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名もなき土へ花を
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遊郭で働く遊女や男娼達には、お盆とお正月以外に休みは無い
しかし、自分を『買う』事で休暇を獲る者もいる
今日はシャイロックが自身と私を『買う』事で獲た休日だ
こういう日は、シャイロックが気の向くままに私と戯れる
私はシャイロックと貝合わせをして遊んでいた
すると突然、シャイロックが「今日は、お墓参りに行きましょう」と私に言った
「お墓…ですか?」
「ええ。普段は立ち入り禁止の場所ですが、そろそろ花を手向けに行こうかと」
いつもは女物の華やかな着物を纏っているシャイロックが、結い上げた髪を下ろして男性的な着流しに着替え、私を連れ立って妓楼が建ち並ぶ通りを悠然と進む
途中で花売りの少女から花を買い、少し先にある茶屋でシャイロックと共にお団子を食べた
目的地へ辿り着く頃には、日もだいぶ傾いていた
「此処が、お墓?」
「ええ。墓石も墓標も無く、ただ積まれた土の下に彼等、或いは彼女達が埋められています」
酷く寂しいその場所は穢れているとされ、普段は近く事を許されていないが、偶に出入りが許可される日がある
誰かが置いていったのか、控えめに供えられた花だけがこの殺風景な墓地に彩りを与えている
「おや、ヒースクリフも来ていたようですね」
「ヒースが?」
「此処にはヒースクリフとシノのお母様達が埋葬されていますから、彼等も時折この場所を訪れるのです」
「ヒースとシノのお母様達が…!?」
「ええ、まだ幼い二人を遺して亡くなられました」
「どうして…?」
「梅毒です。とても恐ろしい病ですよ」
シャイロックの話によると、この遊郭には梅毒などの病で亡くなる人や劣悪な環境により、自ら命を絶つ者が後を絶たないのだと言う
あらためて私は、自分が置かれている環境に背筋が凍る思いがした
私は、懐から簪を取り出してぎゅっと握り締めた
その日の夜、かなり遅めの夕食を摂っているとネロが心配そうに声を掛けてきた
「顔色悪いな。大丈夫か?」
「…ネロは、この街で亡くなられた方を見たことがありますか?」
「…ああ、しょっちゅうみてるよ」
「…このまま、この街から出られなかったら…私も…」
「心配すんなって!あんたはとびきり可愛いんだから、身請けしてくれている男なんざ何処にでもいるさ!」
敢えて明るく振る舞うネロの気遣いに、私は涙を堪えた
「よお。辛気臭ぇ顔してやがんな」
突然、背後から現れたブラッドリーに私の体は猫のように跳ねた
「ははっ、子猫が一丁前に何悩んでやがる?」
「てめえ…そもそも、てめえが晶をこんな店に連れて来ちまったのが原因だろうが!」
「心配すんなよ。こいつに客がつかねぇなら、俺様が可愛がってやるからよ」
「…ブラッド…てめえ、表出ろ」
「お?やんのか?」
「上等だ!てめえの頭に良識ってモンを叩き込んでやる!」
私は、そんな2人のやり取りをぼんやりと眺める事しか出来なかった
しかし、自分を『買う』事で休暇を獲る者もいる
今日はシャイロックが自身と私を『買う』事で獲た休日だ
こういう日は、シャイロックが気の向くままに私と戯れる
私はシャイロックと貝合わせをして遊んでいた
すると突然、シャイロックが「今日は、お墓参りに行きましょう」と私に言った
「お墓…ですか?」
「ええ。普段は立ち入り禁止の場所ですが、そろそろ花を手向けに行こうかと」
いつもは女物の華やかな着物を纏っているシャイロックが、結い上げた髪を下ろして男性的な着流しに着替え、私を連れ立って妓楼が建ち並ぶ通りを悠然と進む
途中で花売りの少女から花を買い、少し先にある茶屋でシャイロックと共にお団子を食べた
目的地へ辿り着く頃には、日もだいぶ傾いていた
「此処が、お墓?」
「ええ。墓石も墓標も無く、ただ積まれた土の下に彼等、或いは彼女達が埋められています」
酷く寂しいその場所は穢れているとされ、普段は近く事を許されていないが、偶に出入りが許可される日がある
誰かが置いていったのか、控えめに供えられた花だけがこの殺風景な墓地に彩りを与えている
「おや、ヒースクリフも来ていたようですね」
「ヒースが?」
「此処にはヒースクリフとシノのお母様達が埋葬されていますから、彼等も時折この場所を訪れるのです」
「ヒースとシノのお母様達が…!?」
「ええ、まだ幼い二人を遺して亡くなられました」
「どうして…?」
「梅毒です。とても恐ろしい病ですよ」
シャイロックの話によると、この遊郭には梅毒などの病で亡くなる人や劣悪な環境により、自ら命を絶つ者が後を絶たないのだと言う
あらためて私は、自分が置かれている環境に背筋が凍る思いがした
私は、懐から簪を取り出してぎゅっと握り締めた
その日の夜、かなり遅めの夕食を摂っているとネロが心配そうに声を掛けてきた
「顔色悪いな。大丈夫か?」
「…ネロは、この街で亡くなられた方を見たことがありますか?」
「…ああ、しょっちゅうみてるよ」
「…このまま、この街から出られなかったら…私も…」
「心配すんなって!あんたはとびきり可愛いんだから、身請けしてくれている男なんざ何処にでもいるさ!」
敢えて明るく振る舞うネロの気遣いに、私は涙を堪えた
「よお。辛気臭ぇ顔してやがんな」
突然、背後から現れたブラッドリーに私の体は猫のように跳ねた
「ははっ、子猫が一丁前に何悩んでやがる?」
「てめえ…そもそも、てめえが晶をこんな店に連れて来ちまったのが原因だろうが!」
「心配すんなよ。こいつに客がつかねぇなら、俺様が可愛がってやるからよ」
「…ブラッド…てめえ、表出ろ」
「お?やんのか?」
「上等だ!てめえの頭に良識ってモンを叩き込んでやる!」
私は、そんな2人のやり取りをぼんやりと眺める事しか出来なかった
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