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5章 今日も周囲も人間関係もゴタゴタしていますが、国内の紛争やら暗殺やらで物騒な最中、恋人が出来て戸惑いつつも鑑賞致します。

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 saido.バーネット

 ガコンッ 
 ドカドカカッ 
 ガココーンッ


「…この音は」

「聞かないで下さい」

 シレッと無視を決め込む目の前の男。
 何時の間にかこの部屋、サザーンド家の執務室に居て報告書の束、いや山?を一人で抱えて私の執務用の机の上に「どっこらしょ」と呟いて乗せた。
 途端、ギシリと音が鳴り、机が僅かに凹む。
 結構重いのでは無いだろうか。
 と言うかこれ、私が執務をしろと……あ、ヤバイ天井が見えない。気が付いたら更に山が左右に増えた。そして後ろにも。
 あはは…今日中は無理だな、徹夜だこれは。

 その最中にも、ドカーンとかヴァキキとか奇妙な音が響き、時折「ぎょええ」「びぇええー!おがあちゃああああん!」とか、「いやあぁぁぁ~!」とか言う人の声まで混じるのは何故なのか。
 更には、

 ドゴゴゴゴンッ!!

 と言う爆音が鳴り響き、部屋全体が揺れた。

「地震か!?」

「いえ、お気になさらず」

「お気になさらず、って無理だろう!?」

「此処で話すようなことでは無いので」

「「無いので」ってグラシア!」

 そう、私の横に居るのはニキ・モイスト専属の執事。とは言え王都のタウンハウスに居る間、アルビオン様の執務の手伝いをして居ると聞いたことがある。
 …問答無用でやらされている様な気がするけどな、あのアルビオン様だし。
 心の中で失礼な物言いだがと断りつつ、自身の婚約者の年の離れた兄に対し、「肉体言語でモノを言う風体の騎士団長様だからなぁ」と愚痴る。

 その最中、ふと気になって周囲を軽く見渡し私付きの執事は部屋前で手渡された書類の山と格闘して居る筈と確認する。今は山になった書類のせいで姿が見えないが、一枚一枚書類を見て仕分けしている音がするので仕事をしているのだろう。

「ではあえて言いましょう。只今の物音はジーニアス・アルセーヌ・ガルニエ様が【周囲の壊しても良い品】もしくは此度のイザコザにて、【既に壊された品】を豪快に破壊し、捕まえた捕虜共の目の前で破壊の限りを尽くして居る所で御座います」

「破壊って…」

「何せジーニアス・アルセーヌ・ガルニエ様は大事にしている妹君を拉致され、非常に、ええ、とても嘆き悲しんでおります。声を押し殺してですね。凄いですよ、鬼の形相と言うのでしょうか、流石【鬼神】の異名を得た方ですね。私さえ恐ろしいと思いましたよ、何せ下心有りの女性が側に行こうとするとギン!と空気が一変して冷気や殺気が立ち込め、更には畏怖せんばかりの威圧を感じますので。ええ、とても恐ろしいですよ。私でさえ側に寄るのは控えましたので。下心ありの女性は咄嗟に逃げ出したので懸命な判断でした。何せ下手すると周囲の建物ごと破壊し、今も高威圧を込めて八つ当たりをすべく瓦礫の後始末と言う名のストレス発散をし、そのまま自白させようとしている捕虜が尋問を受けている部屋の側に行き、捕虜まで破壊しそうな程に威圧を掛けておりますので」

「……」

「お陰で尋問が捗ると喜んでおりましたよ。所がですね、此方の領地に居る尋問官殿ですが、意識が急に途切れてぶっ倒れてしまいまして、仕方がないので代理でコリン様が尋問しております。彼には後程労って下さいね?」

「ははは…」

「まぁ、コリン様は「ジーニアス様、お可哀そうに…目がイッてらっしゃる…」と涙ながらに嘆いておりましたが」

「あ、うん」

 イッテルって何だ。文字にして逝っているという感じか?
 私ももしモニカが拉致されたら、相手をボコボコにしてから容赦無く●●をしてから、●●●して、拷●●にかけて、更に…(放送事故案件多々の発言のため、以降カット)。

