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13-1 誰にも変えられない存在
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「……り…………せり…………世利」
暗闇の中、俺を呼ぶ声が聞こえた。
まだ眠っていたいのに、何度もしつこく名前を呼ばれる。
その声を頼りに、俺は重たい瞼をようやく開けた。
目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
ベッドに寝て、しっかりパジャマも着ている。
──あれ、俺どうやって戻ってきたんだっけ
「世利、起きろ」
「ゆうせ……」
声の方に顔を傾けると、ベッドの横に座り心配そうに俺を覗き込む優成がいた。
──あ、そうだ。俺、優成と話をしたくて……
真っ先に思い出したのは、そのことだった。
けれど、優成の顔を見ているうちに、徐々にさっきまでの記憶が蘇ってきた。
「あ!俺、吐いちゃったんだ……」
「大丈夫、もう片付けたから」
優成は優しく声をかけながら、俺の前髪を撫でるように指先で触れた。
指がおでこをかすめるたび、俺の心臓が大きく跳ねる。
「体調は?気持ち悪くない?」
優成に至近距離で囁かれ、俺はどうしたらいいかわからず体をモゾモゾと動かした。
顔を覗かれているのも少し恥ずかしくて、布団を口元まで引っ張り上げる。
「気持ち悪くはないけど、頭がちょっと痛い」
俺がそう言うと、優成はテーブルの上のコップを差し出した。
「水飲めるか?」
「うん」
俺は起き上がり、手渡されたコップに口をつけた。
冷たい水が喉を流れ落ちていく。
あまりに優しい優成の視線に、顔が勝手に熱くなるのがわかった。
俺は胸の高鳴りを隠したくて、優成に話しかけた。
「今、何時?」
「もうすぐ夜中の12時」
俺の手からコップを受け取り、優成が答える。
時計を見ると確かにもう真夜中だった。
こんな時間まで俺の後始末をしてくれてたんだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「吐いちゃってごめん」
「だから、大丈夫だって」
さっきと違う服を着てる優成を見れば、大丈夫だったとは思えない。
「俺の着替えとかも……ごめん」
「重かったけどな。まぁ、いいって」
きっと、汚れた服も洗ってくれたんだろう。
そして俺は最後に一番謝りたかったことを告げた。
「LINEの返信しなくて、ごめん」
「…………」
優成は一度目を大きく開き、そしてゆっくりと視線を床に下ろした。
俺もつられて視線を下ろし、自分の拳を見つめる。
思ったより強く握っていたのか、手を開くとビリビリと痺れていた。
俺たちは何も喋らず、少しの間お互いの出方をうかがっていた。
沈黙が空気を支配し、うるさいのは俺の心臓の音だけだ。
しばらくそうしていると、ようやく優成がポツリと言葉を落とした。
「……連絡は無視しないで欲しい」
俺はすぐに頷いた。
「わかった、もうしない」
すると優成は、俯いたまま自信なさげに俺に声をかける。
「世利が連絡くれなかったのって、俺が塩野さんに嫉妬したから?」
──え?
俺は、予想もしてなかった言葉に驚いた。
そして、俺の気持ちを置いてけぼりにして優成は続けた。
「彼氏でもない俺が言える立場じゃなかったって、頭ではわかってるんだ……。
それでも、俺じゃない誰かにあんなかわいい顔……見せないでほしい」
そう告げる優成の声は、とても苦しそうだった。
それほどまでに俺のことが好きなんだと、優成の思いが胸に突き刺さった。
俺は一度目をつむり、一つ息を吐いた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「優成、俺ね……」
俺が話し始めると、優成は俯いていた顔を上げ、不安げに視線を向けた。
「昨日、優成に『誰にでもあんな顔すんの?』って言われて、初めて優成に距離を取られて……すごく、悲しかったんだ」
「ごめん……」
俺の言葉に、優成は焦ったように謝った。
しかし俺は優成と視線を合わせて、小さく首を降った。
「違うんだ、優成を責めてるんじゃなくて……。
俺、優成を悲しませたことにショックを受けたんだ。
今まで隣に優成がいるのが当たり前すぎて、少し離れただけで、心に……ぽっかり穴が空いたみたいだったんだ」
俺は、胸に手を当ててあのときの気持ちを思い出していた。
あの日、俺から離れていく優成の悲しそうな背中が、今でも忘れられない。
──優成に悲しい思いさせたくない。
──いつも隣にいてほしい。
「俺にとって優成は、誰にも変えられない存在なんだって気づいたんだ」
「世利……それって……」
優成は少し困惑しながらも、どこか期待しているような顔で俺を見つめていた。
優成が聞きたいことはわかっていたけど、俺はそれを遮るように話を続けた。
「それと優成、もう一つ聞いてほしい話がある」
「なに?」
「昨日、レイチェルと話をしたんだ」
「………………は?レイチェル?」
俺の告げた内容に、優成は目を丸くして驚いていた。
まさか、ここでレイチェルの名前が出てくるとは、思ってもみなかったんだろう。
「それがLINEの返信をしなかった、理由のひとつなんだけど……」
