狂った研究者達に胎児の状態で俺のΩ性を取られたってワケだ。」


 自分達が失敗作にした癖に、言い得て妙なものだよな。
 そう呟く阿須那はまるで他人事のように言葉を綴る。


「所長は、阿須那の血縁上の親である人はそんな状態なのに何もしなかったのか?」


 親と言っても阿須那の今の表情を見れば何となくではあるが予想がつく。
 恐らく阿須那も、血縁関係がある筈の元所長も、『血縁関係ではあるが、ただそれだけ』としか思って居ないのでは無いだろうか。
 少なくとも隠していたとはいえ、今迄阿須那からその様な話をして来たことが無かった。
 以前一度だけ、阿須那と結婚する時に両親のことを聞こうと思ってはいた。
 いたが、何せ阿須那過去…特殊な環境を知っている。
 ならば両親はあの亜藥村の研究者の誰かでは無いだろうかと思い、あえて聞かなかった。

 戸籍謄本を見ればわかるかと思って。
 ただ国家機密情報とのことで塗りつぶされており、片方の親の名前だけしかわからなかったし、書かれていた名前を見ても誰だかわからなかったのだが……。


「するわけ無い。あの人にとってはこの世に亡くなった元恋人の血と自身の血が合わさった『俺』をこの世に生み出すと言う目的は達した。ただ、それだけだった。…母親なんて言う役目は、あの所長には出来ないからな。だから他の研究に身を入れてしまい、目を離してしまった隙に胎児だった俺のオメガ因子は抜き取られた。…他のαの研究者達にとって良い玩具になるとは考えていなかったって言うわけだ。」


 そこでふっと口角を上げて笑みを作り上げた阿須那に違和感を覚えた。


「だからまぁ、まさか当時の俺から抜き取ったオメガ因子で、先日学園側で起こった事件の禁止薬物。その厄介な薬を作ってしまうとは思わなかった。」


 今にも泣きそうな顔をくしゃりと歪め、俯く。


「あの時の、禁止薬物…」

「ああ、もうとっくの昔に無くなったと思っていたよ。あのΩを強制的に発情を促し、αを誘発する禁止薬物。あの原材料はΩの胎児からでしか摂取できない。もしくは俺がΩだった時のΩ因子でしか出来ない。」


 今はΩ因子を抜かれてβだからもう二度と出来ないと思っていた。


「随分と匂いが『薄く』なっていた気がしたが、まだ残っているのか。それとも何らかの方法で似たような俺と同じ『胎児の状態のΩ』を生み出したのか…。」

「阿須那、生みの親の研究者がもう一度産ませたと言う訳では無いのか?」

「わからない。けど、恐らく無理だと思う。何せ亡くなった元恋人の卵子は俺が最後だったと聞いている」


 嘘でも無ければ、更には元恋人の卵子の複製が出来たのならわからないけれど、恐らく無理だろう。
 俺を作り出した当時、あの研究所には最新の設備等無かったし、そもそも『俺』が出来たのさえ実験を繰り返した為に出来た、一種のミスみたいなものらしいし。

 そう小さく呟き、阿須那は俺の胸元に軽くすり寄って来た。


「ただ、さ。」

「ん?」

「気になっていたいたんだ。」


 何を?とは言わず、黙って阿須那の背に腕を回して抱き込む。


「ゆう(元嫁)と離婚した直後、大事に取っていた優樹のへその緒が無くなっていた。」


 もしかしてー…。
 へその緒に俺のΩとしてのバース性があったのかもな。

 阿須那の言葉に、俺は妙に胸騒ぎが起きるのを抑える事が出来なかった。
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