 我ながら容赦ないよな。

「さて、この書類の束ですが」

「あ、ハイ」

 グラシアが運んで来てから既に数名の男性が扉から出入りしており、其の度に書類の束が部屋に運ばれて来る。
 と言うか既に束では無いからな?
 山だからな。
 イヤもう山脈かも知れない、しかも自身は山脈に囲まれて天辺どころか景色さえ見えないという仕打ち。部屋の入り口のドアは、壁紙は何処に消えた。

「グラシアは此処の執務室を埋め尽くす気では無いだろうな?」

 嫌味か?と言うぐらいに…天井が見えないどころか、私の両脇に隙間が無くなって来ている気がする。気のせいか部屋の中が何だか息苦しい。空気が薄いのか…?窓を開けたくても窓辺までが遠い、いや窓が見えない。
 このままだとまさか、窒息はしないよな?

「ははは、何を言っております。貴方様なら一週間で出来ますでしょう?貫徹で」

「貫徹決定なのかよ!」

「寧ろ貫徹押しです。それ以外ありえません」

「おぃぃぃ!」

「何せ私の主人であるアルビオン様の唯一の跡取り息子、更には私が専属で担当して居る大事なニキ様に傷を負わせ、更に!ニキ様と恋人になったばかりのレッティーナ嬢が誘拐された」

「ぐぅぅっ」

 グウの音が出ないとは正にこの事だ。
 今似たような言葉が出たが、気の所為ってことで一つ宜しく頼むな…。
 …誰に言っているのだというツッコミを己に入れつつ、目の前のグラシアを軽く睨む。最もこの男には役に立たないという事は百も承知だが、私にもプライドと言うものがある。あっても今は役に立たないが。

「この失態のツケは高いですよ」

「だがな」

「私とて」と告げようとした途端、無残にもグラシアの言葉に遮られる。オカシイ。爵位は私の方が上なのに、目の前の執事服を身に纏った男に畏怖を感じてしまう。
 如何せん幼い時から顔馴染みで、尚且悪戯等をするものなら速攻で叩きのめされた過去があるせいか、どうしても強気に慣れない。
 モニカに幼少時から懸想をして居たから彼女の気を惹きたくて、だが子供だったせいかどうしてもやり方がわからず、無駄にモニカの目の前で右往左往して通行の邪魔になってしまい…とか。更には上手く思いを伝えたくて手紙を無駄に数十通も一度に送った際にはハッキリと抉る言葉と共に叱咤された時のコトを思い出してしまう。
 幼かったとは言え、過去の黒歴史と言う奴だ。
 今思い出しても恥ずかしい………。

「だがな、とその後続ける言い訳も私には意味も何もありませんし、効果は無いですよ?」

 強気な口調で言い切ったグラシアに項垂れる。
 と言うか、他領の執事がと言いかけたが無駄だと判断して止めた。
 先程も述べたが幼い時から染み付いてしまったせいか、昔からこのグラシアに口でも戦闘能力でも勝てたコトは無い。
 だがせめてと、少しばかりの反発を言い返す。

「言っとくけどな、お前の主の父親であるアルビオン様もこの領地に居たからな」

 我ながらとても小さな反発だ。
 未だに幼い子供の様な気分になってしまう。

「ええ十分わかっております。我が主人にも同様の罰は与えていますので」

「主に与えて居るのかよ」

 オイと言いたくなったがグラシアは相変わらずキツイ眼差しを此方に向けており、言い返す気が起きない。

「ええ、当たり前です。それと事後報告ですが客間を一室お借りしておりますが、文句はありませんよね?」

「ああ、と言うか…」

 事後報告かいと呆れると、シレッとした涼しい顔付きで居るグラシアにこれだけは告げておく。

「モニカには何もしていないだろうな?」

「モニカ様は怪我人であり、被害者ですので」

 そうか、良かったとホッとして居ると、

「身代わりにアルビオン様には暫くの間サボっていた分の書類全て持参しておりますので、此度の件と此処へ到着する間に出来た事案と、更には今後の件も交えて全て書類にして山積みにしておきましたので。このままでは客間から退出するのは早くても6日、遅くて10日でしょうか」

「……せめて最低限の睡眠位取らせろよ」

「3日に4時間程ならまぁ」

「おぃぃいいっ」

 それ最低限違うぅぅぅう~!人間扱いしてねぇしっ!極悪非道というモノだ~!