「世利……それは、どういう…………え?」
明らかに混乱している優成に、俺は少し息を吸ってから、ゆっくりと告げた。
「……とにかく、俺のちんこ元に戻せるんだ」
暗闇の中、俺を呼ぶ声が聞こえた。
まだ眠っていたいのに、何度もしつこく名前を呼ばれる。
その声を頼りに、俺は重たい瞼をようやく開けた。
目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
ベッドに寝て、しっかりパジャマも着ている。
──あれ、俺どうやって戻ってきたんだっけ
「世利、起きろ」
「ゆうせ……」
声の方に顔を傾けると、ベッドの横に座り心配そうに俺を覗き込む優成がいた。
──あ、そうだ。俺、優成と話をしたくて……
真っ先に思い出したのは、そのことだった。
けれど、優成の顔を見ているうちに、徐々にさっきまでの記憶が蘇ってきた。
「あ!俺、吐いちゃったんだ……」
「大丈夫、もう片付けたから」
優成は優しく声をかけながら、俺の前髪を撫でるように指先で触れた。
指がおでこをかすめるたび、俺の心臓が大きく跳ねる。
「体調は?気持ち悪くない?」
優成に至近距離で囁かれ、俺はどうしたらいいかわからず体をモゾモゾと動かした。
顔を覗かれているのも少し恥ずかしくて、布団を口元まで引っ張り上げる。
「気持ち悪くはないけど、頭がちょっと痛い」
俺がそう言うと、優成はテーブルの上のコップを差し出した。
「水飲めるか?」
「うん」
俺は起き上がり、手渡されたコップに口をつけた。
冷たい水が喉を流れ落ちていく。
あまりに優しい優成の視線に、顔が勝手に熱くなるのがわかった。
俺は胸の高鳴りを隠したくて、優成に話しかけた。
「今、何時?」
「もうすぐ夜中の12時」
俺の手からコップを受け取り、優成が答える。
時計を見ると確かにもう真夜中だった。
こんな時間まで俺の後始末をしてくれてたんだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「吐いちゃってごめん」
「だから、大丈夫だって」
さっきと違う服を着てる優成を見れば、大丈夫だったとは思えない。
「俺の着替えとかも……ごめん」
「重かったけどな。まぁ、いいって」
きっと、汚れた服も洗ってくれたんだろう。
そして俺は最後に一番謝りたかったことを告げた。
「LINEの返信しなくて、ごめん」
「…………」
優成は一度目を大きく開き、そしてゆっくりと視線を床に下ろした。
俺もつられて視線を下ろし、自分の拳を見つめる。
思ったより強く握っていたのか、手を開くとビリビリと痺れていた。
俺たちは何も喋らず、少しの間お互いの出方をうかがっていた。
沈黙が空気を支配し、うるさいのは俺の心臓の音だけだ。
しばらくそうしていると、ようやく優成がポツリと言葉を落とした。
「……連絡は無視しないで欲しい」
俺はすぐに頷いた。
「わかった、もうしない」
すると優成は、俯いたまま自信なさげに俺に声をかける。
「世利が連絡くれなかったのって、俺が塩野さんに嫉妬したから?」
──え?
俺は、予想もしてなかった言葉に驚いた。
そして、俺の気持ちを置いてけぼりにして優成は続けた。
「彼氏でもない俺が言える立場じゃなかったって、頭ではわかってるんだ……。
それでも、俺じゃない誰かにあんなかわいい顔……見せないでほしい」
そう告げる優成の声は、とても苦しそうだった。
それほどまでに俺のことが好きなんだと、優成の思いが胸に突き刺さった。
俺は一度目をつむり、一つ息を吐いた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「優成、俺ね……」
俺が話し始めると、優成は俯いていた顔を上げ、不安げに視線を向けた。
「昨日、優成に『誰にでもあんな顔すんの?』って言われて、初めて優成に距離を取られて……すごく、悲しかったんだ」
「ごめん……」
俺の言葉に、優成は焦ったように謝った。
しかし俺は優成と視線を合わせて、小さく首を降った。
「違うんだ、優成を責めてるんじゃなくて……。
俺、優成を悲しませたことにショックを受けたんだ。
今まで隣に優成がいるのが当たり前すぎて、少し離れただけで、心に……ぽっかり穴が空いたみたいだったんだ」
俺は、胸に手を当ててあのときの気持ちを思い出していた。
あの日、俺から離れていく優成の悲しそうな背中が、今でも忘れられない。
──優成に悲しい思いさせたくない。
──いつも隣にいてほしい。
「俺にとって優成は、誰にも変えられない存在なんだって気づいたんだ」
「世利……それって……」
優成は少し困惑しながらも、どこか期待しているような顔で俺を見つめていた。
優成が聞きたいことはわかっていたけど、俺はそれを遮るように話を続けた。
「それと優成、もう一つ聞いてほしい話がある」
「なに?」
「昨日、レイチェルと話をしたんだ」
「………………は?レイチェル?」
俺の告げた内容に、優成は目を丸くして驚いていた。
まさか、ここでレイチェルの名前が出てくるとは、思ってもみなかったんだろう。
「それがLINEの返信をしなかった、理由のひとつなんだけど……」
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