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しおりを挟むside.皇 恭介
キャンピングカーにて、慣れた手付きで次々と調理していく優樹にどう話しかけようとか、謝ろうとか色々考え、無意識のうちにオロオロとしてしまう。
我ながら情けない。
本気で探して見つけ出した運命の番。
奇跡とも言える一瞬だけの出会いは、数年前の出来事。
それからずっと、長い間想いを募らせて居た相手をやっと見付け、思いが通じ合ったと思ったら、まさかの己の失態。
「優樹っち~」
此方がオロオロとしていると、京夏がチラチラと此方を見てから困惑した状態で優樹を見る。
その手はぎこちないながらもジャガイモの皮を剥いており…皮にだいぶ身が付いていて分厚い。
「こんなんで大丈夫?」
自分でもわかっているのだろう、身が殆ど無いことを。
因みに私は料理を手伝うことは高峰によって【NG】を食らった。
曰く、仕事に差し障るので包丁を持つことは駄目だそうだ。
…お陰でこうして見守ることしか出来ない。
「ん~皮むき器使おうか」
どうでも良いが、このキャンピングカーには無駄に調理器具が積まれている。何故無駄かというと、先程高峰によって言われたように私は料理禁止を食らっているし、高峰はダークマター製造機なので料理なんて論外。一度折角の調理器具が勿体無いと言い、何かしら作ろうとしたらしいが結果は真っ黒な異様な異臭を放つ不気味な物体が皿の上に鎮座した。
尚、色が黒と書いたが所々赤黒かったのは何故だろうか。
そうして、その物体は素直に生ゴミへと速攻で捨てられた。
「もう二度と作りません」
と言う宣言付きで。
因みに高峰はオムレツを作ろうとしたらしいが、妙な魔改造を加えたらしくトマトとチーズと生臭いナニカの異臭がした。更には近寄ると目から涙が流れた。
一体何を加えたのだ…。
台所には何故か牛乳と黒ニンニクに半分に切られ、炒めたのか変色し炭化した黒いトマトだった物。そうしてオムレツに使うのかどうか知らないが、各種の香辛料の瓶。トドメには唐辛子にラー油。
他にも怪しいのがあったが、これは既にオムレツではない。
草みたいな物もあった。
料理の枠も越えているかも知れない。
そんなこんなで昔の事柄を思い出していると、慣れてきたのか京夏は次々とジャガイモの皮を剥き、時折怖い言葉を言い出している。いや、歌か?替え歌のような気がするが、音程から知っている歌では無い気がする。
なお歌詞は「落合先輩のブツを剥いて~」で、ある。
何故か股間がヒュンとした。
皮むき器を手にしながらうきうきと歌う言葉では無いと言いたい。
高峰も気がついたら車内から居なくなっていた。
距離を取りたくなったのでは無いだろうか。
そうして優樹も微妙な気分に陥ったのか、京夏から僅かながら距離を取っている。
だがしかし、
「京夏、俺のモノを剥くのかい?」
落合先輩だけは何時ものことだと言う風に、何事もなかったかのような顔。
慣れているな。
そうして外から「ブハッ」と言う声。外を見ると咳き込む高峰が車外に居た。喫茶ロインのコーヒーカップを手に持って。
「剥いていいなら?」
「うん、皮むき器手に持ちながら言うのはヤメようか」
「え~」
「怖いからね?」
「そーうー?」
「少なくとも倉敷が距離あけたからね?」
「え~?優樹っち、怖い?」
其処で優樹に意見を聞こうとするのでは無い。
そう言って遠ざけようとしたら、
「…恭介さんの剥こうかな」
そう聞こえた声に、慌てでその場で形振り構わず謝り倒した。
高峰、おい。
車外で大爆笑している声が聞こえるぞ。
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