「大丈夫です。アルビオン様も【一応】まだまだお若いですし」

「【一応】とか付けるぐらいの無茶を言うな」

「おや、まだ私はお優しいものですよ?」

「何処が」

 いや、本当に何処が。
 最低限一日に4時間以上の睡眠を取らせろよ。そうでないとひっくり返るぜ?まともな判断も出来なくなり、意識が飛んで朦朧としてからぷっつりと急に暗点し、気が付いたら何日か寝込んでしまうぜ?人間消耗しすぎると勝手にぶっ倒れるからな?病になるからな?

 私はハッキリと言い切れるからな?
 何せ身を持って実践させられたからな、目の前のグラシアに。

「【鬼神】様に殺気を飛ばされ、地獄の釜で茹で上がる程壮絶な威圧を受け、更には凄まれて何度も意識を飛ばしたと思った次の瞬間更に威圧で無理矢理意識を取り戻し、また意識を飛ばすと言う素晴らしい拷問受けるよりはかなり軽いですし、宜しいのでは無いでしょうか?」

「その捕虜に同情するよ………」

「はは、まぁ此方はかなりマシですので」

 それはそうだろう。一体どんな拷問なのだ、ガルニエ殿…。

「それはそうとバーネット様。国王より書状を預かっておりまして」

「もっと早く渡さないか!?」

 一応一国の国王の書状だぞ。真っ先に寄越さないと不味いだろう!?

「はははは、何、ホンのちょっと酸味を効かせたお茶目な嫌がらせですから。と言うか此方の領地に無理矢理【国王】直々に無理矢理私を寄越した嫌がらせですから。沢山の仕事があると言うのに、あのクソ国王め」

「オイ。幾ら此処は私の腹心しか居ないとは言え、その言葉は不敬だぞ」

 流石に肝が冷えるぅぅ!

「私、過去も現在も、そして恐らく未来までも憎き【国王】様には色々と含むものが御座いますので」

 スッと目を細めるグラシア。
 その顔は「アイツ嫌い」とハッキリと浮き彫りになっている。国王相手にそれで良いのかよ…。

「騎士団長の執事がソレで良いのかよ」

「フン。大方アチラも同じ様な意見でしょう。認めたく有りませんが同族嫌悪です。更に言うと私はこの国の騎士団長であるアルビオン様専属ではなく、御子息で一人息子であるニキ様専属ですので」

 キッパリと言い切ったその顔は何処か誇らしげだ。
 アルビオン様、何気無くグラシアに嫌われていないか?もしかして普段から面倒な仕事押し付けていないか?って、確実にやってそうだよなぁ、あの人は。

「お前ら過去に何があったのだ?」

「何も?ただ、学園当時同じ学年にあの【国王】が在籍して居たということです」

「ん?待て。同じ年齢だったか?」

「アルビオン様が、ですよ。私はアルビオン様付きで一緒に通いましたので。とは言えこの糞餓鬼共は授業を何度も抜け出すわ、腹減ったと言って人のおやつは食い荒らすわ、自身でやりたくないからと何度も宿題をやらそうとするわ、日直を押し付けて来ようとするわ。挙句の果てには自身のヘタレぶりを遺憾なく発揮し、意中の令嬢に恋文を自分では出せないからと私に押し付けて来る有様。お陰で何度も勘違いされて迷惑掛けまくられました。全く、あれから何十年も経っているというのに、ガキの頃から一つも変わっていませんね」

 成程、それはアルビオン様もグラシアに頭が普段から上がらないワケだ。

「色々初耳で驚いたよ」

「当たり前です。少なくとも一国の王とその騎士団長の過去ですからね、身内になるモノにしか話しませんよ」

 え~と、それって…。

「少なくとも今後、厄介な国王と騎士団長のお二人の尻拭いに加担される嵌めになると思いますが、くれぐれも負けないように気負って下さい」

 oh…マジか。なんてこったい……。

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