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閑話 この気持ちは何?

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『ごめんなさい。あなたをそんな風に産んでしまって・・・本当にごめんなさい・・・』

記憶の中にあるお母様はいつも私にそう言っていた。生まれつき体が弱くて、少し頑張るとすぐに倒れてしまう。そして皆がお父様やお義母様のような綺麗な髪と目で産まれてくるのに対して私は真っ白な髪と不気味な紅色の瞳で生まれてきたのだ。

それがアルビノと呼ばれるもので・・・自分が忌み子だと知るのにそう時間はかからなかった。

使用人は皆私に冷たくて、お母様が死んでからは私には味方はいなかった。お父様は私に困った笑みしか向けないし、お義母様達も私が鬱陶しいのだろう。

『泣くのはね。好きな人の前だけなの』

昔、仲の良かった侍女がそんなことを言っていた。その人の言葉は何故かずっと覚えていてお母様が亡くなった時も私は泣かなかった。どんなに辛くても我慢してきた。だって私が忌み子なのがいけないから。

8歳になってから少しした頃だった。こっそり抜け出した先で侍女が”賢者”がお義兄様やお義姉様に魔法を教えに来ていると話しているのを偶然聞いた。

魔法について私はどうしても気になってその部屋に行ってみると・・・そこには優しそうなお爺さんがいた。

きっとあの人が”賢者”なのだろうと思っていると不意にその人はこちらを見て言った。

「そんなところにいないで入ってきたらどうですか?」

ビクンと驚いて思わず1度隠れてしまってから顔を半分だけ出して様子を伺うとその人は優しく手招きをしていて言った。

「大丈夫。怖くない怖くない」

その言葉と初めての向けられた優しい笑みに私は恐る恐る出ていった。目線を合わせて屈んでから怒られるかお父様達に報告されるかもと怖くてビクビクしているとその人は変わらぬトーンで聞いてきた。

「名前はなんていうのかな?」
「・・・エミリア」
「そう。どうして中を見ていたの?」
「・・・魔法を教わりたくて・・・でも、勝手に部屋を出たら怒られるから・・・」

その言葉にその人は少しだけ考えてから再度聞いてきた。

「お母さんの名前はわかる?」
「・・・ニーニャ」

もしかしてこの人にも私は迷惑をかけてしまってるんじゃないだろうか?このことがバレたらまた私は怒られる。だから思わず口に出していた。

「・・・ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「私・・・皆に迷惑かけてるから」
「誰かにそう言われたの?」
「・・・他のお義母様と侍女に」

わかってる。私が悪いんだ。私が忌み子だからと泣くのを我慢するとその人は優しく私の頭を撫でから言った。

「君は悪くないよ。私でよければ君に魔法を教えてあげよう」
「本当に?」
「ああ。だから・・・そんなに我慢しなくていいんだよ?君はまだ子供なんだから、泣きたいなら泣いていい。1人が寂しいなら私が君の側にいてあげよう」

内心を見透かしたような優しい言葉。初めてのことに私は知らないうちに涙を流していた。止めようとしても溢れ出てくる涙を見てその人は私を優しく抱きしめてくれた。お母様以外の初めての温もり。私は泣きつかれるまでその人の胸の中で泣いしまったのだった。



その後、その人は何故か私の部屋を探り当てて送ってくれたけど・・・私はどうしてもその人のことが気になって後を付けていた。

「そうか・・・あれに会ったのか・・・」

お父様がいた。久しぶりに見たお父様はやっぱり困ったような表情をしていた。

「知っての通りあれは特異でな。本当なら忌み子として処分するしかなかったのだが・・・私がいけないのだろうな。我が子をそのようには出来ず中途半端に情けをかけた結果がこの通りだ」

・・・やっぱり、私は皆に迷惑をかけてるんだ。私がいるから皆が困る。思わずぎゅっと服の袖を掴むとあの人はお父様に聞いた。

「陛下は今後あの子の将来をどうお考えですか?」
「・・・わからないというのが素直な言葉だ。忌み子のあの子はどこに出ても迫害を受けるだろう。このまま王族の影として日陰で過ごすのが1番かもしれないな」
「そうですか。ではあの子を預かってもよろしいでしょうか?」
「なに?」

お父様と同じく私もその言葉にびっくりしていた。今なんて・・・

「正気かグロ爺?あの子は忌み子だぞ?」
「そんなもの私達老害が勝手に決めたものです。子供達には関係ありません。それにエミリアはエミリアです。この世界にたった1人の女の子です。泣いてる子供を守るのは大人の責務です。ここにいても苦しいのならあの子は私が育てます」

そんなこと初めて言われた・・・どうしよう。なんだか顔が熱い・・・私、どうしてこんな・・・

「病弱な上に忌み子だ。間違いなく厄介だぞ。それでもいいのか?」
「陛下があの子のことを本気で心配して幸せにしたいなら私は出しゃばりません。でも陛下は・・・」
「・・・ああ。私はあの子を苦しめることしか出来ないだろうな」
「であれば、1度私が引き取ります。時々親として会って欲しいですが・・・とにかく、あの子がもし仮に私の元に来てもいいと言ったならその許可を貰いたいのです」

その言葉にお父様はしばらくしてから頷いて言った。

「あい、分かった。あれのことは貴公に任せた」
「ありがとうございます」
「それにしても・・・貴公がこうまでお節介だとは知らなかったぞ」
「自分でもびっくりです」

そうしてその人は部屋を出ていったけど・・・私はなんだか物凄くふわふわしたような気持ちになっていた。さっきのあの人の温もりがまだ残ってるみたいにポカポカしていた。

「さて・・・隠れてないで出てきたらどうだ?」

私がいるのをわかっていたのかお父様がそんなことを言う。私は怒られる覚悟で少しだけ顔を出していた。

「久しぶりだなエミリア。元気だったか?」
「・・・(びくっ)」
 
いつも通りの困ったような笑み。それが怖くて1度隠れてから顔を出すとお父様はその笑みで言った。

「熱烈な告白だったからな。忌み子のお前のことを本気で心配していた。お前がグロ爺に惚れたとしても私は構わないと思っている。だから・・・行ってくるといい」
「・・・(ぺこり)」

軽く頭を下げてから私は歩き出す。惚れたって・・・この感覚のことなのかな?でもでも、あの人と私じゃ歳の差あるし、でもでも、私あの人の前で泣いちゃったし、はぅ・・・

それが私がグローリー様を意識した切っ掛けだと思う。私みたいな忌み子のためにここまでしてくれたグローリー様が私にとって最も大切な存在になったのもきっとこの時だと思う。そんな風にして私はグローリー様の元に行くことになるのだった。

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